(4)「蔓」Ⅱ
雪が、積もり始めていた。
それ程寒くはないけど、歩きにくいことに変わりは無い。この上路面まで凍結してしまったら、前に進むことさえ困難になる。そうなれば、飛鳥達に追い付くどころの話ではない。
──急がなければ。
とはいえ、探す当てがある訳でもない。頼りになるのはあの時一瞬見えた炎のイメージだけで、それさえも曖昧な情景しか映さなかった。夜、しかも雪の降る中探すには、あまりにも心許無い情報だ。電源を切っているのか、携帯で飛鳥に連絡しようにも繋がらない。
──だから、諦める? 冗談じゃない。
諦めようとする度に、「わたし」の胸の中で、クロちゃんが叱咤する。逃げるな、と。運命に屈服してはならないと、何度も何度も叫んで来る。その度に、「わたし」は更なる一歩を踏み出していた。
──まだだ。まだ「わたし」には出来ることがある。
表通りはあらかた探した。後は人通りの少ない裏通りだが……大分時間を食ってしまった。果たして見つかるかどうか、確証は無い。
だけど、ここで捜索を止めたら、本当に全ては終わってしまう。諦めるにはまだ早い。そうだ、今日という日はまだ終わっていないのだから。
「……そうだ。飛鳥さんの家」
何故もっと早く気付かなかったのだろう。手掛かりがあるとすれば、そこ以外は在り得なかったのに。
飛鳥の家は、大学の東側に位置するマンションの一室に在った。前に一度だけ行ったことがある程度で、部屋の場所を覚えている自信は無かったけど。探してみれば意外と何とかなるもので、十分程度で目的とする表札を発見できた。
インターホンを押す。飛鳥は父親との二人暮しだ。飛鳥が帰っていなくても、彼女のお父さんが居る可能性がある。二人共居ない場合は……あまり考えたくはないけど、捜査は振り出しに戻ってしまう。
果たして。ドアを開けて出て来たのは、痩せこけた一人の老人だった。見覚えは無い。「わたし」が飛鳥のことを尋ねると、お爺さんは「はて」と首を捻った後、
「設楽木は確かにウチじゃが、そんな娘っ子は知らんのう。すまんが、他を当たってくれんか」
一方的にそう言って、ドアを閉めてしまった。
「………」
これは、一体どういうことなのだろう。お爺さんが嘘を言っているようには見えなかった。直感だが、多分本当にあの人は飛鳥のことを知らないのだろう。
でも、確かに表札には「設楽木」と記されていて、「わたし」自身目の前の部屋の戸を開けた記憶があるのだ。これも全くの直感なのだが、多分本当にここは飛鳥が以前住んでいた部屋なのだろう。そして、現在は住んでいない。
──なら、彼女は一体どこに居る?
どことなく作為的なものを感じながらも、「わたし」はマンションを後にし。
──そして、「それ」を目撃した。
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