第8話 いろいろと覚悟を決める1日

今日の俺は朝からお腹が痛かった。

それはもうお腹の中に龍でも住み着いてんじゃね?ってレベルでやばかった。

汗だって流れまくった。

脱水症状になるかと思った。


「ねぇ、おにぃちゃん。めちゃくちゃ苦しそうだけど大丈夫?」

「フフ。気にするな紗也佳。俺には原因は分かっている」

「ん?どんな原因?」

「それはな・・・今日、スポーツテストがあるんだよ!!!」


そう、今日は待ちに待ったスポーツテストがあるのである。

いや、まぁ俺は別に待っていないが。

運動が得意であれば女子にいい所が見せられるであろうおいしいイベント。

苦手であれば別にこれといって何も無いいつもの日常である。

俺はめちゃくちゃ得意というわけではないのでスポーツテストが嫌いなのだ。

スポーツが苦手というわけではないが、変に注目されるのがなんか恥ずかしい・・・。


「ふーん。まぁ、がんばってね?」

「お、おう。任せとけ」





そしていつものように花火と登校する。

だが、最近は波さんも一緒に登校することが増えてきた。


「そいや今日スポーツテストじゃん?」

「あ、ほんとだー。私根っからの運動音痴なんだよねー。桐谷くんはどうなの?そこんところ」

「俺は注目されるのが嫌かな・・・」

「その言い方だとできますなー?お主。でも、目立ちたくないなら手抜いたらいいんじゃない?」

「いや、それは出来ないんだよなぁこれが」


そう。先程も言ったが運動が得意だとかっこいいところを見せられるのだ。

ということはすなわち、テストの様子を花火にも見られるということ。

ここで本気を出さずして何が男か、桐谷 薫よ。


「まぁまぁお互い全力を尽くしましょうや!」


波さんがバシバシ背中を叩いてくる。

じ、地味に痛いです、波さん。

あと、やってることがなんかおじさん臭いです、波さん。






「では、これからスポーツテストを始める。50メートル走から順番に行っていくので準備をしておくように!」


さてさて、始まってしまいました。

俺に微笑むのは勝利の女神か。敗北の悪魔か。


「おっしゃ!!桐谷!俺はお前に運動でかーーつ!覚悟しとけやオラァ!!」

「か、かかってこいや!山田!!」


まずは50メートル走からだ。

出席番号順だから俺は結構早いかな。順番は。

ドキドキしてきたぁ。

不安から逃れたくなったのか花火をチラッと見る。

あ、覗きとかそういうんじゃないからね?

精神安定剤的な?

花火もこっちを見てたみたいで目が合うとニコッと笑って手を振ってくれる。

やべぇ。今日も可愛さ全開かよ俺の幼馴染は。

なんか俄然やる気出てきたわ。ぶっちぎってやるわ。


「次は桐谷だな。スタート位置につけー」

「はーい」


白いスタートラインに立つとクラウチングスタートの体勢をとる。


精神集中。

深呼吸。


脚の方に軽く力を加え、体幹を前方へと傾ける。


フゥー。いよいよだ。

よし、全力で走ろう。

花火だって見てるんだ。

変わったところを見せないと。

もう昔の俺じゃないって。


「位置について...よーいどん!」


その瞬間、勢いよく脚で地面を蹴り出す。

そのまま勢いを殺さないようにして体重移動を済ませる。

そしてそのまま脚を全速力で回転させ、ゴールラインへと向けて一直線に走る。

今、俺は風になってる!!多分!!





気づけばゴールラインを通り越していた。


「はぁはぁ。きっつ。先生タイムはどれくらいでしょうか?」


全力で走りすぎたせいか息がかなり荒い。

スタートのコールをしてくれた先生とは別のタイムを測ってくれるためにゴールラインで待っていた先生へと尋ねる。

ただ、先生の顔が唖然というかなんというか驚愕したような顔をしていた。しかもそれから変わる気配がない。


「あ、あの先生?どうかしましたか?」

「あ、悪い。ちょっと驚きが隠せなくてな。タイムは5.91秒。5.91だ」


すごいのかよく分からんが中学の時よりも圧倒的に速くなったな。これぞ努力の賜物ってな!

早く花火に報告しよーっと!


俺は花火たち、クラスメイトに向かって全力疾走。

そして、心ここに在らずといった感じの花火の目の前に立つ。


「花火!俺、5.91だった!すごくね!?」

「「「「・・・・・・」」」」


あれ?おかしいな。花火も含めてだけど全員唖然としてる。ん?俺、なんかやらかしたかな?おかしいな。


「はぁーーー!?!?」


ただ唯一そんな沈黙などお構い無しに騒ぐ奴がいた。


「5.91て!5.91て!お前バケモノかよ!?やっべ。やる気なくしたわ俺。もう走りたくない」


そう。隣の席の山田である。

山田のその言葉を引き金に周りが騒ぎ始めた。


「す、すごいよ!かおる!どんだけ速く──」

「「「キャーーー!!薫くんかっこいいーー!!」」」


花火が喋りきらないうちに数人の女子が俺の周りを囲む。

お、これが花火の言ってたファンクラブってやつか?

ほ、ほんとに存在していたとは・・・。


その後はなんかめちゃくちゃチヤホヤされた。

こんな経験は初めてだったから少し新鮮だった。

中学校の時がどれだけ虚しかったかすごく理解した。

ただ、花火の俺を見る目は氷のように冷たかった。

なんか目からビームが出るくらいに鋭かった。


そして50メートル走以外の種目もなんか俺だけ異常だったらしく


「もうここまできたらお前キモイよ・・・。なんだよ。キモイよ・・・」

「おい、俺がお咎めしないからって好き放題言ってんじゃねぇ」


山田の頭を鷲掴みにする。


「いたっ!いたたたたたた!!やめろ!ゴリラの握力で俺の頭蓋骨が割れる!割れるからぁ!」


スポーツテストが終わった後の体育館に山田の悲鳴がこだました。







そして、現在帰りのホームルームが終わり、帰宅中である。

ちなみに1人。

花火はなんか波さんとショッピングに行くらしい。

山田は部活に行くらしい。

他のクラスメイトはなんか誘いにくかった。

そうして気づけば見事なボッチの完成である。


(暇だな。まぁ、今日は帰って少し料理の練習でもしよう)


そう。俺は中学生の時、運動神経などを上げるついでに料理の練習もしたのだ。

おかげさまで当時ツンツンしていた紗也佳からも美味しいをもらえるまでには成長したのだ。


(なーにを作ろっかなー。紗也佳の大好物のオムライスでも作ってやろうかなー)


そうこう考えながら帰路についていると少し騒がしい声がしてくる。

不思議に思って抜き足差し足忍び足で近づいていくと


「おい!斎藤さいとうさんがせっかく遊んでやるって行ってんだ!来やがれ!」

「そうだぞ!斎藤さんに感謝しろ!!」


茶髪で髪が長く、スカートは膝下よりも長く、制服を着崩した女子が悪漢に襲われてた。


「おい!触んじゃねぇ!!あんなやつとなんかやってられっかよ!!」


その女子は必死に抵抗している。

でも、さすがに男2人の力には敵わないようで今にも組み伏せられそうだ。


(ど、どうしよう。た、助け呼んでこなきゃ)


そう思いその女子たちの反対方向へと足を踏み出そうとする。

いや、違う。この状況から逃げ出すために足を踏み出そうとした。


(いや、でも助けを呼びに行っている間にさらわれたらどうするんだ俺。今、ここでやらなきゃ)


俺はまた昔のように目を逸らそうとした。

また、危機的状況から逃げ出そうとした。

またあの時みたいに後悔するつもりなのか?

後悔してからは何もかもが遅いのだ。

なんの為に俺はここまで自分磨きをしたんだ?

大好きな幼馴染に振り向いてもらうためか?

第一はそれだ。

でも、もう一つの理由として自分を変えたかったんじゃなかったのか?

もう、あんな弱い自分にさよならをするためじゃなかったのか?


(俺はなにをやっている?助けを求める人がいるなら助けて当然。そんなこともできないやつが幼馴染を振り向かせられるわけないんだ)


俺は覚悟を決める。

大丈夫。

俺は強い。

空手も柔道も合気道もテコンドーもやってきた。


ただ、ケンカをするのが恐いだけだ。

ただ、心が弱いだけだ。

ただ、自分に自信がないだけだ。


でも、そんな自分とも今日で完璧に決別する。

いや、しなければならない。

そうしなきゃ、花火に、最近また距離を縮めようとしてくれている紗也佳に顔向けできない。


いくぞ、桐谷 薫。俺は強い。やればできる。


俺は覚悟を決め、助けを求める人の元へ走り出す。








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読んでくれてありがとうございました!

次回より新ヒロ登場させます!

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それではまた!








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幼馴染は「好き」って言いたい 気候カナタ @kokixyz

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