第4話 階段ぐらい普通に降りてくれますか???

 お家デートというものをしたいと彼女が聞かない。どこでそんなことを覚えたんだ…。(俺が貸した本です。)

恐ろしくプロポーションの良く異世界の様な美人さ。彼女が俺の家に入ると沈黙が訪れた。妹はあきらかに俺へ何か言いたげな視線を送ってくる。

俺の部屋に駆け込んだはいいもののさっきから沈黙続きで流石に辛い。

不意に彼女が話始めた。

「1回目のお家デートは抱くのはまだじゃな。えーと、まず、人生ゲームじゃろ?それからー、なんじゃったかな、あ、違う。まずいい感じの雰囲気になってお前が何か話始める。

さぁ、いい感じになれ。」

……………。ムチャだろ?おい?いい感じ?なんだよそれ?え?なんか爆弾発言来たよ。

「俺から話すの……?」

期待の目線が痛い。

「そなたは本当に低能じゃな。男がリードする。これはレンアイの鉄則と書いてあったぞ。」

ため息を吐かれても出来ないものは出来ない。何を話すっていうんだ。俺の話なんか、神が聞いて楽しい様な話じゃない。

「俺の話なんかつまんないぞ。強い奴にはわかんないだろうけど、人間には沢山苦労があんだぜ?」

俺はダメ人間だ。例え擬似でも恋愛のお相手なんて務まんないぜ。俺はあの日負けたんだ。自分に。

「強いのが羨ましいのか?」

不思議そうな顔をする彼女に少し腹が立った。

「当たり前だよ。弱い人間が喜んで、自分から進んで弱い方を選んだっていうのか?誰だって強くなりたい。でも無理なんだ。それが出来ない人間だっているんだよ。」

俺は確かに昔は強かった。中学の頃は弓道部のエースだった。全国大会で優勝する程の、強い側の人間だった。

別に弓道に命をかけてたわけでもなく、趣味でやってたものだったから後悔はしてない。中学の引退試合で的を外した。試合で初めて外した。別にそれがショックだとかいうわけじゃない。優勝に拘ってたわけじゃない。

俺は高校の継続届を出さなかった。

受験したいから。そう言って辞めた。

嘘だ。

俺は臆病者だ。

「強くとも楽しくなどないぞ。」

「え?」



強いから楽しい。弱いから楽しくない。それは違う。そんなこと分かっていた。でも彼女からそんな言葉が出るなんて驚きだ。

「君にとって強さってなんだと思う?」

彼女とこんな話をするなんて…俺もどうかしている。

「強さか……。強さは滅びの象徴じゃ。」

彼女は一体なんなのだろう。どこの誰で、なんでこんな俺と…。

「死の女神がよく言うよ。」

良く冷えた麦茶を勢いよく飲み干した。冷たくて味が感じない。

「俺さ〜」

背中からヘッドに思いっきりもたれかかった。

「部活辞めたし、勉強嫌いだし、友達っつー友達もいねーしダメ人間なんだよなぁ。やんなっちゃうよな。せめて生きてる理由とか欲しいよな。アイデンティティとか?ま、そんなこと言っててもしょうがないしなんか食うか?」

神妙な空気。俺は大嫌いだ。この雰囲気が。

「生きてる理由が欲しいのか?」

せっかく俺が話題を逸らしてやったのに彼女はお構いなしだ。デートがしたいんじゃないのかよ。

「そりゃ誰だって欲しいだろ。神様なんかにゃわからんよ。」

ポテトチップスの袋を大袈裟に破った。

「皆どうせ死ぬのじゃ。それでも必死に生きている。何故じゃ?何故そなたは生きている?我には理解出来ぬ。」

チッ。

「だから理由がほしいって言ってんだろ?」

ポテトチップスを口に突っ込んだ。

「旨いのぅ。…。ん。浮かぬ顔をしているが、理由を知ればそなたは幸せになれるのか?無理じゃぞ。」

「は?」

「理由を探すために生きる。理由が分かっていてはつまらぬぞ。理由を知らない、その権利を無駄にするな。」

「神様だからそんなこと言えるんだ。」

腹が立った。

「人間の思うような神などおらぬぞ?でも、いたら、いたら良いかもな。」

腹が立っていたから分からなかった。けど後で考えたら彼女の顔は悲しそうだったのかも知れない。

「だいたい誰がそなたが見ているものが現実と保証した。全部まやかしかも知れぬぞ!」

「!!!?」

「冗談じゃ愚か者。でも、それも夢とやらがあって良いのではないか?」

悪戯に彼女が微笑んだ。踊らされている。

もしかしたら彼女は自分が生きている理由を知っているのかも知れない。どっちにしてもなんとなく腹が立つ。

「ご飯できたわよ!降りてらっしゃい!」

母さんの声が聞こえた。

「今行く!!」

部屋のドアを開けて叫び返した。

「ほら、行くぞ!」

彼女と階段を降りようとした。

「へ!!!!?」

階段の下に妹がいたから思わず彼女に抱きついた。

「ちょ、ちょ、ちょ!何してるの?足付けて!人間の振りするって!」

驚きすぎて彼女を固く抱きしめて下へ引き寄せる。

「そうであったな…すまぬ、忘れていた。」

………。

「……。その……もう、離せ……。」

彼女が顔を逸らした。

「あっ!ごめっ」

「うわっ!お兄ちゃんキッモ!」

最悪な所を見られた。彼女が浮いてるのが見られなかっただけマシなのか……?

とりあえず彼女はプロポーションがいい。それだけは良く分かった。後何処とは言わないが、柔らかかった。


俺たちのレンアイはまだまだ続く。

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