第8話 ロンとの再会
「今日は修行は休みじゃ。かなりハードワークを強いたからの。身体を休ませるのも修行の一つ。どれ…たまには羽伸ばしてきなさい」と言いつけられた。
鈴麗の格好でいると、せっかくのオフが台無しになると思い、私服へと着替えることに。
気乗りはしないものの外へと出る。
が、気がつくと、足先が廃校舎へと向かっている。ウチは何をしてるんだ。
いかんいかん。来た路を引き返し、喫茶店へと足を運ぶ。
チリーン。季節に合った風鈴が開きに付けられていた。
「おや…久しぶりだねえ」
暗闇から声を投げかけられた。
「ココは…」(以前に…)
婆さんが姿をあらわす。
「どうして判ったかって?アンタみたいな女の子忘れられないよ。相変わらずそんな、ローブまとっちゃって男っ気がないんじゃもの。それに…」半ば呆れられたような物言いでカウンターへと促す。
「先客だよ。示しあわしてたんだろ?
注文は同じのでいいね。じゃあ勘定は後でもらうから若いもん同士でゆっくりしていきな」と言い置き、また闇へと姿を消す。
カウンターの最奥に視線を転ずると、ロンの姿が見て取れた。
「あれ?麗煌、麗煌じゃないか」
「ロ、ロン」声が自然と上ずる。
ロンも緊張した面持ちで目を合わせようとしない。あたりまえだけど。切ない。
気がつくとアイスコーヒーが置かれている。
どうしよう、後払いにされてるから出るに出にくいしと考えてあぐねていると向こうの方から口火を切ってきた。
「君に逢いたかったんだ。君は逢うとすぐに僕の前から姿をくらますし」
「いや、でも…鈴麗の事とか」
「鈴麗?君が鈴麗を気にかける必要なんかないんだよ」
「じゃあ、なんであんな手紙を…」
「手紙…何の事?」
「まって…どういう事だ」
「コッチが聞きたいよ」とロンがウチの左手首を捕らえて離さない。心臓が激しく脈打つ。
「また逃げられたらかなわないからね」
「ちょっ、ちょっと」
チリーンと風鈴の音がする。来客を告げる合図。
「お♪外見と違ってなかなかアンティークな内装でいいじゃん♪」
「シーッ声が大きいですわよ、もう少しお静かに。店員さんにつっぱねられますわよ」
「それは困る。まだ暑さには慣れてないからな。とりあえず一息つきたい」
(トレット・シャル・ミヒェルじゃねーか)
「なんだい喧しい連中じゃねえ。ま、元気があるって事は若い証拠、羨ましいねえ
今日は若い客層で賑わっててこんな日もいいか。さぁ、奥へつめとくれ」と手慣れた様子で来客を誘導にかける。
「あッ!!!!そのダサい身なりは!ユー!?
それにソコの男の子は何?もしかして手紙にあったロンって子?」
「こんな暗闇で手なんか握らせちゃって意外とスミにおけないですわね」
「い、いやコ…コレはちが…」
「否定する所がますます怪しいな」
調子が狂う。コイツラと喧嘩別れしていることですら忘れていたほどに。
「ただ、友達と会って飲んでただけ。こんな風に」と、手元にドリンクを引き寄せ、ストローで一気に飲み干す。
「あっ」とロンが小耳に囁く。「それ、僕なんだけど…」
(…え…?)コレはもしや間接…✕△□
「か、帰る!の、飲むもん飲んだしな。お婆ちゃん!勘定ココ置いとくよ!!」
「おいっ麗煌。またなのか」
「ミー達もいこうか。まだ注文前でよかったよ」と、後ろからトレット達が追いかけてくる。
「待ってよ。ユー。邪魔するつもりはなかったんだってさ♪」その口調からは悪びれた様子は微塵も伺えない。
「それにしても鈴麗も乙女ですわね。ゴリラとばかり思ってましたけれど好きな殿方の前ではあんなに」
「や・め・ろ!!!!」
「まああの状況から察するにまだまだといった所か。コレからはあたし達に相談しやすいな」
「何が相談だよ。それにウチはもう【鈴麗】じゃねーんだし見ろよこの服、この姿。コレが【ウチ】なんだよ!!」
沈黙。まずった。ついつい直情になるあまり話の接ぎ穂を自ら手折ってしまった感覚に陥る。
「SORRY。麗煌でも鈴麗でもユーはユーだ。ユーだって話し辛い過去があって目的があってココまで闘ってきたんだもんな。自分の事ばっかりで頭いっぱいになっててそんな大切な事忘れてた」
ポカンとする。
トレットの肩越しに見えるミヒェルも、シャルも「わたくし(あたし)達も、ゴメン」と
続いて謝った。フ…となぜだが思わず笑みが溢れる。
「いや、いいよ。ウチもウチでホンモノを
傷つけてるのは事実なんだし。ほんとの鈴麗はさぁ、ロンと幼なじみなんだ。そんな関係もあって、とてもウチが入れる余地はないし。それに謝るのはこの身なりのことだけで十分」
「入れる余地どころかお互い気があるようにも見えましたけれど」
「…いやいや、それはない。ないよ」
「そうかなあミーにも…」
「あたし達今日の宿はまだ定まってなかったな」
横から助け舟を出してくれた。いや、助けてほしいのか。
一同ミヒェルの図太い神経に笑いながら
「さあ、みんな帰ろう。もう陽も落ちかけてるし。師匠も喜んでくれるよ」
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