第5話 ローランドはガラが悪い

 俺はローランドへと足を踏み入れ、足元の汚い道を歩いていた。


 ゴロツキたちは俺が通りかかるだけで視線を向けてくる。

 友好的な視線ならよかったのだが……どう見ても、俺のことをカモか何かだと認識している、薄ら笑いを含んだ卑しいものだった。


「おい、兄ちゃん?」

「はい。何でしょうか?」


 一人の酔った男がフラフラと俺に近づいて来る。

 あー……やはり絡まれるのか。

 ちょいと面倒だなぁ。


「金、持ってるか?」

「まぁ……今日の飯代ぐらいは」

「ははは。そうかそうか。俺の酒代はあるのか」

「いや、あんたの酒代じゃないから。俺の飯代だからね」

「だーかーら。俺の酒代、だろ?」


 ひひひっと気色悪い笑みを浮かべる酔っ払い。


 ブルーティアで頭を切り落とすのは簡単だと思ったが、それをするのはマズいだろう。

 絡んで来たこの男だけではなくて、数人の男が俺に近づいて来ていた。

 一人殺せば、連鎖的にこの村の人たちともやり合いになって殺して回ることになる。

 できる限り人を殺したくないと考えているのに、大量殺人なんて余計御免だ。


 だったら殴って終わらせるか?

 いや、素手で喧嘩に勝つ自信はない。

 じゃあ逃げるか?

 ……マーフィンまで?

 それも御免だ。


「うーん……」


 俺は腕を組んでどうすべきかを思案していた。

 すると男は俺の態度に腹を立てたのか、急に声を荒げる。


「てめえ! 舐めてんのか!?」

「いやいや。舐めてなんかないよ。どうするべきか考えていただけだよ」

「そんなの簡単だ……てめえは黙って金出せばいいんだよ!」


 男は拳を振り上げ、今まさに俺を殴ろうとしていた。

 俺は咄嗟にブルーティアに手を伸ばす。


 あれ? 大量殺人待ったなし?

 そんなことが頭を過った瞬間だった。


「やめて!」

「ペ、ペトラ……」


 可愛らしい声は俺の後ろから聞こえてきた。

 そこにいたのは、肩まで伸びている桃色の髪に、綺麗な碧眼を持つ可愛い女の子。

 女の子らしい服を着ていて、その上からエプロンをつけている。


「その人に手を出したら、もうお酒、出しませんからね」

「……わ、わかったよ」


 男は俺の顔を見て舌打ちし、その場を離れていく。


 助かった。

 殺さないで済んだ。

 

 俺は安堵のため息をつき、彼女の前に立った。


「いやー、助かったよ。ありがとう」

「いいえ……あの、この村の人じゃありませんよね」

「うん。俺はアルベルト。みんなにはアルって呼ばれてるから、気軽に気安くアルって呼んでくれていいよ」

「アルさん……私はペトラです」

「ペトラか。容姿と同じで可愛い名前だね」


 ボッと顔を赤くするペトラ。


「か、可愛いとか……そんなことありませんよ。そ、それで、アルさんはなんでこの村に来たんですか? こんなところ……来る理由なんてないでしょう?」

 

 ペトラは周囲の人々に視線を向け驚くぐらい暗い顔をした。

 まるで絶望でもしているみたいな……すでに諦めているような、そんな顔。


「実はマーフィンから来たんだけど、色々あって、マーフィンじゃ生きにくくなってね」

「生きにくいって……ここよりはましじゃないですか?」

「マーフィンよりはまし……だとここに来るまでは俺も思ってたよ」


 周囲を見渡し、俺は嘆息する。

 汚らしいし、ガラが悪い人ばかり。

 これは失敗したかなぁ。


「……あ、宿の場所教えてくれない? どっちにしても今日はここに泊まることになるだろうし」

「宿ですか? あるにはありますけど……やめておいたほうがいいと思いますよ。あんなところに泊まるぐらいなら、うちの倉庫の方が全然ましです」

「じゃあ、倉庫借りてもいい?」

「そ、倉庫をですか? ……冗談のつもりで言ったんですけど」


 ペトラはポカンとし、まぶたをパチクリさせるが話を続ける。


「冗談でしたけど……倉庫の方がましまで本当にありそうなので、必要ならいいですよ。あんなところで良ければですが」

「あ、じゃあ頼むよ。あまりお金も無いから寝床を貸してもらえるならありがたい」

「は、はあ……」




 ◇◇◇◇◇◇◇



 ペトラに連れられて俺は倉庫にやって来た。

 

 木造作りのせまい所で、掃除をするための箒があり、酒が入った樽がいくつか並んでいる。

 床は案外綺麗で、ここで寝ることに対して不快感はあまりない。


 表の酒場でペトラは仕事をしているらしく、「何かあったら来て下さい」と一言だけ俺に告げ、店の方へと去って行った。


 俺は床に腰をかけ、ブルーティアのステータスを開く。


 これから生き延びていくために、楽に戦うためにはブルーティアの強化が必要不可欠。

 そのために効率よく成長させたいと考えた俺は、役に立ちそうなスキルがないだろうかとチェックする。


 すると好都合に、【成長加速】というサポートが見つかった。


 成長加速:本来よりも少ない経験値で成長することができる


 という物だった。

 俺は迷うことなく、それを選択する。


 これは剣などと同じくスキルレベルがあるようなので、今持てるポイントを全振りして3まで上昇させておく。


 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


 神剣ブルーティア・ソードモード

 FP:17

 攻撃力:9

 防御力:9


 スキル 剣2

 サポート 収納 自動回収 成長加速3


 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


 成長加速……どれぐらい効果があるのだろうか?

 まぁ、今までより少しでも楽に成長してくれればそれでいいや。


 俺はその時、その程度ぐらいにしか思っていなかったが……この後、ブルーティアは信じられないような進化を遂げていくのであった。

 

 そんなこと夢にも思っていなかった俺は、呑気にさっさと眠りについた。

 まだ太陽が沈んだばかりだというのに。

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