(6)瑞希Ⅱ
何故わたしはここに居るのだろう。
幾度と無く繰り返し投げ掛けて来た質問を、わたしは今再びせざるを得ない。
──日向蔓のアパートの前で、寒さに震えながら彼女の帰りを待っている、だなんて。
そんなこと、在り得ないはずなのに。
あの忌々しい出来事のあったホテルを出て、まず最初に足を向けたのがここだった。
「我ながら、下らない感傷ですね……あの子の最期をこの目で見届けたい、だなんて」
独り、苦笑する。感傷、そう、下らない感傷だ。一度見た以上彼女の死は絶対で、確認するまでも無いというのに。なのにわたしはここに居て、彼女の帰りを待っている。
「かずらさんの帰りを……待っている」
呟き、在り得ないと首を振る。そんなことは在り得ないし、在ってはいけない。だっておかしい、まるで逆だ。だって。
──あの子の帰りを待つと言うことは、あの子の生還を信じているに等しいもの。
そんなこと、死んでも認めたくはない、けど。
「………」
本当の所どうなのかは、わたし自身にも良く分からないのだ。
「そろそろ車にお戻り下さいお嬢様。このままではお風邪を召してしまいます」
「……バトラー」
その時声を掛けて来たのは、背後に待機していた執事(バトラー)だった。
「いえ、わたしはここで大丈夫です。バトラー、貴方こそ車に戻ったらどうですか? わたしなら、大丈夫ですから」
「かしこまりました、瑞希お嬢様」
意外にもあっさりと退き下がって、壮年の執事は駐車場へと戻っていった。しばらくその背中を見送った後、わたしは再びあの子の部屋に視線を戻した。主の居ないその部屋は暗く沈み込み、現在のわたしの心境を表しているようにも見える。
「こんなにも、あの子の帰りが待ち遠しい、だなんて」
思わず呟き、溜息をついた──その時だった。
「お嬢様」
「わっ!? ば、バトラー?」
いきなり声を掛けられ吃驚して振り向くと、そこには全身を火器で武装した執事の姿が在った。いつのまに──というか、どこにこんなものを仕舞っていたのかと問いただしたい気分だったが。
「──失礼します」
「きゃっ、ちょ、待って」
有無を言わさず、ひょい、と抱え上げられる。構図的には所謂お姫様抱っこの形だ。
「ば、バトラー!? こ、これは一体何の真似ですかっ」
「かずら様にお逢いしたいのでございましょう? ならば、私に従って頂きます」
「……え?」
わたしを抱えたまま、すたすたと車の方へ歩いていく執事。その様を、わたしは逆らう気力も無く呆然と見上げていた。
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