第8章 魔王と策略の襲来に
8.1
宙を漂う塵が朝日に照らされて光の道筋を示している。その中に手を伸ばして指輪をかざす。俺はベッドに腰掛けながらそこに嵌め込まれた赤い石を眺めていた。
かつては薄汚れた石に過ぎなかった王石が今やほとんど煌めく宝石の装いだ。改めて観察してみると本当に不思議な石だ。見た目こそ荒削りだが、その表面は絶えず光を反射させて輝いている。その反面、透き通るような石の内部はまるで液体で満たされて流動しているようにも見える。いったいどんな物質でできているのだろうか。
だが今の俺にとって重要なのはその目を引く宝石部分ではない。その表面にほんの少し残された外殻の部分なのだ。本当に一部分だけなので、これならいっそ無理にでも剝がせるのじゃないかと爪を立ててみたが、まぁそんなにうまくはいかなかった。
やっぱり試練を突破しないと駄目だ。それが閻魔大王との約束だったし、ここまできて偶然ポロリといったってそれはそれで今までの努力が報われない気がする。だがのんびりともしていられない。もし間に合わなければ本当にここまでの努力が全て無駄になってしまう。
おそらく達成すればいい試練はあと一つ。ただ残された時間は七日ほど。試練に失敗して次の試練が受けられなくなったらその時点でアウトだ。今まで以上に慎重に試練を選ばなくてはならない。計算したわけでもないのに本当にギリギリのラインだった。
俺が最後の試練に向けて静かに闘志を燃やしていたところに、それを吹き飛ばす勢いでドアがさながら爆発音を立てて開いた。
「おっはようございまーす! 央真さん起きてますか? 起きてますね。そんなお腹を壊した死神みたいな顔してないで顔洗って来てください!」
どうやら魔界にはノックという文化がないらしい。気が抜けてしまった俺はドアの耐久性に感心しながら部屋を後にする。つくもは俺の部屋から慌ただしげに飛び出して、そのまま自分の部屋に向かった。そういえばこの家に居候を始めてしばらく経つが、つくもの部屋の中は見たことがない。いつも彼女に入らないよう釘を刺されていた。ドアを閉めようとしていたつくもが俺の視線に気付いて、警戒するように首だけを隙間から出した。
「この部屋は立ち入り禁止ですよ。どうしても入りたかったらノックしてください。そうしたら……立ち入り禁止です」
ノックの文化はあるようだったが、生憎機能はしていないみたいだった。
「乙女には秘密が沢山あるんです。たとえ央真さんでも覗き見たら生きて帰しませんからね」
「お前のどこが乙女だ」
俺は飛んで来た椅子をかわして朝食の席に向かった。
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