シャワー

 わたしはきよこといっしょに、排水口へと流れていく謎の白い液体をながめた。


「『いっぱい出たね』ってほんとにあるんだね」

「え? どういう意味?」

「人体の神秘って意味」

「ふーん」


「痛くなかった?」

「だいじょぶ。気持ちよかった」きよこは落ち着いた声だった。

 これじゃ逆だ。


「ならよかった。力の入れ加減がわかんなかったから」

「でも、なんか変な感じ」




 元気よく胸を張っていたちびきよこが、わたしの手の中でどんどんしおれていくさまは、ひまわりが枯れていくのを見るようで、悲しくて、さびしかった。


 それはひとつの死だった。




 バスルームを出ると、きよこは「じゃあ、借りるね」といってわたしのパンツをはいた。


「え、ブラ着けるの?」

 さっき脱いだやつだから、うちにきたときから着けてたってことだけど。


「うん。だって変でしょ」

「いや、その……胸、ないのに着けるほうが変じゃない?」

「胸ないほうがいいよ。部活のときとか真剣に思うもん。トキタせんぱいとか見てたら、まじつらそうだし」

「ふーん。トキタせんぱい知らんけど」

「レシーブのときとかボールよりはずむよ」

「そっかー」


 きよこは後ろ手にホックを留めながらいった。

「知ってる人に会ったら、男ってバレたらヤバいし」

「いや、あんたの胸とか誰も見ないし」

「着けたほうが、なんか安心だし。

 …………たみこ、おトイレ貸して」

「いーよー。

 …………ちょっと待って。汚さないでよ。踏み台、どこにあるかわかんないんだからね」


「だいじょぶ。手で持つから」


「うん。それがいい。そうしな」


 きよこはこっちを向いて、うれしそうに笑った。


「たみこが触ったから、きたなくない」


 わたしはイエスさまか。

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