キッチン
「ちょっときよこ……あんたそれ……なに隠してんの」
「隠してないよ」
嘘つけ。
きよこはまた、両手で絶対防御姿勢をとっていた。
「ほら。いいから出して」
「かくしてなーいー! やめて! たみこ!」
「いーいーかーら! ほら」
でも、きよこのほうが力が強い。本気でガードされたら、わたしが両手で引っぱってもきよこの片手さえびくともしなかった。
「わかったよ。もういいから。とにかく上がって、なんか飲も」
きよこはむすっとして、ようやくわたしのあとをついてきた。
キッチンに入るとき、中をのぞいてようすをうかがった。
「親は? まだ帰ってこれないの?」
「うん。出国許可が下りないんだって」
タオルを取ってきて渡したら、きよこはフードを下ろして頭と首すじをごしごしと
「牛乳でいい?」
きよこはうなずいて、前を隠しながら椅子にすわった。
牛乳は、いつもの小鳥のマグカップじゃなく、涼しげなガラスのコップについだ。自分には麦茶。
「はいどうぞ」
いまは、むりじいしても意味ない。北風より太陽になったほうがいい。といっても、外の気温を考えたら北風のほうが気持ちよさそうだけど。
きよこはマスクを取り、汗をかいたコップをひと息で空にして、いつもの「たみこんちの牛乳はおいしいねー」(うちで作ったわけじゃない。きよこのお母さんと同じスーパーで買ってる)のかわりに、こういった。
「ロココってさ、処女と童貞しかかからないってほんと?」
「え……そんな話聞いたことないけど。てかそしたらきよこのお父さんとお母さんはどうなるん」
きよこはいま飲んだ牛乳に虫でも入っていたような顔になっていい直した。
「ちがった。恋愛できない人がかかるんだった」
「いやーそんな病気ないでしょー。てか答になってなくない?」
「あるよ。エイズ……? とか」
「いやエイズは
「おなじだよ」
「いやちがうじゃん。だから答になってないって」
「いやだからロココは
「あー、そーゆーこと?
……いやいやないわ。だって病気だよ?」
「病気だからうつるんじゃん」
「は? 意味わからん」
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