8.8
「お前が消えた後、広場は大混乱になった。試練の挑戦者がお前を探そうと町中に散ったんだ。俺とつくもはマリナに居場所を聞いていたから町の裏側から森に出ようとした。見つかるとマズいから時間を置こうと一度つくもの家に戻ろうとしたんだ。そうしたら、おそらく俺達があそこに出入りしてるのを知ってたんだな。二人組の挑戦者がつくもの家を襲撃している所に遭遇して……つくもがキレてそいつらに向かっていっちまって……二人とも捕まるのはマズいから俺がお前を迎えに来たんだ」
「そんな……つくもを置いてきたのかよ!?」
「ああ見えてあいつはタフな奴だ。それに今最悪なのはお前が見つかることだ。あいつは討伐の対象じゃないんだから殺される事はない」
そう言いながらもリストの表情は浮かなかった。俺は気が気ではなかった。
「早くあいつの家へ向かわないと……」
「だけど町にはお前を狙ってる奴がうじゃうじゃいるんだ……危険すぎる」
「だからってここにいたって追っ手に見つかるだけだ。今行く場所はあそこしかない!」
「だがその道中が……」
「私が撹乱しましょうかぁ」
切迫した空気の中、口を開いたのはマリナだった。
「できるのか!?」
「さっきのグリフォリアを森の方に出せば敵をそっちにおびき出せます。央真様が乗っているように思わせられれば数分は持つかと」
「それだけあれば十分だ」
作戦はすぐに決まった。マリナは町の入り口に向かい、俺とリストは森を進んで町の裏側に出た。立ち塞がる塀に沿って歩いて行くと、一ヶ所だけ崩れかけて人が通れるくらいの穴の開いた所があった。
それからまもなくして、高く響き渡る鳴き声とともに、遠くの空高く魔獣が飛ぶのが見えた。それを合図に塀の穴をくぐり抜けると、そこはエルフェリータの裏道だった。そんな場所に抜け道があることに驚きながら、マントを目深く被ってつくもの家へ急ぐ。
幸い作戦がうまくいっているようで、道中は誰ともすれ違わなかった。つくもの家に着くと、すでに襲撃者は立ち去った後なのか、不自然なほどに人気がない。俺達は店に駆け込んだ。
店の中は酷い有様だった。棚は倒れ、そこにあった商品は床に散乱している。何かの薬品が漏れ床に広がっていた。そこに赤い物が混じっている事実から無理やり目を引きはがし、奥へと向かう。住居の方も襲われたらしく、扉が壊されて倒れかけているのが見えた。
「つくも! どこだ!」
最悪の想像が頭によぎる。血の気が引くのを感じながら一つ一つ部屋を見て回る。台所の方から物音が聞こえたので飛び込んだ。
「つくも!!」
「……あ、央真さん。無事だったんですね」
彼女の様子は無事とは言い切れなかった。額からは血が流れていたし、所々擦りむいていた。だが傷には無頓着のようで机の上の干し肉を噛み切っていた。
「いやー、バトッてたらお腹空いちゃいまして」
その様子を見て俺は床にへたり込んだ。
「良かった……生きてて」
「魔界の人はそう簡単には死にませんよ。人間じゃあるまいし」
リストも気が抜けたように椅子に腰を下ろした。
「だけどその様子だと激しくやったみたいだな」
「まぁウチを荒らされてカチンと来ましたからね。幸いお母さんは仕入れでいなかったですけど。掴み掛かってこの前の小型爆弾お見舞いしてやりました。央真さんはどこだって言うからそんなヘタレ人間知らないって追い返しましたよ」
「誰がヘタレ人間だよ……」
つくもはやりきった顔で二つ目の干し肉に歯形を付けていた。
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