第4話 ロンより証拠

 デザートの山、山、山がテーブルに積み上げられている。ドーナツにケーキにアイスクリーム。プリンヨーグルトゼリーと何でもござれ。無彩色のテーブルがカラフルな少女漫画雑誌のように染めあげれている様は

むしろ壮大ですらある。


「…誰が頼んだんだコレ」


ハイッ。

いっせいに手が上がる。師匠まで…


「あれッ食べないんですの。とっても美味しいですわよ」優雅な手つきでドーナツを食している。様になっているのがどことなくムカつく。

「た・べ・な・い!!支払いはウチもちなんてイヤだからなっ。頼んだヤツで全部処理しろよ」

「んも〜強がっちゃて〜ユーも甘いもの好きなんじゃないの〜?仮にも女の子だよ女の子♪」手にしているのはハンバーガーだろソレ。甘くはないよソレ。


 ツッコミを入れると

ドッと笑いがおこる。ウチもお腹が痛い。

あのミヒェルでさえも口元が緩んでいる。

とても死闘を繰り広げた仲だとは思えないぐらい。いや、拳を交えてだからこその関係なのかもしれない。

思えば笑いのある生活は久しぶりだった。

こんなにも大勢での幸せなひと時。

かなりウルサイ連中だけども、

ずっと続いてくれてもいいぐらいだ。


 突然シャルが話題を切り出した。

「デザートで想いだしましたけれど、たしかに武闘家である前にわたくしたちは花も恥じらう乙女ですものね。闘いに身をやつす日々も良いですけれど…許嫁に会いたいもなりますわ」目に潤いと微かに熱っぽい表情を浮かべている。

「えーッそんな相手がいるの?」

トレットの口があんぐりと開いている。

すかさずドーナツを入れ込んでやる、処理しろ処理。

「あら。てっきり皆様方年相応のパートナーがいるものだと思ってましたわ」

(どんな基準だよ、おい)

「ワシの若い頃はのう…そりゃ」

(爺ぃ、聞いてねえよ。テーマの中心は乙女だろ乙女)

「まっミーはボーイフレンドが多いしその関係が気楽でいいから満足してるけどな」

トレットもさりげなく師匠の会話をスルーして自身の恋愛論をさもあっけらかんと答える。

「あたしは興味がない。この子がいれば」

(ひぃぃ〜ッ。AKを愛撫してる〜!?いやお前が1番相手必要だよヤベェよソレ)

ツッコミを入れるのが忙しい。

気がつくと3人の視線がウチに集中している。

「な、なんだよ」


 3人並んでニャ〜と崩れた顔。不気味だ。

「鈴麗は国にそういう相手はいないの?」

「べ、べつにアイツはそんなんじゃない」

「アイツ〜?」皆、口を揃える。どうやら共同生活が長くなると色々と影響され合うらしい。気が合ってきてるのか。

「どうやらこのロンとかいう手紙の主がそうとみた」師匠の手にはいつかの手紙が握られている。

「あっ、ちょっと師匠」

「どうやら上手くいってないようじゃな。

けれどもココも試練の時じゃ!d(*´ω`🎀)」

「そんなとこにも試練持ち出すなよ!早く返せ!」

「その慌てようはどうやらホントみたいだな。男心ならボーイフレンドで学んでるから。ヨシッ!アドバイスしてあげれるかも。ミーにも手紙見せて見せて♪」

「殿方からの恋文を覗くなんてマナーに反しますが、背徳的ですわね。フランス文学には黒と愛など背徳的な作品が多いですし」

「ちょっとココからは遠いな。スコープで視るとするか」


 やめろッー!!!!

「ん?麗煌(レイファン)?」と片目で訝しげにミヒェルが呟いた。

師匠が硬まる。

その隙をついて手紙をトレットがひったくる。

「え、これ…どういう事だよ!!ユーは鈴麗じゃなかったのかよ。なんだよこの手紙の内容は」

隣のシャルも非難する目でウチを見ている。

「…」

「スパイ稼業ならアタシの国なら大歓迎なんだが」ズレた回答だがこの場面にはあまりに

似つかわしくない。


 沈黙が降りる。


「ちッ…なにコレ。正規で選ばれた選手じゃなかったのかよ」

「ちょ、ちょっと…トレット。鈴麗にだってきっと色々とワケがあって」

「【鈴麗】じゃないんだろ!!!!麗煌って書いてるし。正規の人間でもない相手にミーは

負けたのか、毎年毎年優勝を夢見てたってのに。オマケに修行までかって出て!!」


ダンボール箱に荷物を積み入れながら言う。

動作も荒くたい。

「どうせ他人だし。教えてほしい情報は渡したんだし。グッバイ」

「お、おい待てよウチはそんなつもりじゃ…」

「世話にもなっておいて。そんな薄情ですわよ」

咎めるシャルをミヒェルが制止する。

「あたしらも世話になりすぎた。まだ鈴麗は残る試合を控えている身でもある。緊張感は大切だから、一旦出るとしよう」

「そういうことだ。じゃあね決勝せいぜい頑張って」トレットを先頭によそよそしげにシャルが、ミヒェルが、出ていく。


「すまんかったの」

「いいえ。師匠が悪いワケではありません。

一緒にいる時間があったにも関わらずウチが皆にちゃんと話してなかったから。ウチの方が皆と一線引いていた事が判ってしまっただけですから。いずれこんな日も来ると思っていましたし」

「じゃあ、その涙はなんなのじゃ」

「……!?ちょっとウチも席外します。

あ、そのデザートは置いといてください。

全部吐き出してスッキリしたらお腹空くとおもうんで」

「ワシも手伝うよ」










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