5.7
数秒の浮遊感を味わう。足の裏に堅い感触を確かめると、そこはすでに元の試練の間だった。目の前にはまだ苔の残った試練の石碑が建っている。
「……ワープ、成功……」
リッカは小さくVサインを作った。俺はそれに同じくⅤサインを返して、礼を述べる。気付けばもうお開きムードが流れていたのだが、ただ一人、つくもだけがぐずついていた。
「うぅう……リッカちゃん、もっと私とお話しましょうよぉ……」
「ほら、年上のお前がそんなんじゃしまんないだろうが」
「だってリッカちゃんこれからひとりぼっちなんでしょ……?」
そんなつくもの様子に影響されたのかはわからないが、リッカも名残惜しげな表情で佇んでいた。俺はもう一度彼女の方に向き直る。
「なぁ、試練が終わったらもう俺達はリッカがいるところには行けなくなっちゃうのか?」
「……うん。『
「……。それじゃあ、リッカ。たまに俺達の所に遊びに来ないか?」
俯いていたリッカは不思議そうに顔を上げた。俺は精一杯恐くないような表情を作る。
「リッカが誰かとまた話したくなった時でいいよ。どうだ? リスト、つくも」
「あぁ、俺は大賛成だぞ」
「それ最高です央真さん! 人間でも良い事思いつくんですね!」
なんか棘のある言い方だな……。しかし当のリッカは狼狽えていた。どうすればいいかわからないといった様子だ。
「……でも……外は…………こわい」
「……実は俺も魔界には来たばっかりでさ、恐い思いもちょっとは……いやかなりしてるけど、でも少なくとも俺とリスト、まぁついでにつくもなら安心だと思うぞ」
「……ほんと?」
「あぁ」
彼女は三人を見比べるようにしてしばらくの間考えて、それから小さく頷いた。
「お兄さんは……とっても顔が恐い…………。でも、お母さんが信用したから……私もそうする……」
「またお母さんの話聞かせてな」
「じゃあ…………たまに」
「やったぁ! リッカちゃん待ってるからね!? 絶対来てね!?」
「つくも興奮するな。怯えてるぞ」
リッカに抱きつこうとしたつくもの首根っこをリストが引っ掴んで止めた。
「えっと……、また……」
「あぁ。またな」
「リッカちゃん絶対絶対来てくださいね!」
彼女は先ほどよりも幾分か安心したように表情を緩ませて一歩下がった。
「ありがとう……顔が恐いお兄ちゃん…………」
「あー、最後に言っておくが、俺は顔が恐いお兄ちゃんじゃない。央真だ」
「…………わかった……。ばいばい、央真にぃ」
そう呼ばれた瞬間、俺の心臓を何かが貫いた。動悸が止まらない……なんだこの胸の奥底から迸る感情は!
「あー!? 央真さんズルいです! 私も!! 私もつくもねぇ、って!! つくもねぇ、って呼んでリッカちゃん!!」
「………………………………や」
リッカが消え去るのと、つくもが膝から崩れ落ちるのは同時だった。
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