第8話びーさん
「正解は18歳の無職です。半分の嬉しいは無職なのに大学生と言われたことです。悲しいのは老けて見られたことですね」
「18歳も20歳も大して変わらないだろう」
「いや、僕にとっては大きいです。凹みました。かなりです」
「じゃあ僕からも質問」
「どうぞ。『物書きさん』」
もうすでに僕は片足を突っ込んでいる。関わってしまっている。そして『タカリ屋さん』は『薫君』と言わず『物書きさん』と言った。これは好奇心からの取材だ。
「まず、この車はどこに向かっているのか?そこにはどれぐらいで到着するのか?そこで何が待っているのか?そして一番聞きたいことはさっきの言葉だ。『僕の力が必要』の僕の力がなんなのか?以上だ」
「順番に答えますね。僕の家に向かってます。あと十分ぐらいで到着します。もちろん帰りもお送りします。何も待ってませんね。そして『言葉』です」
え?『言葉』?僕は『物書きの端くれ』であって『物書き』ではない。それは商業として小説を出版していないのに自分で自分のことを『小説家』と言う恥ずかしさからくるもので。さっきも『タカリ屋さん』から『物書きさん』と呼ばれた時に恥ずかしい気持ちを持った。照れるとかじゃなく、小馬鹿にされてるのでもなく、僕自身の価値観から。そして十分後。庭付きの一軒家に到着した。
「ご主人様、おかえりなさいませ」
「ああ、母上殿。ただいまです。お客さんの薫君です」
「あらあら。こんにちは」
混乱しながら僕は応える。
「こんにちは」
「では、お車は私が。でもどうしましょう。聞いておりませんでしたのでおもてなしの準備をしておりません」
「ああ、大丈夫です。薫君はそんなこと気にしませんので。ですよね」
「あ、はい。おかまいなく」
『ご主人様』?『母上殿』?この二十代後半ぐらいに見えるかわいらしい女性、しかもメイド服を着ている方は『タカリ屋さん』のお母さんなのか?でも、もうこの短時間で何が起こってもそれが現実だと信じられる感覚に僕はなっている。ラインメモ帳に書き込みたいことがどんどん増える。『母上殿』と呼ばれる女性が先ほどまで僕らが乗っていた車に乗り込み、車庫入れを始める。大豪邸ではない。でも都内に庭付き一戸建て。窮屈そうにならんだマイホームに一軒だけ。ちょっと大きな田舎の一軒家みたいな感じ。
「じゃあ行きましょう。鍵は開けっ放しでいいです。『母上殿』がすぐに入ってきますから」
『タカリ屋さん』の後に続き、『タカリ屋さん』の家にあがる。二階建ての一軒家。玄関にはご丁寧にスリッパ。
「『タカリ屋さん』さあ」
僕の言葉をさえぎって『タカリ屋さん』が言う。
「『物書きさん』にご説明しなければいけないことがたくさんあります。聞きたいこともたくさんあるでしょう。まずは僕の部屋にご案内します。そこで話しましょう」
そう言って『タカリ屋さん』は「ついてきてね」と言わんばかりに、僕に背中を見せながら歩き始めた。僕は黙ってついて歩く。玄関から廊下を歩き、階段を上り二階へ。二階にはドアが五つ。その一つを開けて中に入る。そしてその部屋にエレベーターがあり。『タカリ屋さん』がボタンを押して数秒、エレベーターのドアが開く。エレベーターには『2』、『1』、『B1』のボタンが。地下室があるのか。『B1』のボタンを押す『タカリ屋さん』。会話はない。そしてエレベーターのドアが開く。地下室はまあ、テレビで見たこともあるし。都内は土地が高いから部屋数を確保するために地下室を作るのだろう。エレベーターから降りて、目の前に廊下と五つのドア。廊下を『タカリ屋さん』の後に続いて歩き、一つの部屋に入る。またエレベーター。『B2』、『B3』のボタンが。さすがに僕は口を開いた。
「ちょっと待って。『タカリ屋さん』さあ。これは地下何階まで続いてるの?」
「三階までです。そうですね。珍しいかもしれないですね」
エレベーターのドアが開く。二つのドアと短い廊下。
「ここが僕の部屋です。もう一つはトイレです。トイレは各フロアにないと困りますからね」
そして『タカリ屋さん』の部屋の中へ。部屋の中には自販機が。いろんな種類のコーラがある。一番上の段は赤いコーラばかりが並んでいる。もう僕は驚くことに慣れてしまっている。
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