第6話  重い足取り、軽い足取り

 あれから数日、野宿をしながら街中を

練り歩いている。

「まって…あんまりに薄情ですわトレッ…」

ガン・トレットがピタリと急に足を止める。

その背にゼロ距離でついてきていたミヒェルが思わずつんのめった。

ミヒェルの衝撃を意に介さず

「わかってる。わかってるんだ。でも、

ミーが本当の正真正銘の鈴麗と大会であたっていたとしたら…なんて事を考えてしまったんだ。コイツともまた闘えただろうし」

「たとえ、鈴麗があたしたちの知らない

相手だとしても実力はホンモノだった…それだけの事だ。事実敗けているし」誰に言うでもなくミヒェルが天を見据えて応える。

「わたくしは彼女で良かったと思っていますわ。闘いを通じて学ぶことが多かったと思っていますの」

「……」

「今はまだ消化できてないことがあると

思いますが、鈴麗だって必死に今まで取り組んでいたハズですわ。自分の目的の為に手段を選べる状況になかっただけ。簡単に選手権がもらえるワケではないのは貴女ならおわかりでしょう」

苦悶の表情を浮かべる。よほどガン・トレットには堪えたのだろう。


「……つ」

「おい、あれなんだ?」と、ミヒェルが上空を指差す。

「あれは鈴麗と、あの爺さんじゃないか」

ボロボロの校舎とおぼしき建物の屋上で

2人が特訓をしている姿が辛うじて見える。

3人は旧く赤錆た校門に入り、階段を駆け上がり屋上のドアを勢いよく開ける。


「ホレホレ!対空を狙う時は必ず顔が上を向くからの。顎先のガードをワザと緩めて誘いをかけろ。自然、相手は打ち下ろしを狙ってくるから、切り返しまで頭に入れて動くんじゃ!!ダメージを喰らった場合はすぐに受け身!」

「ぐ、クソ爺ー」

「その直情と頑固さを捨てぬ限り、神楽には勝てん。頭に血が昇る時ほど冷静にならんと敗けしかないわッ」

「……」

唇や頬、両腕に擦り傷をつくりながら

懸命に挑む姿がそこにはあった。

「なぜそんなに疲れておるかわかるか?体力を消耗したくなければ必ず相手のガード越しにでも攻撃を当てるんじゃ」


コクリと頷き返した鈴麗は大振りになっていた拳や蹴りの軌道をコンパクトにまとめる。


「す、すごい。また強くなってる…」

その言葉を受け、

「ね、鈴麗だって楽して闘ってきたワケではないでしょうし、貴女が1番身近で付き合ってあげたの思いだしてくれました」

と嬉しそうにシャルロットが言いさとす。

「鈴麗、ユーの気持ちに立って考えてなかった。今から謝りに」

弾むように身をのりだすガン・トレットの肩をミヒェルが止める。

「今、謝りなんかしたらヤツのモチベーションの邪魔になる。アイツは今あたしたちの責任とも闘いながら自分と向き合って成長してる最中。肝心な時がくれば『あたし達』で謝ればいい」

「そうですわね。わたくし達も一緒に出ていったワケですしトレットだけ一人に謝らせる道理はないですわ。さあ修行の邪魔をしないように今日の宿探しにでも参りましょうか」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る