6.6

「やっっっったぁーーー!! やりましたね央真さん!!」

 重い体を引きずって二人の元に戻って来ると、待ちかねたようにつくもが飛びついて来た。てっきり抱きしめてくれるのかと思ったら、そのままドロップキックをかまされた。

「ぐっほぉ!? 何故蹴った!?」

「その打たれ強さ! さすが央真さんです!」

 ばしばしと背中を叩かれて残っていた力が枯れていく。呆れ顔で見ていたリストが肩を貸してくれた。

「ホント、さすがだよ。まさか本当に魔女に押し勝っちまうとはな」

「作戦勝ちさ。……二度とやりたくはないがな」

 俺がこの作戦をやりたくなかった理由。それはもちろんこの顔で女の子を脅すなんて方法だったからだ。今まで何もしなくたって多くの人に恐がられてきた。それを自分から進んでやるなんてまっぴら御免だったのだ。

「まぁ今回だけは良かったってことにしろよ。お前の指輪も喜んでるみたいだしさ」

 言われて指輪を見ると、確かにいつもの発光が始まっていた。そういえばこれは試練だったのだと思い出しているうちに、王石の外殻が剥がれ落ち始めた。

「さすが魔女……功績も一流みたいだな」

 それはほんの一部の外殻を残して赤い宝石がほぼ姿を現していた。どうやら腕を引き千切られたり体を半分ミンチにされたのも無駄ではなかったらしい。

 気分も晴れやかに意気揚々と帰ろうとした三人をか細い声が引き止めた。振り返るとしおらしく立ちすくむマリナの姿が目の前にあった。いつの間にか放心から返っていたのだ。

「うおっ!? な、なんだ」

「あの……今日はありがとうございました。……私、自分がまだまだ未熟だということを思い知りましたぁ……」

「い、いや、マリナは十分強かったと思うぞ、うん」

 俺は途端にしどろもどろになりながら答える。決闘が終わった今、彼女とどう接したらいいのかわからなかった。彼女は決闘中の殺気が嘘のようにしゅんと肩を縮こまらせている。

「いえ、私は全然敵いませんでした。それに、今回戦って、生まれて初めて心底恐怖したんです。自分は誰にも負けないと思ってたのに、私、恐ろしくて恐ろしくてたまらなかった。どうしようもなく未熟な新人です……。でも、それで確信したんです。この人はいつか、いつかきっと魔界を統べる魔王になる人だと……!!」

「は? ……え!?」

 予想外の展開に進みつつある話についていけない俺を置き去りにして、マリナは頬を朱に染めて熱っぽい視線を向けて来た。

「あぁ、決闘に敗北した私はもうあなたのもの……魔女として誠心誠意あなたのしもべとなり付き従います! ずっと家の元で過ごしてきた世間知らずな私に世のことを、覇道を、どうぞ教えてください。そして魔王になるその日まで、あなたにお仕えさせてください。ねぇ、央真様」

 そしてマリナは蠱惑的な微笑みを残して、その場から消えた。

 つくもとリストの方を見る。何故だか二人とも目を合わせてくれなかった。

 無言の三人の中に爽やかな風が吹き荒ぶ。

 俺は勝利と共に、とてもおもーい何かを背負ってしまったことを薄々感じ取っていた。

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