トイレ

 話しやすいかと思って、わたしはきよこを部屋につれてった。


 おやつにも牛乳にも手を着けず、きよこは床に体育座りで、ひざの上に顔をうずめてつぶやいた。


「病院でずっとがまんしてて、家着いたら速攻トイレいったんよ」

「うん」

 わたしはベッドの上から相槌あいづちをうった。


「そしたらさ…………いきなりおしっこがありえないほう飛ぶんだよ?

 壁とか天井までかかっちゃってさあ。あれってまじでなんなの?」


「マ? 天井? なんかすごいな」


「うん。でさ、しょうがないから拭くしかないでしょ。天井とか届かないから踏み台持ってきてさ。踏み台をね、わざわざ物置まで取りにいったんよ。うちの物置の場所、知ってる?」


「うん。しらねーよ」


「階段の下の物置だよ。びしょんびしょんのトイレ出て、階段のとこまでいってー、戸ー開けてー。中、電気ないから暗いんだよ。でも懐中電灯とか取りにいってる場合じゃないじゃん。それで手でこうやって探してー、あ、階段の下だから天井が低いからさ」


 これだから女の話は…………と思ったけどわたしは黙ってうなずいた。


「やっと見つけて、取って、でまたトイレまで戻るじゃん。踏み台置いて、登ったわけよ。そんで、やっと拭こうと思って、手を伸ばしたら、しずくが髪にたれたんだよ?

 どう思う?」


「うわー。この世の地獄だね。てかそれ、おしっこするとき手で押さえればよかったんじゃね?」


「えっ」

 きよこはこの世の地獄を見たような表情をしたあと、ぜったい無理の顔でいった。


「無理。ぜったい無理でしょ。たみこできる?」


「えっ……。だって自分の体でしょ? じゃないの?」


「あ」きよこはぽかんと口をあけた。

「…………そっか。やっぱきよこ、シライシとやったんだ」


「は?」


「だから平気なんでしょ」


「しらん。なにそれ」


「まじで? まじでやったの? ねえちょっとあんた、まじでごまかさないでよ? ごまかしたら承知しないからね」

「やあーっってぇなあぃいー。やってません。なんでいまそんな話になんの。きよこもしかして妬いてんの?」


「なんだそれ? まじムカつくんだけど。いっとくけどうち、知ってるんだからね。去年の臨海学校んとき、シライシとふたりっきりで夜中抜け出して」


「あれはデマ。見たわけじゃないんでしょ」

「だって、キムラとトッシーが見たって」

「はぁーもーうざ! なんなん? うざいよ?

 やめやめこの話」


 きよこはふたたびひざに顔をうずめた。

「もうやだ……死にたい……」

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