第7話 アルは仕事をする①

「おはよーペトラ」

「あ……おはようございます。本当にあそこで寝れました?」

「ああ。よく眠れたよ。倉庫貸してくれてありがとう」

「い、いえ……」


 次の日の朝、俺はペトラの店に出向いた。

 ここも木造の建物で、店に入って正面奥にカウンターがあり、店内にはテーブルが4つ並べられている。 

 外観こそボロボロではあるが、掃除がよく行き届いていて清潔感溢れる店だった。

 カウンターの左側の壁には、掲示板のような物があり、何枚かの紙が張り出されている。


「……え? ここってギルド?」

「あ、はい。一応程度ではありますけど酒場と兼用でやってます。壊滅的にギルドとしては機能していませんが」

「ふーん……」


 紙を見てみると、彼女の言う通り、一応ギルドとしての欠片というか、なんとか体勢を保っているというか……その証拠とでもいうかのように、簡単な仕事だけが貼っている。


「あー……食事って用意してもらえる?」

「はい。ありますよ」


 俺は4つあるカウンター席のうちの左から二番目の席につく。


 ペトラはさっと調理を済ませ、よく焼いたウインナーとパンを出してくれた。

 俺はこれにかぶりつきながら、話をする。


「素材を売りたいと考えているんだけど、この村で素材の買い取りしている店ってどこにあるの?」

「え……そんなところありませんよ」

「え……」


 食べる手が止まる。

 ペトラはカウンターの中で木製のコップを洗いながら続ける。


「この町ではまともな仕事がありませんから、道具を買うお金がないんです。売れないから道具も取り扱わないし買い取らない……酒もほとんどツケばかりで、いつ閉めようかと考えているぐらいなんですよ」

 

 大きなため息を漏らすペトラ。


 そんなにひどい状態なのか、この村は。


「それに町の北の方では悪党ばかりが集って、みんなに迷惑をかけていて……もうメチャクチャなんです」

「ふーん」


 貧乏でガラが悪い上に迷惑をかける悪党集団の出現、か。


 ペトラの顔を見たらわかる。

 もう終わりだ。もうこの村に未来なんてない。

 そう思っているのだろう、暗い表情で洗い物を続けていた。

  

 俺はパンを口に放り込み、掲示板に貼っている仕事を確認する。

 

 『グリーンリーフの納品 500ゼル』


 ゴクリとパンを飲み込んで、ペトラに訊ねる。


「なあなあ。俺をここの専属冒険者にしてくれない?」

「せ、専属って……こんなところで冒険者なんてやっても意味なんてないんじゃ……」

「でもさ、他に行く当てないし……とりあえず、お金が欲しいんだよ」

「はぁ……まぁこちらとしては全然かまわないんですが……」



 ペトラは「本気?」みたいな目で俺の顔を見ながらも、手続きをする。


 彼女はこちらに両手を伸ばし、集中しだした。

 

「【鑑定サーチ】」


 ペトラの眼がキラリと光る。

 俺の情報を確認しているのだろう。


 次に彼女はあらかじめ机から取り出しておいた、『ギルドカード』と呼ばれるものをに両手を当てる。

 淡い光が手から発せられ、カードが反応していた。


「どうぞ」


 ギルドカードを差し出すペトラ。


 ギルドカードとは、そのギルドに所属する者にあたえられる、言わば冒険者証明書のようなものだ。

 サイズは手のひらに収まる程度。


 背面には、俺のステータスが表示されている。



 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


 アルベルト・ガイゼル

 ジョブ:神剣使い

 レベル:2

 HP:8 FP:2

 筋力:4 魔力:3

 防守:2 敏捷:4

 運:5


 スキル 調理4


 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


 うん。酷い。

 ブルーティアはドンドン強くなっているというのに、俺の能力は依然として低いままだ。

 昨日までと比べればレベルは1上がっているけれど……

 それでも酷い。

 

 ペトラも俺の弱さに驚いている様子だった。

 わかるよぉ。うんわかる。

 こんな奴仕事できるのかよ、って思うよね。

 実際、大したことないから仕方がない。


 だけど今はブルーティアがあるから安心しておくれ。

 今なら結構、仕事できると思うよ。


「ま、なんとかなると思うよ」

「と、とにかく、死なないようにだけ気をつけてくださいね……」




 ◇◇◇◇◇◇◇




 ローランドに来る途中まで右手にずーっと伸びていた森。


 俺は今そこに来ていた。

 太陽の光が程よく降り注ぎ、見通しもよい森。

 気持ちいいぐらいで、昼寝でもしようかと思うぐらいだ。


 けれど、敵がいる。

 まぁ敵と言ってもまたゴブリンなのだが。


 俺としては楽に勝てる相手で嬉しい限りだ。


 片手でブルーティアを振るいながら、ゴブリンを斬り捌いていく。

 ずんずん奥へと進んで行き、目的の『グリーンリーフ』を探す。


 それはほんのり明るみのある緑色のもので、ポーションなどの素材となる草のようだ。

 見本として現物をペトラに見せてもらっているから間違えることもないだろう。


「キィィイイ!」


 ゴブリンが当たり前のように襲い来る。

 もう何匹倒したのかわからないけれど、とにかく来るもの拒まずの精神で襲って来たゴブリンは倒して行く。

  

「…………」


 宝石が赤く光っている。

 いや、もう少し前から光ってはいたのだけれど、面倒くさいから確認はしていなかったのだ。


 どうせここで性能上げても、さほど効率は変わらないだろう。

 そんな風に俺は考えていた。


 しかしふと、【成長加速】を思い出す。

 さらにスキルレベルを上昇させておけば、もっと強くなりやすいのではと思い、俺はブルーティアのステータスを開く。



 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


 神剣ブルーティア・ソードモード

 FP:50

 攻撃力:25

 防御力:25


 スキル 剣2

 サポート 収納 自動回収 成長加速3


 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


「……はっ?」


 開いた口が閉まらなかった。


 急成長している。


 まだそんないうほどゴブリンを倒していないというのに……

 これが成長加速の効果……?


 俺は驚きと喜びに混乱しながら、ブルーティアを強く握り締めていた。

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