第3話 女の服にロマンを感じるのは初めだけ。
俺の財布じゃデパートなんて天国より程遠い場所だ。だから隣町の大型ショッピングモールに彼女を連れて行った。ウェディングドレス姿のような彼女の格好は勿論注目を浴びる。
女の子の服なんてよく分からなかった。というか逆に分からない方が普通だろう。一応俺は正常な方の高校生だ。生憎そういう性癖は持ち合わせちゃいない。となれば頼りになるのは看板だった。「閉店セール」運命の出会いの看板を見つけすぐに入った。
「お探しのものがございましたらおっしゃってください!」
若い店員さんが笑顔で声を掛けてくれた。可哀想に…この店員さんも今から暴君女神の被害者だ。人知れず彼女にエールを送るように見つめた。決してアンダーバストのラインが好みだったからとかいういうものではない……。
「あの、彼女に似合いそうな服を一式出してくれませんか。」
相変わらず彼女は見下すような目で店内を見回している。
「お待たせ致しました。」
数着の服を持って店員が帰ってきた。なぜか俺に全部渡された。とりあえず彼女を試着室に連れて行く。俺は個室の前の椅子に腰をかけた。
「何をしている。男よ。早う参れ。」
機嫌の悪そうな彼女が個室のドアで俺に声をかけた。
「早う着替えさせろと言っておるのじゃ、男。」
「んおおおお。」
嬉しさと焦りの混じった変な声が出た。
「神であるこの我に自分で着替えろというのか、よほど黄泉路を急ぐと見えるのぅ。」
彼女の周りがアメジスト色に光る。据え膳食わぬは男の恥だ。もうどうなっても知らん!俺は意地になって個室に入った……。
背中の真ん中辺りにあるファスナーの留め具に目をやる。滴型の白銀が鈍く俺の瞳の中で輝いた。例えようのない程の純白をより引き立たせている。シルクのような肌と調和する。引き締まった肩甲骨の緩やかな曲線美。全てのラインが「美」そのものを象徴している。今までに俺以外のどれだけの男がこの曲線を見てきたのだろうか。恰幅が良い彼女と俺の間に越えることの出来るはずもない壁を感じた。ドレスの上の天使の翼のような肩甲骨に手を掛ける。それから手を滑らせドレスの上に手を置いた。布に触れた瞬間に息を呑んだ。布のようで布でないような何か美しい、まるで星屑を生地にしたような布。無意識の内に手を前に滑らせた。一畳に満たない白い部屋では意識しなくても彼女の鼓動ぐらい聞こえた。
突然の衝撃。鏡の中の俺の頬にはギャグ漫画のような平手の跡が赤くついていた。
「え?」
「ふん!貴様から卑しき気を感じた。もう良い。出て行け。」
暫くして彼女が出てきた。それから色々な服を試着した。……。
ニットワンピース。
「暑苦しゅうて仕方がない。死なす気か。」
サロペット。
「理解出来ぬ。どうなっておるのじゃ?」
オフショルダー。 「気持ち悪うて仕方ない。なんじゃこのゴムは。」
クロップド Tシャツ。
「貴様の目が気に入らぬ。」
見ている分には楽しいが……疲れた。結局シャツにプリーツスカートという高校生らしい格好に落ち着いた。なんだかんだつまり俺の好みという訳だ。どっからどう見ても人間の高校生の彼女。こうしていると彼女が神であることを忘れてしまう。
「そういえば、何歳なんだ?17ぐらいか?」
彼女は顔色一つ変えずに答えてくれた。
「生まれたのは二週間前だが、それがどうかしたのか?」
………前言撤回。口さえ開かなければ完璧に可愛く、美人とのデートというものはやはり見栄えが良い。もう一度言う、口さえ開かなければ。
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