5.3

 扉を開けると、ベルの代わりに吊るされていた五つ首のカエルがグァグァと来店を知らせた。

「はいはぁーい! 今手が離せないから空いてるとこ適当に座っちゃってー!!」

 リストは慣れた様子ですでに席を目指していた。彼は時折かけられる声に挨拶を返しながら店の奥の方へと向かっていく。その後ろに着いて行きながら店内を見渡す。

 そこは喫茶店というよりもどちらかというと酒場を思わせる雰囲気だった。ジョッキを交わしている獣がいれば、片隅で力比べをしているのもいる。しかし、かと思えば黙りこくってチェス盤みたいなものの前で唸っている者もいるし、巻紙を広げて何かのチェックを黙々とこなす小動物もいた。なんとも自由な場所だった。

「なんだぁ、リストか。そんなにしょっちゅう来て飽きないねーキミも」

「何を言っているんすか。ティアさんに会えるのなら毎日だって来ますよ」

 普段より三オクターブくらい声を低くしたリストの前に、グラスが置かれ水が跳ねた。俺の前にも同じものが置かれる。水が零れるのも一緒だ。

「はいはい。金さえ払ってくれりゃあティアちゃん河童でもメデューサでも歓迎するわよー」

 ティアと呼ばれたその人はかなり長身の女性だった。動きやすそうなスカートの上にエプロンとコルセットが一体になった物を身に着け、そのすぐ上にある大層な膨らみのせいで座っていると顔が見えないほどだった。そのぱっちりとした瞳の上には長い睫毛が天井を目指している。長く真っ赤な髪を後ろで一つ結びにして、騒がしい店内でも響く快活な声をしていた。

 彼女はリストを軽くいなしながら次いで俺の方にも目を向けた。

「おっと、見ない顔だね。一度見たら忘れなさそうな面だけども」

「初めまして央真です。……俺を見て怯えたりしてないですね」

「客見て怖がってちゃこんな店やってらんないわよっ。バケモンばっかなんだから。でもキミはウチに来た中でも七本の指には入るね。何モン?」

「あぁ、俺は最近魔界に来た人げ……」

「あーーーー!! ティアさん! いつもの! いつものお願いします!!」

 露骨にごまかしたリストに彼女は怪訝そうに片眉をあげたが、忙しいのかすぐにカウンターの方に戻っていった。リストはというと、うっとりとその揺れる後ろ髪を眺めていた。彼女が厨房に消えると、熱い視線を俺に移した。

「な!?」

「いや、何が『な!?』なんだ」

「美しいだろ?」

 察しが悪いな、という視線を向けられる。もちろん彼が言っているのはカウンター席の熊が吐いてる虹色の吐瀉物ゲロのことじゃないだろう。彼は赤毛の彼女に相当入れ込んでいるというわけだ。

「さっきから言ってた期待しててもいいぞ、と、超オススメな理由はわかったよ。……確かに美人だな」

「美人なんてもんじゃない。魔界で一番美しい女性だよ。魔界中探したってあんな美貌は無い。……惚れてもいいが譲りはしないぞ」

「いや、お前全然相手にされてなかったじゃねぇか……」

 それでも夢想にふける彼の前には輝く摩天楼が広がっているようだった。愛する者との虚栄の未来が見えてしまうのは、悲しくも人間も魔物も一緒か。

「彼女はドルティアさんって言ってな、この喫茶『フィフィ』のオーナーだ。甲斐甲斐しくこの店を一人で切り盛りしてるんだ」

「じゃあ彼女も魔王か……。ん、ドルティア?」

「本名がそうなんだ。……ただ絶対本人の前でその名前で呼ばないでくれよ? いいな? 必ずティアさんと呼べ。命が惜しいのならな」

 俺はリストが冗談を言っているのか本気で話しているのかわからなかった。ただ彼は至極真剣だったので俺は半信半疑で頷いておく。

 丁度近くに座っていた客の男が満足するまで飲み終わったのか、席を立つとリストの角を持って軽く揺さぶった。いつものことなのかリストもその客を小突き返すと、男は陽気に笑って店を出ていった。

「リストはこの店の常連みたいだな」

 その客の背中を目で追いながらそう言うと、彼は額に巻いた布を整えながら頷いた。

「まぁな。この町に来てからは……というかティアさんに会ってからだな。よくここで時間を潰してるよ。出るモンもそれなりにマズくはないし」

 うまくはないのか……。喫茶店である以上味で勝負してもらいたいところだが、まぁどのみち人間の舌に合う物はなかなか出てきそうにないので構わないのだが。

「でもさ、ここでくつろげるってのが俺にとっては一番大事なことなんだ。エルフェリータは訪れる町としてはいいけど、住む町としては気難しいところがあるからな」

「訪れるのは良くて、住むのが……どういうことだ?」

 彼は躊躇ったようにしばらく指で机を鳴らしていたが、それでも小声でポツポツと語り始めた。

「エルフェリータはさ、魔界では珍しいくらいに平和な町なんだ。治安が悪いのが通常ぐらいな魔界で、しかも魔王城が近くにあるってことを考えればもっと殺伐としててもおかしくない。まぁ平和なのは仕切ってくれている魔王のおかげがでかいんだけどさ。その他に住民の目が大きいんだ」

「住人の目? 町の人達の対応ってことか?」

「あぁ。ここの人達は旅人には優しい。物資やら情報やら人材やら、色んなものを運んできてくれるからな。ただ、ここに住もうとなると、途端にその目は厳しくなる。一度怪しい者を身内に引き入れちまうと、安定した生活が軒並み奪われちまうのをよく知っているんだろうよ。魔界じゃあ子供だって女だって、どんな姿をしていたって『平穏』なんてヤワなもの、小指一つで崩せるのが当たり前だ。だから誰だってわけのわからない奴は迎え入れたくないんだな」

 その口調には単に情報というだけでなく、何か経験を含んだものがあった。俺が気付いたことに彼も気付いたのだろう。そのまま彼はこの町での身の上を話し続けた。

「俺は昔、訳あってしばらくこの町に滞在しなきゃならなくってさ、数日くらいならわけなかったんだけど、少し経つと段々と扱いが悪くなってきた。俺が滞在の理由を明かさなかったのもあるんだが、酷く怪しまれてな……。どこの店に入っても大概対応してくれなくなった。パンのクズ一つだってくれりゃあしなかったよ」

 聞いているうち彼の話に、ただの身の上話以上の共感を得ている自分に気付いた。どの店に入っても、向けられるのは厄介ごとを起こさないでくれという酷く迷惑そうな視線。歓迎なんて程遠い、帰って欲しいと願うあの視線。

「そんな時に会ったのがあいつだよ、つくも」

 彼は額の皺を緩めてその名前を呼んだ。

「あいつは俺の身の上話を聞いて、それから二、三言葉を交わしたらもう俺の腕を引いて走り始めてたよ。一人合点してどうにかしてやる、って意気込んでさ」

「それは……目に浮かぶな」

 俺は彼女になし崩し的に家に引きずり込まれたのを思い返す。

「つくもは性格に難ありと言ってもここの生まれだし、エルフェリータの魔王とも仲がいい。だから顔だけは広いんだよなぁ。あいつは俺の素性なんて知りもしないのに、あの人は安全だ、なんて言い歩いて……。そしたら段々と町の人からの目も和らいでさ。それからだよ、あいつとつるむようになったのは」

 あいつはこれまでも似たようなことをしていたのか。本人はたぶん善行をしたなんて意識はないんだろうが、それでも人を救っているという事実は認めないといけないかもしれない。なんだかんだで俺も助かっているんだし。

「ま、だけどあいつは厄介事をやっつけてくれる代わりに倍の厄介事を持ってくるからな。トントンとは到底言えねぇのが辛いトコだ。あいつのおかげでどれだけ酷い目にあったことか」

「それは身に染みてわかる……今日一番共感してるぞ……」

 リストはまた下駄のように笑うと、指を俺に向けた。

「そこで央真、お前だ。つくもが連れてきたってことは、おそらく、いやほぼほぼ厄介事なんだろう。……ただあいつがお前の応援をしてるってんなら、なんとなく信用はできる。訳ありなんだろうってのもな。だから手伝ってやるってわけさ」

「リスト……」

「それにだ。お前は閻魔大王から命じられて試練を受けてるんだって? それで王石を開放したら褒美、だよな。……本当にそれだけか?」

 彼は一瞬、視線を鋭くして俺を射る。

「お前、まだ隠してることあるだろ」

 その言葉が何を指しているかがわからず、しかし胸によぎるものはあって言葉がつかえた。リストにはバレているのか? 俺が生き返るために試練を受けているということを。俺が人間界に帰るという目標は、なるべくなら知られたくない。つくもに知られたら全力で邪魔されそうだし、魔界が嫌で試練を受けているなんて知られたら、助力なんて望めないだろう。

「なぁ、閻魔大王の褒美って……何貰うんだ?」

 俺が二の句を継げない様子を見て、リストは鋭い目つきを一転させた。肩を緩めて背もたれに体を預けた。

「わーってるって。訳ありだってのはな。俺はそういうのには敏感なんだ。……ただ俺は面白そうなオハナシが大好きだ。だからいつか話せる時が来たら教えてくれ。俺へのお返しはそれでいいよ」

 俺は感謝するべきなのか謝るべきなのか、それとも取り繕うべきなのか判断に困った。幸いにも丁度ティアさんがテーブルに近づいて来てくれたおかげで、それには答えを出さずに済んだ。

「はーい、いつものね。ティアがいうのもなんだけど、たまには他のモン食えば? リスト飽きない?」

「ティアさんが丹精込めて淹れてくださったものに飽きるわけないじゃないですか。今日も素敵な仕事をしてますね」

 いつもより四オクターブ低くなったリストの台詞が終わる前に、彼女はカップを二つ残して次のテーブルに向かっていた。

「……リスト、あれ脈無しじゃないか?」

「恥ずかしがってるだけだよ。シャイなのさ」

 勘違いイケメンが言いそうなセリフ上位に入ってそうなことを臆面もなく言い放った彼の表情は穏やかだった。

「俺が町中で白い目で見られていた時にも変わらず迎えてくれていたのがここフィフィとティアさんでさ。彼女は客を一人も差別せずに迎えてくれる。その時からここに通ってるんだ」

 確かに、周囲から圧をかけられているときに一人でも普通に接してくれていたら、その人にコロっといってしまっても不思議ではないだろう。それを除いたってあの人は目を引く美人なんだし。

「ティアさんはシャイで物静かなタイプだからね。あんまり話してはくれなかったけど、俺を認めていてくれていたのは伝わってきたよ……」

 ……それ、完全に眼中になかっただけじゃねぇかな。

 そんな気持ちに心の中で蓋をして、俺は冷める前に目の前のカップに手を付けることにする。

「あれ、砂糖のポッドがないな。ティアさん忘れたかな……?」

 その手のひらに収まりそうな小さなカップには濃い琥珀色のコーヒーが注がれていた。量からしてエスプレッソだ。

 リストは砂糖のポッドを探して、机の周りを見渡している。俺は別にブラックで構わなかったので、そのまま口を付けた。

「ん!? なんだこれ!?」

 一口飲み込むと、異様な香りが鼻を抜けた。まるでミントの芳香剤を原液で飲んだみたいな匂いだ。

「お、おい! 央真お前何やってんだ!?」

「何ってコーヒーを飲んで……」

「なんだコーヒーって!? それはゲルナの涙だぞ!?」

 それが何か聞く前に、喉元に違和感があった。その液体がどこを流れているかわかるくらい流れた所が急激に冷えていくのだ。それが胃に届く頃には、今度は喉が収縮していくような錯覚に襲われる。

「ゲルナの涙ってのは砂糖に一滴ずつ垂らして混ぜて食うもんなんだよ! そのまま飲む馬鹿がいるか!?」

 そんなこと知るかよ!?

 そう言いたかったが舌がブルブルと痙攣し始めて声が出せなかった。ガタガタと震え始めた手でジェスチャーでどうすればいいのか聞いていみたが彼は手の付けようがないといった様子だった。

「それは少量なら精神興奮剤なんだ。食べると気分が良くなる。ただ直に飲んだことなんてないからどうなるかなんてわからん。死にはしないと思うが……」

 舌の震えが収まってくると、恐ろしいことに今度は目が回ってきた。視界が揺れ、脳みそだけがバンジージャンプをしているような気分。頭の中に爽やかな風が流れたかと思うと、溶岩を流されたように真っ赤に染まり、瞼の裏にちかちかと無数の幾何学模様が飛び交い始める。

 あぁ、頭がふわふわする……なんだかいい気分だ……。

「ごめんごめーん、ティアったら砂糖のポッド忘れてたわ。ウワ、ゲルナの涙をそのまんま飲んだのキミ? バカなの?」

 目の前に六人のティアさんが見えた。その周りには様々な姿のお客さん達……まるでフィフィのパレードだ。彼女が手を振り、胸がたゆんたゆんと揺れている……。

「おーい、大丈夫かー。店で死なれちゃ困るぞー。水持ってくるかい?」

 彼女が俺の頬を何度も叩く。ティアさんは綺麗だ……。綺麗で……シャイで物静かなタイプで……本名がドルティア……あれ、これは言っちゃいけないんだっけ? 言わなきゃいけないんだっけ?

「みず、ほしいです……ドルティアさん」

 俺は朦朧とした意識の中で自分がそう言うのを聞いた。それから周囲の人たちが水を打ったように静かになったのにも気が付いた。

「……ぁんつった?」

 テーブルに衝撃が走った。すると急に思考がすっきりしてくる。どういうことかと見てみると、テーブルにナイフが刺さっていた。

それも俺の手を貫通して。

「……いいいいぃいいぃぃぃいぃぃぃっっっ!?」

 激痛は酔い覚ましの役目を終え、ただひたすらに脳を刺激し始めていた。

「テメェ……今なんつったァァァァ……ッ!? ティアのことをなんて呼びやがったァァァァ!! あぁァァァァァん……!?」

 俺が必死にナイフを引き抜こうとしている横で、彼女は次第に異形の姿を露わにしていった。赤い髪はうぞうぞと触手のように伸びていき、顔面からは鋭い蟲の脚が生え、胸には叫びをあげる二つの顔がせり出してきていた。

「私のことをドルティアとォォォ……ドルティアなんかとォォォ……」

 やっとナイフを引き抜いた頃には彼女が店中にその触手を張り巡らせていた。横を見るとリストが死んだ目で俺を見ていた。

「央真、先に外で待ってるぜ」

「えっ、それってどういう……」

 言葉の真意を問う前にリストは化物となった彼女の前に飛び出した。

「すんません!! コイツに本名教えたのはオレです!! そう呼ぶなとも教えたんですが……」

「だったらァ……教えなければいいだろォォォォォ!!」

 リストが空を舞った。彼の体は十余りのテーブルの上を猛スピードで跳び去り、窓を突き破って外に消えていった。ドラ○ンボールで見たような吹っ飛び方だった。

「リストォォォォォォォォォォォッッ!!」

 外で待ってるってそういうことかよ!? あんなダイナミック退店決めたくねぇよ!!

 ティアはゆっくりと体を動かし、俺の方に向き直る。その途中にも触手が椅子を握りつぶしていた。何がシャイで物静かなタイプだ、ゴリゴリの武闘派じゃねぇか!!

 彼女は地面を這い俺に近寄りながら悲鳴のような鳴き声を上げ始めた。

「チクショォォォォォ……あのクソ親父めェェ……可愛い可愛い娘に『ドルティア』なんて男っぽい名前つけやがってェェ……もっと女の子っぽい名前あっただろうがァァァァ……!!」

「そんなキラキラネームに悩むような理由なの!?」

 可愛い女の子どころかキングオブクリーチャーみたいな見た目になってますけど!?

 彼女はふと泣き止むと、俺の全身に触手を這わせ始めた。すぐに指一本動かせなくなる。

「キサマァァァァァ……乙女の悩みを笑いやがってェェェ……」

「笑ってはないです! 笑ってはないです!!」

「でもちょっと『軽いな』、とは思っただろォ……」

「…………ちょっと」

「キサマァァァァァァァァァァァァァァッッッ!!」

「あだだだだだだだッッッ!!」

 正直者は馬鹿を見る、いや馬鹿正直か俺は。

 全身の骨がミシミシと悲鳴をあげ、顔面に血が鬱血し始めた。ティアはますます怒りを露わにし、鉄槌が落ちる寸前だった。

「何か、言い残すことはあるかァ……」

「じゃあ、お勘定……」

 彼女は触手を一所に集めそれを振りかぶり、俺は目を瞑った。そして、

 静まり返った店内にドアの開く音が流れた。次いで来店を知らせる場違いなカエルの鳴き声。店内にいた全員が入り口の方を見た。

「ちゃーす、今外にリスト飛んできたんだけど央真さんもいませんかぁー?」

 そこにいたのはまさしく、何かの丸焼きを口に咥えたつくもだった。この状況にも全く動じずのんびりと店内を歩いてくる。

「あ、央真さんいるじゃないですか。探しちゃいましたよ、もー。勝手に出歩いちゃいけませんよ。これは首輪も検討しなきゃですね……」

 つくもは俺を見つけると散らばった椅子をまたぎながら近づいてきた。途端に俺は地面に落とされ、瞬時に元の姿に戻ったティアさんがつくもに駆け寄っていくのを見上げることになった。

「やだーつくもちゃんじゃないっ!! なんだ来るなら言ってよー!! 最近あんまり遊びに来てくれないんだからティア悲しかったわ……」

「最近おニューの服買ったらお小遣いなくなっちって」

「つくもちゃんならツケで構わないよぉ! それより探してた央真っていうのこれ?」

「そうですこれこれ。回収してもいいですか? あとでちゃんとお仕置きはしておくんで」

「いいわよー、持ってっちゃって」

 この時ばかりはつくもが天使に見えた。この際所有物扱いされたのにもペット扱いされたのにも目を瞑ろう。つくも、お前は間違いなく善人だ。お仕置きだって化け物にぶっ飛ばされるよりかは幾分マシだ。

「ほら、央真さん。試練受けに行くんでしょ? 帰りますよー」

 俺はまるで忠犬のごとく地面を這ってつくもの後を追いかけた。恐怖で腰が抜けて立ち上がれなかったのだ。俺が満面の笑みでつくもに向かっていくと、彼女もまた地面に這いつくばった俺を笑顔で見下げていた。既視感のある笑顔。背筋に冷や汗が流れた。この笑顔を前に見たのは確か俺が吊り橋に怯えているときで……。

「央真さん、やっぱりお仕置きは今済ませちゃいましょっか」

「へ、何を……」

 俺が止める前に、彼女は大声で叫んだ。

「ティアさーん、央真さんが『ごちそうさま、ドルティア』だってさーーー!!」

「つくもっ…………テメェェェェェェェェェェェェェェ!!」

 やっぱりお前は天使でも善人でもなく悪魔だ。俺はフィフィの壁に第三の出口を作りながらそう確信した。

 店外では角が平らに研磨されたリストが大空を眺めていた。俺は折れた骨がゴキゴキと修復する音を聞きながら、彼に話しかける。

「……なぁリスト。お前本当にあんなのがいいのか?」

 リストは眩しそうに輝く空を見つめていた。

「ティアさん、怒った姿も美しいなぁ……」

 どうやら、魔界でも恋は盲目らしかった。

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