第6話 私の大事なお兄ちゃん
私には小学一年生の頃から一緒の大事なお兄ちゃんがいる。
名前は桐谷 薫。
すっごくイケメンで性格もイケメンで頭もいいし、運動神経もいい、天は二物どころか六物ぐらい与えてるであろうスーパー超人である。
そんなおにいちゃんだが、産まれた時から一緒だったわけではない。
お兄ちゃんが私のお兄ちゃんになったのは私が小学一年生になろうとしていた春頃である。
その日はようやく桜が花を開き始めた、まだ入学式が遠いように感じた春の季節のある日。
私と両親は3人で保育園の卒業祝いとでもいうのだろう。遊園地に車で向かっているところだった。
「そっかー。紗也佳ももうすぐで1年生かー。早いなー」
「そうですね。こんなに大きくなって」
優しくて暖かい手のひらが私の頭を撫でる。
お母さんがニッコリと私にほほ笑みかける。
「わたしね、いっぱいおともだちつくるんだ!」
「そうか、そうか。いっぱいつくってたくさん遊ぶんだぞー?」
「うん!!」
その時私は学校がどういう所かよく分からなかったが、とても楽しみにしていたように思う。
なんにでも好奇心を持つそんなお年頃だったのだ。
そんな私を見てか、両親の顔にも花が咲いた。
私もお父さんもお母さんも笑顔だった。
みんな幸せだった。
だったのに・・・。
「あなた!前!!」
お母さんの叫ぶ声が聞こえた瞬間、ものすごい音と同時に私の小さい体が車の前の座席へと叩きつけられる。
私はなにが起こったのか理解出来なかった。
いや、あんな小さい歳の女の子に理解することが出来るはずもなかった。
ただ、起きてはならないことが起きてしまったということだけは空気で感じることが出来た。
急に頭からドロッとした赤い液体が流れる。
その液体を見た後、徐々に意識が遠のいていった。
事故だった。
相手方の飲酒運転により起こった事故だった。
お母さんとお父さん、そして事故を起こした運転手は即死だった。
その事実を聞かされた私はそもそも飲酒運転がなんなのか、即死がなにを意味するのかも分からなかった。
だからだろう。私はずっとお母さんとお父さんを待ち続けた。
あの2人はどこかに用事があって出かけているだけなんだ。だからいつか必ず帰ってくる。
私は本気でそう思っていた。
でも、どれだけ待っても2人は帰ってこなかった。
「お母さん、お父さんどこに行っちゃったの?さやかをおいてかないで・・・・」
私は寂しさに押しつぶされた。辛かった。
孤独がどれだけ辛いか知るはずもない小さい子供には拷問でしかなかった。
いっそこのまま私もどこかへ行こうとも思った。
でも、こんなひ弱な体の子供じゃどこにも行けなかった。
そんな私を迎えに来たのはお母さんとお父さんじゃなかった。
「こんにちわ。紗也佳ちゃん。僕の名前は
「紗也佳ちゃん、私の名前は
男の人と女の人が私をある一軒家へと連れていった。
「さぁ、ここが今日から君の家だ!思う存分くつろいでくれ!」
くつろいでくれと言われてもそんな気分にはなれなかった。お母さんとお父さんじゃなきゃダメなのだ。ダメなんだ・・・。
突然玄関の扉が開き、私よりちょっと背の高い男の子が私の方に走ってくる。
てちてちてち。
そんな音がとても似合っていた。
「ねぇ、お父さん。この子がさやかちゃん?」
「そうだぞ。今日から薫の妹だ」
その言葉を聞いてすぐにその男の子が私をギュッと抱きしめる。
「僕がお兄ちゃんだから、絶対にさやかのことは僕が守る。だから、よろしくね。さやか」
その途端、私の目から水滴が激しい声と共に滝のように流れ出した。それはもう止まる気配がなかった。止まらなかった。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!」
寂しさを感じないために私もお兄ちゃんを抱きしめる。
もう、寂しさというものは感じたくなかった。
誰でもいいから一緒にいて欲しかった。
誰でもいいから縋りたかった。
そんな私を守ってやると言ったお兄ちゃんはすごく暖かかった。
「くっそ、あの尻軽女め。いつのまにお兄ちゃんと会っていたんだ・・・」
鬼島 花火と桐谷 薫が帰ってきた日の夜である。
私はベットの上から天井の一点を見つめる。
私はあの時のことを決して忘れない。
大好きだったお兄ちゃんが泣きながら帰ってきたあの日のことを忘れない。
あれから私は絶対に、お兄ちゃんを悲しませないと決めた。
私自身も、私が知らない他人であってもお兄ちゃんを傷付けることは誰であろうと許さない。
それが例え大事な幼馴染であったとしてもだ。
「絶対に花火ちゃんにお兄ちゃんは渡さない」
私の大事なお兄ちゃんのあんなに悲しむ姿を私はもう見たくない。
お兄ちゃんは私にとってヒーローだ。
暗闇から私の手を取ってくれた最高のヒーローだ。
そんな憧れの存在が悲しむ姿は見たくない。
だから、私がお兄ちゃんを悲しませた幼馴染よりもお兄ちゃんを支えてみせる。
幸い私とお兄ちゃんは義理で血が繋がってない。
結婚だってできる。
でも、お兄ちゃんが花火ちゃんのことを今も好きなのは雰囲気を見ていればすぐにわかる。
義理でも長い時間を共に過ごしてきたのだ。
お兄ちゃんの心なんてお見通しなのだ。
そう考えるとモタモタもしていられないのだ。
「あぁ!なんかイライラする!甘い物でも食べよ」
私はベットから体を起こし、1階の冷蔵庫へと向かう。
冷蔵庫を開けるとプリンが1つだけ残っていた。
他に甘い物がなかったので私はそれを食べることにした。この選択が甘かった。プリンだけに。
「ん!おいしいこれ」
あまりの美味しさに速いスピードで咀嚼し飲み込んで行く。しかし、そこにタイミングの悪いことにお兄ちゃんが登場する。
「お、紗也佳か。あ、プリン食べたんだ・・・」
!?!?お兄ちゃんが悲しい顔をしてる!?
そこでようやく気づいた。
(あ!!お兄ちゃんといえばプリンだった!)
「ご、ごめん!!買ってくる!!」
私はお兄ちゃんの方を向きもせずダッシュで近くのコンビニへと買いに向かう。
「い、いいよ!大丈夫だって!!」
そんな声が聞こえたが聞こえないふりをして家を飛び出す。
やってしまった。
簡単な話だった。プリンがお兄ちゃんの大好物だったのは知っていた。ただ、少しイライラしていたからそこを忘れていた。もう悲しませないって決めてたのに・・・。
コンビニに入り、さっきと同じものを3秒で見つけ出しレジへと向かう。
「えー、【極上プリン】が一点で310円ですねぇ」
やる気の無さそうな店員が適当に会計をする。
なんでこんなタイミングの悪い時に!
渡されるレジ袋をかっさらうようにしてもらう。
そしてこの時ばかりは自動ドアほど遅いものはないと感じるほどに急いで家へと向かった。
「ご、ごめん!お兄ちゃん!これ、買ってきたから!」
お兄ちゃんはリビングに座っていた。
お兄ちゃんが振り向く。
やっぱり怒っているだろうか。
でも、そんな思いとは反対にお兄ちゃんは私に微笑みかける。
「こっちこそごめんな。俺のわがままで。ありがとう。今から食べるよ」
「そ、そんなわがままなんて」
「紗也佳は相変わらず優しいなぁ。俺はうれしいぞ」
そう言いながらお兄ちゃんが私の頭をなでなでしてくれる。
やばいやばいやばいやばい。
すっごくうれしい。今日死んでもいいかもしれない。自分でも顔が赤くなっていくのがわかる。
「う、うん。どういたしまして・・・」
もっとこの時間が続けばいいのに。
もっと頭を撫でて欲しい。
やっぱりこの笑顔を花火ちゃんに取られたくない。
独占欲が強いかもしれないけど私だけにこの笑顔を向けて欲しい。
もう遠慮しない。
絶対にお兄ちゃんを落とす。
落としてみせる。
この時、私はお兄ちゃんが家族としてではなく1人の男の子として愛しているということを再確認した。
そして私はこの一言を口にする。
「ねぇ、おにぃちゃん。今度の日曜日遊び行こう?」
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読んでくれてありがとうございました!
無事復活しました!一時期は39度1分まで上がり俺、死ぬんじゃね?と思ったけど治りました!
文化祭は休んでしまったけど。班のリーダーだったので少し心残りが・・・。
これからもゆるーく投稿していくのでよろしくです!!
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