援軍来る
敵は方針を換えたようで、俺が砦にとどまらざるを得ないようにしてきた。
方角とタイミングをランダムで城壁を砕くことができる強さの魔法攻撃を仕掛けてくる。
うかつに打って出ようものなら砦を破壊されるのだ。
とりあえず地面を穿って敵の攻撃を分散させるようにすることで攻撃をしのいでいる。
西側は退路に当たるのであまり地形を変えるわけにもいかない。
相手もそこを理解したのか、上位種の個体を徐々に移動させている。
「いい加減きりがないですね」
ローリアが礫を投げる。
俺が魔力で錬成したものだから数は無限だ。
「わが呼び声に応えよ風の精 我かざすは無影の刃 打ち振るいしは風の聖剣 エクスカリバー!」
ローレットの戦術魔法が叩き込まれ上位種のホブゴブリンが真っ二つになる。
大打撃を与えた術者は当然狙われるわけで、コボルトが投石してくる。
ご丁寧に先をとがらせてあり、当たり所が悪ければ重傷を負う可能性があった。
盾持ちの兵が周囲を固めて攻撃を防ぐ。
そして魔力が回復したころ合いで魔法を叩き込む。
ローレットの疲労の色が濃い。それでも今は踏ん張ってもらわないといけないのがつらいところだ。
「アルバート殿」
俺のところに来てぺこりと頭を下げるゴンザレスのオッサン、この期に及んで形式を整えるあたりがオッサンらしい。
「ギルバートでいい」
「しかし、それではけじめが……」
「俺がグラスターの公子だというのは極論すれば俺が名乗っているだけだ。とりあえず片が付くまでは今まで通りにしないか?」
「……わかった。そうさせてもらう」
苦笑いするオッサンに、俺も笑みを返す。
「で、何があったんだ?」
「ああ、それなんだが、食料があと2日分だ」
「……それだけじゃないだろ?」
「うむ、矢玉の類も明日一日持ちこたえられるかどうか、だな」
「援軍の来る見込みは?」
「西の関にのろしが上がっている。と言っても打ち合わせも何もないまま分断されたからな。おそらく援軍が到着したという合図だとは思うが……」
「来ててほしいもんだねえ」
「まったくだ」
「あああああああ、もう、うっとうしい!」
ローリアが切れ気味に矢を乱射する。
矢継ぎ早の妙技に兵たちが感嘆の息を漏らす。
矢を番え、弦を引き、放つ。その動作が完全に一定のタイミングで行われるため、ローリアの手が複数あるように見えるほどだ。
若干ぶれているのは都度狙いを変えているためだ。
「お兄ちゃん、疲れたの」
力なく矢倉から降りてくるローレット。
「お疲れさん。ローリアが奮闘してるから少し休んでくれ」
「うん、ありがと」
屈託のない笑みを浮かべられると、ここが戦場だということを忘れそうだ。
「森羅万象の息吹よ! 相反するもの相容れぬもの、斥力よ、在れ!」
飛んでくる魔力弾の属性を読み取り、完全に反発する属性の魔力をまとわせる。
最初に弾いた時よりもだいぶ少ない魔力で対応できるようになった。
「ていっ!」
スコップで川の方から飛んできた魔力弾を弾く。うまく跳ね返して敵の真っただ中に落とすことに成功した。
「すごい、すごーーーい!」
ピョンピョン飛び跳ねて拍手するローレットの精神年齢が若干下がっている気がするのは気のせいか?
「殿下はこれまで使命を果たさんと張りつめておられたからな」
「立場上はまだあちらさんの方が上なんだけどな?」
「だが無条件で甘えられる相手を見つけたわけで、これまでの反動が出ているのはありそうだ」
「あー……原因は俺にもあるのか」
「グラスターが落ちたと聞いたときは丸々一晩泣きはらして、次の日からは人が変わったように鍛錬に励むようになられた」
「なるほどね……それでよかったんだろうなあ」
「殿下は強くなられた。それは間違いない」
敵のど真ん中に落ちた魔力弾で混乱しているところをローリアと一緒に追撃している。
「むむ、やりますね小娘」
「負けないんだから!」
「ギルさんにいいところを見せるのはわたしです。はあっ!」
跳躍したローリアが眼下に見下ろした魔物たちに向けて弓を構える。
「汝らが命運、我が一矢をもって摘み取らん。レイン・オブ・デス」
弦の音は一回。だが放たれた矢はローリアの魔力をはらみ、最も敵が密集している場所の上空で弾けた。
「「「グガガガガガガガガガガアアアアア!!!」」」
100近いゴブリンとかが倒れ伏す。即座に消滅を始めるのは即死しているということで、ローリアのせん滅力は半端ない。
ふふん、と言わんばかりに胸を張るローリア。悲しいばかりにその身体に動きがない。
「むう! じゃあとっておきよ! 焦熱の光よ、我が手のひらに集え! 煉獄の風、今ここに吹き荒れん。フレイム・バースト!」
握りこぶしほどに集約され、赤熱した火球が迫りくる魔物の中心で弾けた。
砦の壁面を炙るほど熱量に断末魔を上げる暇もなく焼き尽くされていく。
そしてその日の攻勢は何とか押し返すことができた。
「負傷者の数が30人か、そろそろ限界が近いな……」
戦闘不能状態の兵や冒険者が中央の陣屋で倒れている。
当面のところ命に別状はないが、早急に治療を受けさせる必要があった。
「ポーション類も枯渇した。明日援軍が来なかったら脱出も考えなければならんな」
オッサンの表情も冴えない。
継戦がかなり難しいところまで来ている。
「脱出ってのは?」
「無論、殿下を逃がすということだ」
「だよな。ただ、問題があるぞ。非戦闘員を逃がすまで梃子でも動かんだろ」
「そうなのだ……彼らは防戦に積極的に協力してくれた。殿下もそのことについて心動かされておる」
「いっそオッサンとローレットが先陣を切って脱出を図るのはどうだ? 俺がケツを持つ」
「うむ、それしかないかと思っている。最後尾には最強の戦力を配置するしかない、お主には済まんが……」
「気にするな。無用な犠牲を出さないことが重要だろう」
今まで夜襲はなかった。今回も同じと考えるのは希望的観測が過ぎるが、警戒はしている。
もろもろのことを頭から追い出し、毛布にくるまって目を閉じた。
翌朝、爆発音で目が覚めた。
「何があった!?」
周囲で休息していた兵が飛び起きて警戒に向かう。
再び爆発音、しかも城壁の内部だ。
「報告! ワイバーンが上空を旋回、ブレスによる攻撃を受けています!」
「なんてこった」
矢の届かない高さを悠々と旋回しながら時折口を開いてブレスを落とす。
「ローリア!」
「お任せあれ。報酬はちゅーでいいですよ」
後半は照れからか棒読みになる。耳が赤い。
なおローレットは城壁に迫るゴブリンの群れに攻撃魔法を連打している。
「はあっ!」
ローリアが放った矢はワイバーンに向けて飛ぶが、向こうもただ当たってくれない。直前でひらりと身をひるがえし、矢はその至近を通過した。
「グギャアア!?」
唐突に空中で痙攣し、落下してくる。
「ふふふ、衝撃波の魔法を仕込みました」
ドヤ顔で宣言するローリアは再び矢を放ち、ワイバーンを打ち落とす。
「ちょ、こっち、もう、むりー!」
ローレットの前で騎士たちが剣を振るっている。壁に取り付かれ白兵戦が始まっていた。
「敵背後に騎兵! 皇帝の旗が立っています! 援軍だ!」
ひときわ立派な体躯の馬にまたがったリチャード陛下が槍を掲げる。
脇に控えていた二人の騎士が駆けだすと、周囲の騎兵が疾駆を始める。
「あるううううううううううううううううう!!」
ランスを脇に抱えた騎士がよくわからない雄たけびを上げ、ゴブリンを蹴散らし始めた。
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