(7)「蔓」Ⅲ

 見えたのはほんの一瞬、だけどそれは確かに飛鳥で。

「───っ!」

 信じられないことに、彼女は空を飛んでいた。

 彼女の背中には鳥のような純白の双羽が生えていて、「わたし」が日常的に見ているモノ達を彷彿とさせた。

 だけど──彼女は彼らとは違う。ちゃんとこの世界に存在している、人間だ。それに彼女はそんなこと、今まで一度も言ったことが無い。そうだ、飛鳥は人間なんだ。

「……だったら、追いかけなくちゃ」

 彼女は何かを探すように低空を飛行していた。きっとその先に、子供達が居るのだろう。そう直感できたのは、飛鳥と子供達とのやり取りを見て来たからだ。

 ──子供達の為に、クリスマスパーティーを開いた飛鳥。

 ──飛鳥の為に、「わたし」という「悪者」を排除しようとした鷹斗と愛美。そして、他ならぬ彼ら自身の為に彼らを叱った飛鳥。

 そこには、他者の入り込む余地の無い、確かな信頼関係が存在していた。

 ならば。たとえどんな姿に為ろうと、飛鳥が子供達を見捨てるはずが無い。それは直感に過ぎなかったけれど、唯一確信的に信じることの出来得る直感だった。

「そうだよね、クロちゃん」

 黒犬の縫いぐるみを胸に、「わたし」はひた走る。もしかしたら間に合わないかも知れない、なんて気持ちは飛鳥の姿を見た瞬間に消え失せていた。

 「わたし」は今まで、神様なんてモノを信じたことは無い。

 だけど、もし──天使が居るとすれば、それはきっと先程の飛鳥のような存在を指すのだろうと思う。

 初雪の如き、純白の天使。


 そう。


 ──ライク・スノー・エンジェル──


 あまりにも気高く、あまりにも可憐で、儚く。

 そうであるが故に、何よりも尊い存在(モノ)。


 本当に、そんなモノが在るのなら。

 「わたし」は「それ」に、心より願う。

 どうか今一度、「わたし」の眼にあの子達の姿を映して下さい、と──。

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