第4話 思い出の夕日
さて、今日は入学式明けての最初の登校日だ。
遅刻なんて許されるわけがない。
ということでいつもより少し早く起きて朝食を食べる。
目玉焼きを箸でつつこうとした時、紗也佳が起きてきた。
「おはよう、紗也佳」
軽く挨拶しただけなのに、紗也佳の頬が上気する。
まるで真っ赤に熟したリンゴのよう。
「ぉはよぅ・・・」
ゴニョゴニョ呟いて去っていった。
多分、洗面所に顔でも洗いに行ったのだろう。
さてさて、ご飯も食べたし、制服に着替えて登校するとしよう。
突然だが天ノ川学園はブレザーである。
紺色のブレザーに赤黒のネクタイである。
中学校は学ランだったのでブレザーを人生で1回だけでもいいから着たかった。
この制服のデザインの良さも志望理由の1つだ。
「いってきまーーす」
「「行ってらっしゃーい」」
父さんと母さんの声を背に扉を閉める。
フンフフンフフーン。
今日は快晴だ。
だからか知らないけど機嫌が良いのが自分でも分かる。
フンフフンフフ...ハッ!!
鼻歌なんて歌ってる場合ではない!
今日は金髪ギャルに殺されるかもしれない!!
今日が俺の命日!?
いやだ!そんなことなら人生最後のプリン食べてくれば良かった!!
ぐおおぉぉ・・・。
頭を抱えて唸っていると、悲しいかな。
学校に着いてしまう。
どうしよう。
どうやって金髪ギャルの攻撃を回避しよう。
女子に暴力はさすがにダメだ。
そんなことしたらナンパして断られて、ヤケクソで暴力振るうクソチャラ男と同類だ。
うん。我ながら例えがわかりにくい。
そんなアホくさいことを考えながら下駄箱を開ける。開けると、ヒラリと1枚の可愛い封筒が落ちてくる。
・・・・・・・・・
ハッ!!これは!まさかの!
シュバ!シュバババッ!
忍者もどきの動きをして、その可愛い封筒をブレザーのポケットへぶち込む。
そして、そのままトイレへ駆け込む。
ここを使うのは用を足す時だけだと思っていたんだがな。
個室に入り、きちんと鍵を閉め、問題の封筒を開ける。
封印を解き放つぞ!
いざ!開封!!!
封筒からは1枚の手紙が入っており、そこにはこう書いてあった。
『桐谷 薫くんへ。
突然すいません。今日の放課後、屋上で待っています』
ふむ。これはあれかな?いわゆるラブレターかな?
・・・・・・・・・
ほひょーーーー!?
マジか!?とうとう俺にも青い春がきたのか!?
中学校の頃は敬遠されてたからこんなこと1度もなかったぞ!!
宛名は書いてないけど!!
やっべ、うれしくて興奮してきた!
どんな子かな!?返事どうしよう!?
どう答えれ・・・
キンコンカンコーン
ってファッ!?チャイム!?やばいやばい早く行かないと!!
俺はこの時、初めてのラブレターで浮かれていて、ある1つの可能性を見落としていることに気が付かなかった。
さてこうして訪れた待ちに待った放課後。
今日1日めちゃくちゃ浮かれてた。
あまりに浮かれすぎて隣の席の山田くんに心配されるほどだ。
「おいおい、イケメン桐谷だいじょうぶか?」
「フフ。山田くん。今日は俺、天に召されるかもしれない」
「?お、おぉそうか。なんか知らないけどがんばれよ?」
思い出せば実はバカにされていたかもしれない。
それほどまでに浮かれていたのだ。
さて、それでは決戦の地へ向かおう。
屋上に繋がる階段を登る。
登る最中に俺を呼んだ人と思われる影が伸びている。そのシルエットの髪は長かった。
さすがに髪の色は分からない。
そして、屋上へと到達する。
屋上に立っていたのはなんとびっくり俺の恐れる金髪ギャルだった。
「え、えーと。君も誰かを待ってるの?」
「ううん、わたしが待っていたのは桐谷くん」
わーお。やっべぇよこれは。
誰にも邪魔されない場所で俺を始末する気だ。
ちょっとおいとまさせていただきます。
ドロンとな。
さっさと逃げるためギュルン!と方向転換をし、早速階段を降りようとすると
ガシッ!となにかに手首を掴まれる。
「ちょ、ちょっと待って!聞きたいことがあるの!!」
やべ、やべやべやべ。抵抗したら殺される。
「は、はい!なんでも聞いて下され!!お命だけはぁ!!!」
「お命?あとなんで侍口調?」
「え、えーと俺に聞きたいことってなにかな?」
とりあえず相手を逆撫でしないように問いかける。
お得意先に行く時のサラリーマンみたいだな俺。
「う、うーんとさ。これから何個か質問していくけどいいかな?」
「別に構わないけど・・・」
これからどんな質問をされるんだろう。
『わたしが着替えるところ見たな?』
いーや、少しも見てません。
『わたしの体に触れたな?』
天に誓って半径2メートル以内にすら近づいてすらおりません。
『殺される覚悟はできてるな?』
ごめんなさい。人生最後のプリンを食べてないのでできてません。
やべぇ。悪いイメージしか出てこない。
どうしよ・・・。
「じゃあ、いくね。桐谷くんに幼馴染っている?」
うん?なんの質問かと思ったら俺に関する質問か?
「う、うん。いるよ」
俺には大事な幼馴染がいるのでこの質問の答えはもちろんYesだ。
「じゃあ、2つ目ね。桐谷くんに妹っている?」
「うん。いるよ。1つ下の妹」
今度は紗也佳関係か?一貫性がなくてよく分からんな。
「じゃあ、3つ目。その幼馴染の人と2人だけで花火大会に行ったことはある?」
「あ、あぁ。もちろん」
今度はまた俺関係だ。なにが狙いだ?この金髪ギャルは。弱味でも握りたいのか?
「じゃあ、4つ目。今までに1番後悔したことはなに?」
この質問に答えるのを少し思いとどまる。後悔したことといえばあれしかない。あれしかないが・・・。
まぁ、後悔したことであって今の俺はその後悔を払拭するためにここまで自分磨きを頑張ったのだ。
別に恥ずかしがることはないだろう。
「えーとね。幼馴染がいるっていったじゃん?その幼馴染と別れる時、別れの挨拶も自分の思いも伝えられなかったんだ。それが1番の後悔かな」
「そう・・・なんだ・・・」
金髪ギャルが下を向き、それから一時の沈黙が空気を満たす。
夕暮れの風が心地よい。
この、俺が見てる夕日をあいつも今見ているのだろうか。
そう思うと、うれしい様な、すこし哀しいような気持ちに包まれる。
「ねぇ、覚えてる?」
おっと。
俺が夕日を見てる間に金髪ギャルはまっすぐに俺を見ていた。
「なにを?」
覚えている?俺と君が会ったのは最近だよ?
「今日みたいに夕日が綺麗な夕方の時、わたしがコケて泣いてたのを君が助けたんだよ」
「へ、へぇー。そうなんだ」
うん。全然記憶にない。
というか、この金髪ギャルと俺って知り合いだったんだ。だからこうも突っかかって来てたのか。
合点がいった。
「覚えてる?花火大会に行った時、わたしがたこ焼きを落とした時、君が自分のたこ焼きの残り全部くれたんだ」
たこ焼きの残り?
あぁ。そういえばそんなこともあったような。
あれ?その花火大会に行ったのってあいつとじゃなかったっけ?
「覚えてる?わたしが犬に追いかけられてる時、木の棒を持ってわたしを守ってくれたんだよ」
あぁ。近所のでっかい犬ね。名前は確か・・・デカ助だったっけな。
あれ?デカ助のこと知ってるの?でも、デカ助のこと知ってるのは俺とあいつぐらいしか・・・。
「覚えてる?あの丘の上でわたしと君で、ある約束を結んだんだよ」
「やく、そく?」
それはあの高い丘の上でたった1人の女の子と結んだ約束。
それはあいつと小さい頃、結んだ約束。
契約書もなければ印鑑も押してないただの口約束。
破ろうと思えばすぐに破ることだってできるだろう約束。
だけど当時の俺にはとても誇らしいことでとてもうれしかった約束。
その約束を結んだ相手は・・・・。
「ま、まさか君は・・・」
「やっと気づいてくれたんだね、かおる」
「わたしは鬼島 花火。はなびだよ。久しぶりだね、かおる。会いたかった」
爽やかで暖かい夕風が俺の頬を撫でる。
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ここからの展開は慎重に考えていかないと後戻りがきかなくなりそう・・・。
面白いって思ってくれたらうれしいです!
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