第5話 虎と龍

「き、君が花火なの?」

「うん。かおるの幼馴染の花火だよ」


俺はびっくりした。というか呆然とした。

それもそうだろう。

久しぶりにあった幼馴染が昔の面影がなく、別人のように変わっていたのだから。

それこそRPGで勇者が急に魔王にジョブチェンジした感じだ。


「雰囲気というか、正直全部だけどな、なんでこんなにイメチェンしてるの?」

「アハハっ!それ薫がいう?」


花火がお腹を抱えて笑う。


「わたしだってかおる見た時はまじでビックリしたかんね?昔と違いすぎっしょ」

「そ、そうかぁ?」


いや、昔の面影がないと言うのは訂正しよう。

話してみたら分かったが、この金髪ギャルは本物の鬼島 花火だ。

昔、花火と話していた時の心地良い感じが体を走る。


「かおるはなんでそんなにイメチェンしたん?」

「まぁ、それは内緒かな。花火こそなんで?」

「わたしも内緒」


2人で顔を見合わせ、笑い合う。

あぁ、久しぶりだなこの感じ。


俺は花火と離れてから他人と話す時、いつも壁を作っていた。絶対に自分の内側、本当の自分は見せようとしなかった。

それは恐かったから。

自分をさらけ出すのが恐かったからだ。

拒絶されたらどうしよう。

嫌われたらどうしよう。

いつもそんな考えが頭をよぎっていた。

どれだけ自分のスペックが上がっても、どれだけ自分磨きをしても、みんなを避けていると当然友達なんて出来るはずがない。


その時、どれだけ花火の存在が大きかったのか理解した。その時やっぱり自分は花火が好きなんだと再確認した。

だからこそ、同じ高校に花火が入学すると知った時は狂うくらいにうれしかった。

まぁ、この展開はさすがに予想出来なかったが。


「ねぇ、久しぶりに一緒に帰らない?かおるの家にも久しぶりに行きたいし」

「あぁ、そうだな。母さんも会いたがってると思うよ」


2人並んで校舎を後にする。

それからは世間話に花を咲かせながらゆっくりと歩いた。まるで会えなかった時間を取り戻すように。


「かおるって彼女いたことあんの?」

「んー。何回か告白はされたことあるけど全員振ったよ。花火は?」

「わたしも振ったよ。おそろい」


「てか、かおるさ首席ってヤバない?どんだけ勉強したんよ」

「そんなにたいして勉強してないよ」

「あ、分かった〜。友達よりも勉強優先したんでしょ〜」

「はぁ!?なわけあるか!めちゃくちゃ友達いたし。そりゃあもう100人よ100人」

「うっそだぁ〜。童貞臭すごいよ?」

「友達と童貞ってどこに関連性があんだよ!!」


「てか、かおるさぁ。高校でモテてるっしょ?」

「え?いやぁ、ないと思う」

「でも、わたしたちのクラスの女子の話題、かおるばっかだよ?なんかファンクラブも出来たっぽいし」

「え、そうなの?フフフ」

「そこ!ニヤニヤしない!」


やっぱり花火との会話は楽しい。

無駄に気を張る必要もないし、なんといっても自分の内側をさらけ出すことが出来る。

幼馴染の力ってすごいな。

なんでもできる気がするのは気のせいか。


「いやぁ、かおるの家は全然変わってないねー」


気づけば家に着いていた。

引っ越したあとはもちろん家が変わった訳だが、こっちに戻ってくる時父さんと母さんがどうしても同じ家に住みたいと言ったのでまた舞い戻ってきたのだ。幸い住人はいなかった。


「あ、母さんに会ってく?今いると思うけど」

「や、今日は帰ることにする。なんも準備とかしてないし」

「準備?ふーん。なんかよくわかんないけど分かった」


そして「送ってくよ」と付け足そうとした時、それは起こった。


ガチャ。


「あ、兄貴おかえ・・・。ってその女だれ?」


なぜか紗也佳がドアを開けた。いや、開けやがった。

瞬時に俺の隣にいる女子を紗也佳がものすごい形相で花火を見つめる。

いや、表現を誤った。睨んでいる。


「あ、紗也佳は覚えてないか?花火だよ、花火。鬼島 花火」

「・・・・・え?花火ってあの花火?」

「そう、あの花火」


花火が俺より少し前に出て、挨拶をする。


「久しぶりだね。紗也佳」

「・・・・久しぶり。花火ちゃん」


なぜだろう。2人とも、ものすごい剣幕だ。

紗也佳の方には虎が、花火の方には龍が見えるぞ。

スタ〇ドでも出すつもりかな?


「えーと2人ともご近所さんに迷惑だからその辺で・・・」

「「うるさい!!」」


やっべ。こっわ。

今、俺が2人に切り刻まれるところが目に見えたわ。


「あっ!紗也佳!わたし今日かおると帰ってきたんだぁ!」


そういうと、花火が俺の右腕に抱きつく。


ちょっ!?やめろ!

俺の右腕にあれが!発射準備可能な2つのロケットが!

当たっあばばばば・・・・。


「あ、兄貴!?やめろっつうの!!」


負けじと紗也佳が花火を引き剥がしに入る。


「いたっ!いたたたたたた!痛いから!!」


でも、紗也佳には俺の声が届く様子すらない。

もう、あれやね。必死すぎて怖いですわ。

2人とも。


「ちっ!」


やっと花火が俺から離れる。

危ない。もう少しで三途の川を渡るところだった。色んな意味で。


「あんた、兄貴に近づくなっつーの!変な彼氏作って兄貴捨てたくせに!」

「あ、あれは違うの!違うの!!」


そういえばそんなこともあったなぁ。

でも、別に俺は気にしてない。

俺はその彼氏への気持ち共々を粉砕するつもりで自分磨きをしたのだから。

醜くなっても奪ってみせるさ。


「あの彼氏はもうとっくに別れたし!すぐに別れたし!もう、秒よ!秒!」

「はぁ!?そんな尻軽女に兄貴のことを任せられるか!」

「あんたこそ、わたしがいない間に泥棒猫になってんなし!!」


はぁ。昔はこの2人も仲良かったんだけどなぁ。

なぜ、出会い頭に罵りあってんのよ。

『はなびおねぇちゃん!』とか紗也佳は言ってたのに。

『さーやかっ!』なんて花火は言ってたのになぁ。

気づけば『尻軽女』『泥棒猫』だもんなぁ。

これにはさすがの兄貴でもびっくりだわ。うん。


「い、いいしー!かおるはわたしのもんだし!」


そういってまた俺の腕に掴まる。

もう、そのロケット凶器すぎ。

ある意味宇宙に飛んでいっちゃいそう。


「紗也佳はあれだもんねー。だもんねぇ」


兄貴呼びがなんか関係あんの?え?


「ぐぐぐぐ・・・」


紗也佳も唸ってるし。え?


「あ、あに...お兄ちゃんも早く離れなさいよ!そんなにデレデレして!」

「あ、はい。なんかごめんなさい」


そういって花火をほどく。

むむぅ。もう少し堪能していたかった。

ってあれ?今お兄ちゃんって・・・。


「ほら!花火ちゃんももうこんな時間だから早く帰りなさいよ!ぉにぃちゃんは送って行っちゃだめだから!」


え?お兄ちゃん呼び定着しちゃった感じ?なにがあったわけ?


「あ、ほんとだー。もうこんな時間。じゃあ、また明日ね!か・お・る♡」


花火が俺にウインクをして、さっさと走っていった。

ウインクの時に出たような♡を紗也佳が光速の如く、手刀で叩き落とす。

こっわ。あれ、浴びたらひとたまりもねぇわ。

まさに文字通り骨しか残らんだろう。


「ほら!早くお兄ちゃんも家の中に入る!ごはんできてるよ!」

「なぁ、なんで兄貴呼びやめたの?」

「〜〜〜ッ!う、うるさい!早く上がりなさいよ!」


めちゃくちゃ顔を赤面させてダッシュしてリビングへと入っていく紗也佳。その後ろ姿はどこか少し懐かしいようにも見えた。


そして、全然この状況を把握出来てない、鈍臭い兄貴だった。






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読んでくれてありがとうございます。

読者のみなさんには申し訳ないんですが、体調を崩してしまいました・・・。更新が遅れるかもしれないので御容赦くださいm(_ _)m

すぐに復帰してくる気合いはあります!

面白いっておもってくれたらうれしいです!



















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