薬局
暑い上にわたしをうしろに乗せているせいか、きよこは黙りがちだった。
わたしは部屋で押し倒されたときのことを考えていた。
あのときのきよこは、いつものきよこじゃなかった。
きよこはどんどん男になってくのかな。
こころまで男になっちゃったら、それはもうきよこじゃなくなっちゃってるんじゃないのかな。
きよこじゃないならなに?
きよし? きよひろ? きよのぶ?
「たみこは考えすぎなんだよ」
まるでわたしの考えを読んでいたみたいに、きよこがいった。
「きよこが考えなさすぎなんだよ」
「うん。でもうちは頭悪いけどバカじゃないよ」
「同じじゃん」
「同じじゃないよ」
「そーか」
「そーだよ」
「あ、ストップ。ここ信号渡って」
「うん」
駐輪場はお店のすぐ前で、日陰になっていた。
中に入ると、感染防止の店内放送と、ひんやりした風がきよことわたしを出迎えた。
「あー。天国じゃー」
しばらく目を閉じて冷気を浴びて、ふと横を見たら、きよこが大口を開けて深呼吸をしていた。
「なにやってんの」
「熱中症対策だよ。こうしたら、体の奥まで冷えるじゃん」
マスクをつけた主婦が、こっちをチラ見しながら出ていった。
きよことわたしはあわててマスクをした。
客は案外多かった。わたしたちは店内をうろうろして、ゴムのある棚を見つけた。
きよこが小声で聞いた。
「どれにする?」
「いちばん安いのでいいよ。きよこ、お願い」
「なに?」
「近所の人いたらヤバいから、レジ持ってって。お金は渡すから」
「ええぇー」
「お願い。まじでたのむ」
「ええぇー」
「アイス買っていいから」
「たみこのおごりね」
「うん」
アイスのほかに、あぶらとり紙とゴミ袋(切れそうだったので)をかごに入れた。ゴムの箱を隠すのにちょうどいい。
きよこが棚の向こうに見えなくなってすぐ、声だけが聞こえた。
「あ、セルフレジあるじゃん!」
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