4.6
「……さん! 央真さん!!」
どこか遠くから呼ばれている気がする。その声に集中すると意識が急上昇した。それと同時に全身を貫く痛みで目を覚ました。
「……いてぇ」
「そりゃそうだ。あんな爆発に巻き込まれればな。一応言っとくが、今自分の体を見ない方がいいぞ。しばらく肉が食えなくなる」
「そんなに?」
「はい! 私人間の内部構造が見られて満足です!!」
俺は目線を体に向けかけてやめた。正直全身から聞こえてくるグジュグジュという不快な音だけで吐きそうだった。
「……俺は試練をクリアしたのか?」
「あぁ、全くとんでもない方法でな。突然叫び始めた時は正気を失ったのかと思ったよ」
「あの状況じゃあれくらいしか方法がなかったんだ……。なんにせよクリアしたもん勝ち、だろ?」
「だからって自分を爆発で吹き飛ばすってなぁ……そんな発想がよく出てくるよ」
「知ってますよ! ああいうの人間の『火事場の馬鹿』って言うんですよね!?」
それじゃあただの悪口だ。果たしてそれはただの勘違いなのか、それとも俺の叫びを根に持っているのか。それでも彼女はいたく嬉しそうだった。
全身の痛みが多少和らいできたところで体を起こす。
「あれだけ大怪我を負ったのにもう傷口が塞がるとは……人間ってのは弱いのか強いのかよくわからないな」
「いや、弱いよ。この回復能力は閻魔大王がくれた指輪のオマケみたいなものだし……」
そこまで言って、ようやく本来の目的を思い出した。そうだ、俺がこんな痛い目に遭ったのは指輪の王石を解放するためじゃないか。リストとつくももそれに気付いたのか、俺の視線から退くように身を引いた。その先にあったのは俺が受けた試練の石碑だった。
目の前にそびえ立った石碑には亀裂が入っていた。それが広がり、そして見ている間にも音を立ててバラバラに砕け散り始めた。
「試練が……」
「お前が試練をクリアした証拠だ。突破された試練は跡形もなく消え去る」
試練の石碑がほとんど元の姿を失った頃、俺は指輪の異変に気が付いた。前と同じだ。内部が発光しているように王石がぼんやりと赤い光を放ち始める。けれどそれは収まることなくどんどんと輝きを増していく。
俺は眩しくともその感動の光景から目が離せなかった。これが、王石の解放。指輪が熱を持ち始める。王石がカタカタと音を立てて揺れ動き、遂に周りを覆う外殻にひびが入り、そして――そして!
何も、起こらなかった。
「……あれ? おいおいおいおい!!」
徐々に光を失っていく王石を前にして慌てる。どういうことかと目の前の顔を見比べるも、二人とも何を驚いているんだと言わんばかりの様子だった。
「どういうことだよ! 試練をクリアしたから解放されるんじゃないのかよ!?」
「どういうことって……そりゃそうだろ。試練一つぐらいじゃ」
「王石の解放は試練を何度もクリアすることで少しずつ外殻が剥がれるんですよ。言いませんでしたっけ?」
言ってねーよ! そう叫ぶ代わりに俺は地面に突っ伏した。
「俺は……てっきり一つ試練を乗り越えればいいのかと……」
「まぁ今回の試練は簡単な部類だったからなぁ。ひび入るぐらいが精一杯だろ」
あれだけ、あれだけ頑張ってひび一つ……。あれだけやって!?
「そうだな……これくらいの試練なら二十も突破すれば解放できるんじゃないか?」
「は?」
「央真さん、これからも実験動物として人間の凄いところ見せてくださいね!」
「はぁ?」
「それじゃあ、これからしばらくよろしくだな。央真」
「よろしくお願いしますね。央真さん!」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
こうして俺は初めての試練を突破したことによって、魔界がどんなに恐ろしい所かという事と、まだまだ道のりは長いという事を身を持って思い知った。
そして必ず、こんなスリルと危険とデンジャラスな世界とはおさらばしてやると固く誓ったのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます