再会
先頭に立って突撃してくる騎士の勢いはすさまじかった。
防御魔法をVの字に組み合わせて展開し、当たる者すべてをなぎ倒す。
「アル、アルーーー!」
誰かを探しているようで、砦に保護した住民の中に家族でもいるのだろうか?
結界術が効果を失い、張りなおす一瞬、術の合間をすり抜けて石が騎士の兜を打つ。
面頬がゆがみ、騎士は兜を脱ぎ捨てた。
その下からは若い女性の顔が出てくる。その髪の色は俺と同じで……。そのまなざしには見覚えがあり……。
「あちゃー、そういえばそうでした」
ローリアが若干引き気味につぶやく。
「ん? どうした?」
「いやあ、ギルさんの記憶をちょーっといじったときにですね、触媒として片割れの記憶もいじっていたのですよ」
「……片割れってもしや!?」
「ご想像の通りですね。だって仕方ないじゃないですか。無理な魔法行使でボロボロになってる誰かさんを回復させないといけなかったですし、グラスター領の氾濫の黒幕も突き止めないとでした。黒幕がいることは間違いなくて、そうなれば危険にさらされるのは?」
「グラスターの生き残りの俺たちってことか」
「ご名答です。正解のご褒美はけがれなき美少女のk「で?」……つれないですねえ」
「姉上がすぐそこまで来ているんだな?」
「そうです。しかしすごいですね。最上級結界術をああやって攻撃に使うとか、天才ですね」
「よしわかった」
「あ、だめですよ? あの人見境なくしてますし。ギルさんの記憶が戻る時に一緒に術が解けてますから」
「……どういうことだ?」
「わたしが助け出した時からあの人の記憶が止まってるんです。記憶を失った後はエドワード殿下に保護してもらってたので問題ないですが、たぶん二つの記憶が混在してる状態ですね」
「落ち着くまで待てってことか」
ふと戦場に目をやると、暴走する姉上の背後から真っ黒な鎧に身を包んだ騎士が部下の騎兵を指揮して敵の傷をうまく広げている。
「おい……姉上の正体ってもしかして?」
「ええ、エドワード殿下の婚約者。金の騎士ディーナ様です」
「うおいっ!」
エドワード殿下は陛下の第二子で、武勇とか兵の指揮とかが天才的で、軍権を任されている。
その副官は平民出身の女騎士で、エドワード殿下すら勝てないと言われている武勇の持ち主だ。
「あー、あの二人も覚醒してる?」
「ですねー。陛下も加われば魔王級でも何とか渡り合えるでしょ」
「軽く言うんじゃない」
「……そもそも初代陛下と共に魔王を討ってますからね。わたし」
「……だな。ローリアの見立ては間違いないってことか」
「突撃だ。インペリアルアロー!」
「「おう!」」
陛下が動いた。徒士立ちの槍兵を率い、穂先をそろえて走り出す。
群れの中央まで食い込んだ騎兵はその勢いを衰えさせることなく突き進む。
所詮は魔物の群れ、軍のような系統立てた動きはできていない。
「……!?」
騎兵の側面、北側から魔力の高まりを感知した。
「ローリア、ここ頼む」
「はい、任されました。そろそろわたしにもご褒美を頂きたいんですけどねえ」
「ガンドルフに頼んで昇給させてもらうさ」
「……わかってて言ってるでしょ?」
「さあ、な!」
その一言で身体強化を完成させ跳ぶ。
「あ、お兄ちゃん!」
なぜか風を操ってローレットもついてきた。
「おいいいいいいいいいいい!!」
「抜け駆けはなし!」
「んだあああああああああああああああああああああ!」
もはやツッコミを入れる言葉すらなく、叫び声に魔力を乗せて術を発動する。
斜めに角度をつけた結界をまとわせ、スコップを振るうと、無色透明な魔弾は弾かれ川面に水柱を上げる。
着地した先は騎兵の真横だった。
飛来する魔法弾を警戒して、素早く足を止め防御陣に組み替えている。
「魔法ギルド所属魔導士、ギルバートだ! 援軍感謝する!」
一応呼び掛けておかないと相手も警戒するだろう。
「あ、お兄様!」
ローレットが俺の真横に立って能天気に手を振っている。
「ローレット! 無事か!」
「はい、おかげさまで」
ぎゅっと俺の腕を抱え込む。ふにゅんとした感触を味わう間もなく俺の眼前に剣を突き付けるエドワード殿下。
そして憤怒の表情を浮かべる、金の騎士ディーナこと我が敬愛なる姉ディアナ。
「ちょっと! うちの弟に変なことしないで!」
「おい! 我が妹のみならず、我が妻にまで何をした!」
「まだ結婚してないですぅ!」
「俺は何もしてない!」
「え? お兄ちゃん、わたしをずっと守ってくれるって約束したよね!」
「お兄ちゃんだと!? 俺だってそんなふうに呼んでもらってないのに!」
「ほら、アルバート、お姉ちゃんよ! お姉ちゃんって呼んで!」
周囲の騎兵は降ってわいたカオスな状況に呆然としている。
魔物の群れはすでに崩壊し、散り散りに逃げていた。救援という意味であればすでに成功した状態だ。
「え? お兄ちゃんこの人だれ? 結婚前から浮気してるの!?」
「ちょっと、あたしの弟に何してくれてんの? そもそもうちには妹なんていません!」
「え? この人お兄ちゃんのお姉さん? 生きてたの!?」
「生きてたのって失礼ね! ディアナ・アルト・グラスターはここにいます!」
「ディアナだって!?」
再び悲鳴が聞こえる。エドワード殿下がプルプルと震えていた。
ああ、姉上はそう言えば行儀見習いで帝都に行ってたことがあったはずで、お見合い的な意味で皇子たちとも引き合わされてたよな……。
「何よ! あんたはだまってあたしの馬になってればいいのよ!」
馬……ひどい。
「よし分かった! 望むところだ!」
いいの!?
なにやら恍惚とした表情を浮かべるエドワード殿下に周囲の騎士たちはドン引きである。
取りあえずどうしたものかと、口喧嘩を続けるローレットと姉上をどう引きはがしたものかと思案すると、陛下率いる兵がこちらに向かってきていた。
「ぬおおおおおおお! 貴様この馬の骨が! ローレットたんから離れるのだ!」
カオスさが増した。
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