第9話 師匠との別れ

 トレット達とホテルに帰ってくると、ドアの隙間から赤黒い液体が足元まで伸びているのが目についた。


 血だ!?ととっさに判断し、ドアを開けると室内カーペットが一面地溜まりと化している。その中央には元斉が仰臥している。

まだ微かに息がある。

「師匠!!」「爺さん」「元斉様っ」「…」

抱えて抱き起こすと、ゼイゼイと喘鳴をあげ

「麗煌か…おぅおぅ…みな戻ってきたようじゃの」ゴフ…と口元から血が噴き出す。

「師匠、喋っちゃダメだ!!誰が!!誰が一体こんな事を」

「神楽…の…者じゃ。ヤツめはジェネシスと繋がっ…良いか…麗煌」と、ウチのローブを血だらけの両手でひしと握り込み、

「なぜ…お前ら選手にはトレーナーとして

オールド世…代…が…ぜ…男…勝てないのか…な…ぜ…族を…弟が奪われたのか」

皆が沈黙の中、師匠は焦点が合わない目を

宙にさまよわせる。

「師匠…もう目が…」

コクリと頷きながらも

「麗煌…神楽は…妖かしの術を使う。式を使役するんじゃ。直情なお前の事だからの。

決して惑わされるな、冷静であれ」

「こんな時にウチのことなんか。救急車、救急車だ!トレット!!」

トレットは言下に否定する。出血量があまりにおびただしく、皆、助かる見込みがないことを悟っているようだ。

「トレット?…そうじゃガン・トレット…お前は、気さくで誰の心にもストンと入りこむのが上…手い分、少し…軽薄な…ある。敵は常に自分の中に…あると」

「それに…シャルロット…少し堅くなりすぎて返って空回りが多い、ミヒェルは独りよがりにならぬよう仲間を信じて強く…」


最期に静かに笑い

「人生はいつ何時でも苦悩の只中じゃ。

決して逃げず諦めずにに知力を振り絞り闘いぬけ。必ずや活路はある。

ココが試練の時!!めげないマ…ン!

!d(*´ω`🎀)」

ウチの胸元を握っていた手がコトリと血に沈む。

皆が悲鳴をあげ、嗚咽し、むせび泣く。

泣いても泣いても涙と怒りがせり上がってくる。


その夜…ウチ達は最も大切な人を喪った…



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る