第7話クルクル

 これらのツイートは直前にされたものだった。『タカリ屋さん』は少なくとも車の運転をしていた。確かに『タカリ屋さん』が『脱がし屋』の中の人ではないことは証明された。でも、『脱がし屋』の中の人が複数人であったら。そんなことも頭に浮かぶ。


「今はツイッターも予約投稿が出来ます。でも『脱がし屋』の中の人はその機能は使わないみたいですね。それと『脱がし屋』の中の人は一人です」


 『タカリ屋さん』は本当に心が読めるようだ。でもこれも『シチュエーション』。そして『脱がし屋』は先ほどのツイートのように『誹謗中傷』だけをターゲットにしているわけではない。ネット社会での『匿名』を脱がす。IPアドレスだとかそういうネットでの住所を何らかの方法で入手しているのだろう。それに情報提供者もいると思う。『脱がし屋』アカウントの『DM』はそういった役割も果たしているのだろう。『タカリ屋さん』が続ける。


「あと、二十歳ぐらいの大学生ですか。うれしさ半分悲しさ半分ですね。あ、すいませんが後部座席にジュースを冷やしてますので。コーラをとってもらっていいですか。薫君も好きなものをどうぞ」


 後部座席を振り返ると小型の冷蔵庫が。よくコンビニとかアマゾンで見る『あたたかい』『冷たい』みたいなやつ。電源は車に詳しくない僕でも分かる。シガーソケットと呼ばれる部分からコードが伸びている。それにしても『タカリ屋さん』はコーラが好きなんだなあ。僕をは身を乗り出して小型の冷蔵庫のドアを開ける。僕も好きなものを飲んでいいと言われたのにコーラしか入っていない。確かに銘柄は違うものもあるけど。すべてコーラだ…。カーブで態勢を崩しそうになる僕。


「あ、大丈夫です。炭酸は振ってもクルクル回転させれば噴き出すことはありませんので。僕は赤いやつをお願いします」


 『タカリ屋さん』の言葉にはいろんなが詰まっていた。


・態勢を崩しそうになった僕よりコーラの炭酸のことを気にしている


・『タカリ屋さん』は赤いコーラが好みである可能性が高い


・炭酸は振ってもクルクル回転させれば噴き出すことがない


 僕は三番目をあとでラインメモ帳に書こうと思った。あと、『タカリ屋さん』がそういう人だというのが分かってきた気もした。


「はい。赤いコーラ。僕は黒いやつをもらうよ。お金は百三十円でいいね」


「本当に薫君は真面目ですね。そういう真面目は好きですよ。じゃあ後でそのコーラ代は頂きます。今は運転中ですので」


 僕は赤いコーラのタブを開き、『タカリ屋さん』に差し出す。念のため、手に持ってクルクル回す。


「ああ、そうじゃないです。机に置いてクルクル回すイメージです。遠心力で炭酸が収まるんです」


 へえー。そうなんだ。左手を並行にし、右手でコーラの上の方を持ってクルクル回転させる。プシュ。コーラは噴き出さない。『タカリ屋さん』に赤いコーラを手渡す。そして僕は自分の黒いコーラを強く振ってみる。そしてクルクル。プシュ。泡が噴き出したので僕は急いで口を飲み口にくっつけてコーラをこぼさないようにする。


「薫君は本当に面白いですね。もっとクルクルを強くしないとだめですよ。遠心力が足りてなかったんです。ちゃんとやれば噴き出しません」


 確かにあれだけ振ったにも関わらず噴き出しは例えるなら『弱』だ。僕はいろいろな経験をしている。そして『タカリ屋さん』は相変わらず飲んではげっぷを繰り返す。


「それで正解は?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る