きよこブスリたみこ

桑昌実

玄関

★このお話に出てくるウイルスは架空のものです。だから性質や症状や感染拡大対策は現実のウイルスに関するものとはちがいます!★


★縦組みだと、表示が乱れる部分があります。内容的には問題ありませんが、横組み表示がおすすめです!★






 玄関のチャイムが鳴ったので、ドアスコープからのぞいて見たら、魚眼レンズの向こうに、空色のパーカーを着た幼馴染おさななじみが立っていた。


「きよこ?」


 ドアを開けると、きよこは黙って入ってきた。


「どした?」


 このご時勢だからマスクはわかる。けど、この暑さなのに、フードをすっぽりかぶっている。

 前かがみにうつむいて、ポケットに突っ込んだ手ですそを引っぱって、なんだか体を隠したいみたかった。


「きよこ。どしたん」


 きよこがひとこともしゃべらないので、わたしはもう一度名前を呼んでみた。

 なんとなくようすがおかしくて、きよこじゃないような感じだった。


「………………たみこ」


 ようやく聞けたその声は、不自然に低くて太かった。


「声、どしたの。風邪?」


 きよこはふるふると首をふった。

「お父さんも、お母さんも、マサトも入院した」


「えっ? まじで? …………まさか」

 きよこはうなずいた。「うん。ロココだって」


 えええええええええええええええええええええー?


「あ、でもきよこは陰性だったんだよね?」

 じゃなかったら、きよこも入院させられてたはず。

 わたしは動こうとしないきよこの手首をつかんで引っぱった。


「とにかく、中あがろ? 汗もふこ?」


 あれ? きよこの腕……すじばってる? っていうか、がっしりしてる?


 きよこがぼそっといった。

「うち、死にたい……」


 もー、しょーがないなー。

 わたしはきよこをハグして、よしよししてやった。


 汗くさ!

 きよこのにおい。


 でもきよこはいつもとちがって両腕を固く閉ざしたままで、わたしを受け入れようとしなかった。

 そして。


 あれ?(笑)


 あれれれ?(笑)


 なにこれ?


 もともときよこのほうがわたしより背は高いし、バレー部だから筋肉質ではあるけど。


「きよこ、背え伸びた?」

 あと肩幅、広くなった?

 んなわけあるかーい!


「たみこおおぉおぅおぅ……」

 きよこは牛のような鳴き声をあげながら、ようやくわたしのハグに応えてくれた……のはいいんですけど。


「ちょっ? えっ? きよ……なんか」


 なんか、わたしのおなかのあたりに、硬い物が当たってるんですけど?

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