第3章 不審と少女の案内に

3.1

 顔のすぐ横から匂いがした。雨の匂いだ。

 正確には水分をたっぷり含んだ土の匂い。雨が降った翌日の朝なんかに、公園で嗅ぐことができるような、そんな匂い。

 次に感じたのは、全身を包み込むように周りから聞こえてくる枝葉が擦れ合う音……目を瞑っていてもわかる。たぶんここは森のような場所だ。

 思いきって目を開くと、頭上の生い茂る葉の中にぽっかりと開いた穴から光が注いでいた。おそらく俺が落ちてきた時に開いた穴だろう。

 上半身を起こすと折れた枝がパラパラと地面に落ちた。多少体が重い感じはしたが動けない程ではない。どうやらまた即死して送り返されるということはなかったみたいだ。

 さて、次に閻魔大王に会った時はチョップだけで済ますべきだろうか。そう考えながら立ち上がる。周りを見渡すと鬱蒼とした木々の隙間に所々陽の光が差し込んでいた。魔界と言うからにはもっと暗くて陰鬱な所を想像していたのだが……どうやらそういうわけでもないらしい。

「しかし、魔界ねぇ……。壮大な夢だったと言われても仕方なさそうだけど……ん?」

 なんだか魔界らしい物がないかと地面に視線を向けると、明らかにおかしな物が草の分け目から生えていた。

 いや、確かにおかしな物だけど魔界らしい物というわけでもなくて……。何がおかしいかって、地面から生えているのがおかしい。魅惑的な円軌道の輪郭を描きながらそこに存在していたのはまさしく……。

「尻だ……」

 尻だった。

 しかも布に覆われながらも小振りな主張をしつつプルプルと震えている。

「マズいよぉマズイよぉ……ヤバい人見つけちゃったよぉ……」

 お尻が喋った、わけではなく、勿論草の間に隠れた胴体の方から聞こえてきている。一瞬、魔界には尻型モンスターが出るのかと思ってしまったが、草の間に頭だけ突っ込んで隠れたつもりになっている女の子がいるだけだった。残念度としてはどっちが高いかは判定に困る。

「あの、大丈夫スか……」

「ひぃえぇぇぇ!!」

 尻が飛び跳ねた。精一杯優しい声を出したつもりだったが、地面とハグを交わしたままの胴体からは絞め殺された鶏のような悲鳴が聞こえてきた。

「ごめんなさい許してください何もしてません命だけは助けてくださいお父さんお母さん先立つ不孝をお許しください私の骨は食べてもおいしくないでずぅぅぅ……」

 それはいったい命乞いなのか遺言なのか……。尻(というか少女は)うずくまったままガタガタと震えている。でも、そんな怯え方に驚く俺ではない。出会い頭の命乞いなど何百と聞いてきたのだ!!

「って、それは自慢にならないか……」

「へ?」

「いや、こっちの話。別に取って食ったりしないから頭上げてくれよ」

「本当、ですか……食べたりしませんか」

「しないしない」

「全身を一口サイズに切り刻んで食べたりしませんか」

「そんなことしないってば」

「もしかして外側だけカリッと炙ったり……」

「しないよ……」

「え!? じゃあ軽く炙ったあとに塩を付けてお酒でクイッとも!?」

「だからしねぇよ! なんでちょっと粋な食べられ方希望してるんだよ!!」

 実は恐がってないんじゃないか? キミ。

 ようやく茂みから胴体を引っこ抜いてこっちを向く少女。

 背は小さいが同じくらいの年代だろうか。洋風着物と言うべきか和風ドレスと言うべきか、和服の裾が洋風のスカートになっているようなちぐはぐな服を着たその少女は、あどけないながらもとても整った顔をしていた。鼻水に泥だらけなのを除けばだが。

「えっと、君はなんでそんな所に……?」

「その……この近くの薬草を採りに来たんですけど……なんだか恐い顔の人が全身で大自然のエネルギーを吸収されていたので、見つかったら殺されるかと……」

 かつてないほどカッコいい気絶の表現方法だった。 

「お邪魔してすみませんでした! 私は退散するのでどうぞ気兼ねなく続きを!!」

「続きを、と言われてもな……」

 気を失っていただけなので続きと言われても難しい。木に頭でも叩き付けてろという意味なら別だが。

 しかし少女からはそんな理不尽な悪意は全く伝わってこない。本当に昼寝でもしていたと思っているのだろう。これはいわゆるチャンスだ。ここが魔界なのかはよくわからないが、知らない土地というのは確かだ。この子に町かどこかへ案内してもらえば森を彷徨う事にもならないだろう。

「いや、もう起きちゃったし構わないよ。それに別に何してても構わない。もちろん君に危害を加えたりもしない」

「本当ですか!? 寛大な処置に感謝します!!」 

 少女は何度も深々と頭を下げているが、勢いが良過ぎてヘドバンみたいになっている。なんだか行動の一つ一つにエネルギーが満ち溢れているようで見ていて飽きない子だった。

「いやーでもまさかこんな森の中に魔王様がいるなんて知らなかったです」

「は?」

「この森を仕切る魔王様ですか? あ、それともここを焼き払って城を建てるおつもりとか?」

「いや……」

「じゃあアレだ! 生態系をぶち転がすのが趣味とか!」

「いやいやいやいやちょっと待ってくれ俺魔王なんかじゃないからね!?」

「ふふふ。騙されませんよ? そんな顔してー」

「……」

「またまたー」

「…………」

「え、その顔で!?」

「この顔でだよこんちくしょう!!」

 閻魔大王の言葉が若干真実味を帯びて来たのが恐ろしい。というか会話に平然と魔王という単語が出てきたぞ。

「うーん……わかった! ワケあって身分を隠してるんですね!」

「何一つわかってない! ……まぁいいか。頼みがあるんだけどよかったら近くの町に案内してくれないか?」

「侵略ですね!!」

「違う」

「じゃあ殺戮!?」

「それも違う。発想がいちいち物騒だな!!」

「まぁそういうことにしときますよ。私口は堅いんです!」

「ついでに頭も堅そうだな……」

「はい、石頭です!」

 そういうことじゃない。

「で、案内してくれるのか?」

「私も帰るところですし、いいですよ。合点承知の助!!」

「ここ本当に魔界なんだろうな……」

 長い髪を翻して歩き始めた背中を追う。これで森を抜けるのはなんとかなりそうだ。しかし森を抜けたからってどうにかなるものなのだろうか。魔界といったって「魔物が居そう」ぐらいのイメージしかないし、現状情報が少な過ぎる。

 前をひょこひょこ跳ねているつむじを見つめる。この子に色々と話してもらえれば助かるのだが……魔王だとか思われてるしなぁ。どうしたものか。

「生きてても魔王、死んでも魔王。こりゃ笑えないな」

「ん? なんですか笑い話が聞きたいんですか? それならいいジョークがありますよ! ある日、老魔女と若サイクロプスがメイドカフェに行きまして……」

「いや、それはいい」

 なんだか欠片も理解のできなさそうな話が始まりそうだったので話題を変える。少女は残念そうな顔一つせず器用に後ろ歩きをし始めた。

「それよりも君の名前を教えてくれないか?」

「私ですか? 私はつくも! この先の町にある雑貨屋『しぐれや』の一人娘です」

「じゃあ看板娘ってわけだ」

「はい! 看板看板してます!」

 なんだ看板看板してるって。つくもは元気一杯に腕をまくるポーズをしているが、生憎細い腕に力こぶはできていなかった。

「ウチの店は小さいけど品揃えが良いって評判なんですよ! ……残念ながら毒薬や拷問器具はないですけれど」

「おい、人の顔を見ながら物騒な事を言うな」

「うーん……他に魔王様が喜ぶような物があったかな?」

「だから俺は魔王じゃないって……」

 つくもはすいすいと木を避けながら腕を組んで後ろ歩きを続けている。器用なもんだ。しかし未だに魔王だと思われているようだが、魔王ってそんなに顔が知られてないものなのか? 王ってぐらいだから誰もが顔の知っている有名人(有名魔物?)じゃないかと思うのだが。

 頭に次々と疑問符を浮かべながら歩いていくうちに、ふいに周囲の草むらからガサガサと何かが動き回る音が聞こえてきた。

「おい、なんか聞こえないか……」

「あぁ。ここら辺はチョンボロマルトロニスの巣ですからねー」

「え、なんだって?」

「だからチョンボロマルトロニスです」

「チョンボロ……なんだそれ」

「縄張りを横切る動物の足を喰い千切って体内の血を吸い尽くす魔獣です」

「恐ァっ!? そんなのの巣を通って大丈夫なのかよ」

「大丈夫ですよ。自分より弱い生き物にしか噛み付きま」

 ガブリ。

「……せんから」  

 ナイスなタイミングを見計らったように、右足に激痛が走った。

「いってぇぇぇぇェェェッッ!?」

 バランスを崩して思い切り顔面から地面に倒れ込む。何かが足の皮膚に食い込んでいた。右足を見ると流れる血にまみれて、小型犬ほどもある二本足のトカゲのような生物が噛み付いていた。

 上顎と下顎両方から突き出た大きな牙をこれでもかと食い込ませ、メリメリと足の肉を抉っていく。反対の足で蹴り飛ばしたが全く離れる気配がない。

「あれ、おかしいなぁ」

「いや首傾げてる場合じゃない! アカンって! これアカンってぇ!!」 

 そうしているうちにも牙が食い込んで行き、ゴリゴリと身の毛もよだつ振動が骨に響き始めた。頭を打ち鳴らす激痛と裏腹に右足の感覚が鈍くなっていく。

「でもチョンボロマルトロニスは意外と賢い生き物で、絶対に格上には噛み付かないという習性が……」 

「俺の足! 噛まれてるなう!!」

「はい。見ればわかりますよ」 

「できれば助けて欲しいってのもわかって欲しいな!!」

 もう完全に感覚がなくなった右足を振り回すと辺り一面に血が飛び散る。穏やかな森が一気に凄惨とした殺人現場のように変わる。

「おいつくも! コイツを取ってくれないとそろそろ意識が……」

「でもこれおニューの服なんで血がつくのはちょっと」

「最近の若者は薄情だなぁ!?」

 俺も絶賛最近の若者だが、こんな真冬の朝の便器みたいに冷たくはない。つくもは血が付かないように飛び跳ねていたが、すぐに諦めたようで溜息をついた。

「仕方ないです。あとで新しいの買って下さいね魔王様」

「だから魔王じゃ……あぁもうなんでもいいから早く!」

「いいですか? チョンボロマルトロニスの神経は尻尾に集中していますから、そこを踏むことによって一時的に気絶させることが……」

「もうわざとやってるよね!?」

「よーし、えいっ! ……あれ? もういっちょえいっ! ……あれぇ? 以外とすばしっこいな……」

 ヘタクソなタップダンスを踊るように足を振り下ろすつくもから逃げるように、生物は右へ左へと牙を食い込ませたまま跳ね回っている。少しでもソイツを弱らせようと自由な方の足で思いきり蹴飛ばした。それが悪かったのだろうか。

 ふいに。

 噛まれていた足が。

 軽くなった。

 そりゃもう足がなくなっちゃったみたいに。

「俺の足ぃぃぃぃぃぃ!!」

 元々足は長い方ではなかったが、今や俺の足はそんな問題ではないような長さになってしまっていた。僅かに骨が見える断面からは噴水のように血が噴き出している。

「……えいやぁ!! よし、足取り返しましたよ!!」

 甲高い鳴き声をあげてぐったりと倒れ込んだ生物の口に容赦なく腕を突っ込んだかと思うと、つくもは俺の足を牙ごと引っ張り出した。もはや二度と地面を踏みしめる事のないであろう俺の足はピクリとも動かなかった。

「……これ接着剤でくっつきますかね?」

「くっつくわけねーだろ!! 人間をなんだと思ってるんだ!!」

 改めて喰い千切られた足を見て血の気が引いた。いや、血の気が引いたのは出血過多のせいかもしれないけど。出来の悪いB級スプラッタ映画を見ているような気分だ。

 ふいに脳裏にある言葉が浮かぶ、スリルと危険とデンジャラス。あぁ、その通りです閻魔大王。来て五分と経たずに片足がなくなりましたよ。

 ふらふらと目眩に襲われ、段々と意識が薄れていく。止血をしようにも血を流し過ぎたみたいだ。もう助かる見込みもないだろう。諦めて横たわると風が顔を撫でた。

 あぁ、なんて気持ちがいいんだ。風がこんなに気持ちよかっただなんて。足の痛みも和らいでいくようで、今なら何でも許せそうだ。閻魔大王待っていてください。今殴りに行きます。

 死にゆく現実を前に目を瞑る。だが不良に殺された時とは全然違う。清々しくて、もう痛みも感じない。

 あぁ、さようなら魔界。グッバイ魔界。思い返せばこの五分、驚きの連続だった……。草むらから飛び出た尻……喰い千切られる足…………いうほどなかったな。

 心の中で全く感慨深さのない別れの挨拶を済ませる。しかし未だ死の瞬間は訪れない。それどころか体に力さえ滾ってきた。

「あれ?」

 いい加減おかしいと体を起こす。そこで目に入ったのは予想外の現象だった。

 足が、生えてきている。

 血がこびり付いた断面、だった部分より先に傷一つない足が少しずつだが生えて来ていた。植物の成長を早送り再生しているかのように断面の中心から骨が伸びていき、生肉と粘性の液体をボウルの中でかき混ぜるような不快な音を立てて肉と皮膚が再構成されていた。生命の神秘というにはいささか気持ち悪過ぎる、R18のモザイク必須な光景だった。

「うわぁ……グロっ」

 素直に喜べない光景を前に閻魔大王の言葉を思い出す。その指輪を付けていればあの真っ白謎空間には戻って来られない。どういうことなのかと思ったらこういうことなのか。右手の指を見ると、石ころにしか見えない塊が赤くうっすらと発光していた。まるで内部の強い光が漏れているように。

 どうやらこの指輪には俺が死に瀕した時、自動的に体を修復する能力があるらしい。

 気を落ち着かせる為に一度大きく深呼吸をする。

「オーケーオーケー。つまり死んでゲームオーバーっていうのは無しなわけね。なかなか便利じゃないか」

 残機∞、というよりは自動回復って感じか。格ゲーの練習モードのCPみたいな能力だ。まぁどうせなら痛みの方も無くして欲しかったが。

 すでに感覚が戻った足を伸ばしたり揺すったりしてみたが、まるで何もなかったかのようにいつも通りの足だった。

 ふと、足を伸ばした先につくもが立っているのを見て存在を思い出す。そういえばさっきから馬鹿みたいに押し黙ったままだ。

「おい、つくも大丈夫か? 確かにこの再生シーンはちょびーっとだけショッキングだったかもしれないが……」

 しかし彼女の目線は俺の足ではなく漠然と俺自身に向けられていた。今見ている物が信じられない、とばかりに口をポッカリ開けてアホ面三割増だ。

「おーい、生きてるかー。俺は生きてたぞー」

「あなたは……」

「俺?」

 呆然としたまま人差し指を俺の方に向ける。

「魔王じゃ、ない……」

「うん、さっきからそう言ってるけど」

「魔王じゃなくて…………人、間」

「うん、さっきからそう……それは言ったっけ?」

「人間をなんだと思ってるんだ、って」

 言った? ……あー、言ったような。

 目の前でつくもは全身をブルブルと震わせ始めた。その顔からは何も読み取れないが、おそらく恐怖ではないだろう。向けられたままの指先が全身の揺れを伝達して、トンボでも捕まえるようにグラグラと揺れ始めた。明らかに何か感情の爆発の前兆だ。何だかわからないが俺の第六感は危機を知らせていた。

 ゆっくりと後ろに下がろうとしたが、足が上手く動かない。再生したばかりだからではない。その威圧感に組み伏せられているのだ。まるで蛇に睨まれたカエルの如く、だ。傍目から見れば少女に睨まれた魔王なんだが……座長、キャスティング間違えてませんかね。

 つくもは感情を抑えるように、しかし溢れ出る感情を抑えきれないように、震える声を絞り出した。

「や……」 

 焼き殺す?

「や……!」

 槍で串刺し?

「や…………!!」

 八つ裂き光輪!?

「やっ……!!」

 爆発が、来るッ……


「やっ……たぁぁぁぁぁぁーーーーーー!!」

「…………は?」

 

 つくもはその場から垂直に飛び跳ねたかと思うと、直後に地面と水平に飛び出して熱烈なハグを(というかタックルを)かましてきた。

「ほんとにほんとに人間? インゲンじゃなくて?」

「俺がインゲンに見えるんなら病院に行け」

「名前! 名前も教えてっ!」

「時ヶ崎央真……」

「じゃあじゃあ出身は? メソポタミア? アトランティス!?」

 その二つが出身の人間を捜すのは骨が折れるだろう。というか離れて欲しい。同年代の女子に、というか他人に抱きつかれる経験は始めてだったが、思ったよりも恥ずかしい。

「出身は日本、だけど……」

「~~~~ッ!!」

 つくもは一旦離れると丸々五秒は溜めて、

「イッツ! ソウ!! くーるじゃぺぇーーーん!!」

 拳を高らかに振り上げた。

 今度は俺が口をポッカリと開ける番だった。

 なんだろう、この少女に襲われると思っていた時よりも今の方が遥かに逃げ出したかった。

「きゃーテンション上がるー! 私人間大好きなんですよ! みんなは変だって言うんですけど、あの歴史から学習しない愚かさとか科学とかいう子供騙しに頼っている稚拙さとか最高に可愛いですよね!」

 安心しろ、確かにお前は変だ。どうやら魔界の世論とは息が合うみたいだな。

「私特に日本が好きなんですよ! ニンジャ! サムラーイ! チョベリバー!!」

 今どき外国人観光客だって信じていなさそうなトンデモ日本観を披露したかと思うと、スイッチが切り替わったかのように急に黙った。少し考えるような素振りを見せると、意味ありげににやりと笑った。

「ねぇねぇ、行く場所もないでしょうし……よかったらウチに」

「ご遠慮願います」

「なんで!?」

「変人の臭いがする」

「そんなはずないです! 昨日もちゃんとお風呂に入りましたよ!」

「その発言からすでに変人の口臭がする」 

「失礼な!」

 そう言いつつも口を押さえる。口臭を気にするあたり意外と乙女だった。

 確かにこれから行く場所がないのは事実だったが、初対面で種族ごと好きだと告白してくる女子を頼るのは不安が尽きない。

「でも、自慢じゃないですけど魔界の人って基本人間のこと評価しませんよ。人間だとバレたら家畜もびっくりな待遇を受けますね」

「確かにそれは自慢じゃないな……」

 この少女、戦法を変えてきた。しかしそう易々と屈する俺ではない。

「うーん、この森も広いですし、案内無しで抜けられるかなー」

 うぐ。

「さっきのなんて比じゃない魔獣も出るんだろうなー」

 うぐぐ。

「運良く森を抜けたって、どうやって魔界で生活するのかなー」

 うぐぐぐ。

「あー今夜は冷えるだろうなー」

「あぁもうわかったよ! お願いします! 君の家に泊まらせてください!!」

「よーし実験動物捕獲完了!」

「はい!?」

「冗談ですよー。それじゃあウチに向けて出発侵攻ー!」

 我が牙城はあっさりと崩された。トランプタワーでももうちょっと持ちそうなもんだ。

 魔界に来て早数十分。森を抜ける為のガイドに魔界での協力者、ついでに今晩の宿まで手に入れた。上出来と言ってもいい。

 ……だが、素直に喜べないのは何故だろうな。

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