第2話 本当に大事なことはだいたい本には書いてない!
朝というのは俺にとって……。かっこよく語っている暇はなかった。死神さんが待っているのだ。俺が寝ぼけてなければ。
「顔汚なっ!」
洗面所ですれ違った妹の暴言は無視だ。とりあえず冷水で顔を洗い、俺は…。
「あんた顔洗うだけでどんだけシャツびしょびしょにしてんの?ほら、ボッサっとしてないでどいて、母さんはあんたと違って夏休みなんてないんだから」
「俺だって忙しいんだよ、って聞けよ」
ああ、もう!気を取り直して…そう、俺はどうせラノベ展開の様なことが起きるなら、可愛い女の子が転がり込んできたり、超絶イケメンな勇者に転生したり、ハーレムものとかさ、今流行に乗ってせめて可愛い女の子と入れ替わったちゃった!みたいなのが良かった。リビングに行く前にトイレに寄った。期待を込めてズボンを下ろしても何もなかった…いや正確にはあったままだった。
本当は誰かさんと行く予定だった遊園地のチケットを財布に突っ込んで家を出た。大体神様と俺とじゃ時の流れも違うかもしれない。俺の24時間があいつの1日とは限らない…そんな心配は要らなかった様だ。彼女は既にそこにいた。
………とても見つめられている。いくら俺でもめちゃくちゃ気まずい。
「待った?と聞かぬのか?」
……………?
「そなたが待った?と聞かぬ限り我は30分前にいたことを隠していいえ今きたところ!と言えぬではないか、愚か者」
「………ま、待った……?」
「今来たところじゃ、案ずるな」
今さっき30分前に来てたって言ったよな?案じたいのはあんたの頭だよ。
「始めるぞ。男よ。」
その一声に俺の意思は関係もなく、異例の恋愛ごっこが始まった。今日はバラの花を逆さにしたような純白のドレスだった。確実に幼児用の公園とウエディングドレスの様な姿はよく似合う。本当に。俺は遊園地のチケットを二枚差し出した。
「ほう、遊園地デートというやつじゃのう、昨日説明書で読んだぞ。」
彼女は誇らしそうに恋愛心理学の本を差し出してきた。説明書…なの…
「もう読んだんだ…熱心ですね…」
帰りたい。
「当たり前じゃ。勉学と努力を怠るのは神として恥じゃからな。」
誇らしそうな彼女は楽しそうだった。俺は帰りたい。
「うぁ俺の嫌いな二つじゃないか。」
「愚者じゃのう、それだから人間はいつまで経っても下等生物なのじゃ。さぁ行くぞ。」
全世界の皆さん。俺たちは下等生物らしいです。これはもう俺帰っていいよね?
彼女が手を差し出した。
「あの解説にはデート中は手をこのように繋ぐと書いてあったぞ、男よ。」
しょうがなく手を握った。やっぱりもうちょっとしてから帰るとしよう。でもこんな美人を前にしてもテンションガタ落ちだ。努力か。いつからだろう夢を諦めたのは。
「俺だって昔は天才だってチヤホヤされてたんだ。」
なんでこんな人…?に言ったのか自分でも分からなかった。この話をすると大抵の人は気不味そうな顔をしてフォローしてくれる。でも彼女は違った。
「努力をしないからじゃろう。」
正論だ。でも努力が出来ない人間だっている。そんな俺の心を読み取るように彼女は話し続けた。
「この星は自由という生温いものがあるそうじゃないか。だからそなたが努力をしようと愚者でいようと自由じゃ。良かったのぅ。」
自由か。彼女は冷酷に微笑んだ。死神だ。死神の微笑みだった。
「そうかもな…。」
彼女が誰なのかもどんな人なのかもわからない。何故、俺と出会ったのか。全て謎だった。たまにさす影と据わった目も俺如きには想像すら出来なかった。
「デートをするか破壊されるか。ん?」
「ご、ごめん!その前に服、着替えろよ?人間の女の子みたいな格好の方がいいと思う…よ…たぶん。」
「そうじゃのぅ。すぐ持って参れ。」
「そんなむちゃな…一緒に買いに行けばいいだろ。買い物もデートだし。」
「あの本には記載されておらなかったぞ。」
不信そうな目で覗き込まれた。俺は厄介なほんを渡したらしい。誰だよあんな本神様に渡した奴は…俺ですね……。
「本にも載ってない、知る人ぞ知る秘蔵のデート方なんだよ!……」
まずい、殺される。…。
「そうか!流石じゃのう!我程の神となれば下級のものが行うようなマニュアル通りのものよりも一歩高みを目指すべきであるのもじゃのう!男よ、褒めて遣わすぞ。」
彼女の顔がぱぁっと明るくなった。張り詰めていた俺の心がほぐれた。もしかしたらこいつはバカなのかもしれない、いや、たぶんバカだ。俺に少し希望が生まれた。この際だ。少なくとも俺好みにコーディネートさせていただくとするのは言うまでもない。
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