Pseudo - Love

古川暁

第1話 俺の人生の1話かって?それは17年間否定する気か⁈

晩春の新緑が乾いた音楽を奏でる。風が吹いた正午、バス停の前で俺はみすぼらしくも、独り、突っ立っていた。さっき君がくれたロケットを握り締めて。溜め息をついた、それから年甲斐もなくバス停前の公園に向かった。

 ブランコに座って手前のゴミ箱にロケットを投げ入れた。俺が付き合って最初の誕生日に彼女にプレゼントしたロケット。今日それを別れ話しと共にわざわざご丁寧にいただいた。青春なんてつまらないし、一年を切った大学受験、別に俺は別れて良かったと思ってる、俺は悲しいなんて思ってない。ただ、彼女といる時間は楽しかった、それに俺は成績も悪いし受験なんてしない。そう、ただそれだけの話、彼女にフラれて床にへばりつきたい程ショックだとか微塵も思ってない。別に泣きたいとかこれっぽっちも思ってなどいない。少しブランコを漕いだ。公園の入り口に見えるバス停の時刻表。その裏を覗けばまだ彼女がいる、そんな気がして空を蹴った。

 勘違いするんだ。いつも後になってから気付くんだ。後悔するんだ。誰か俺を理解してくれるんじゃないかって。まだ誰か俺を愛してくれるんじゃないかって。この孤独感から、焦燥感から、離れられるかもしれない、そうしたら自分を好きにまたなれるんじゃないかって勘違いするんだ。でも彼女と別れる度に気付く。こんなんじゃない、これじゃダメだって。爪先で土をえぐるようにして揺れを止めた。柵の上に立って上を向く。眩しい。そして夏の匂いが微かにした。にしても眩しい。いや、どんどん太陽が近付いてきて…?違う。光が弱まってきたから俺は目を細めて凝視した。真紅の布?違う。


人だ!


とっさに両手を空に伸ばした。その時両手を言葉に出来ないような感覚が包み込んだ。

「我を床へ下ろせ、人間。」

サラッサラの長い黒髪、透け通るような白い肌に切れ長の目、そして赤紫がかった宝石のような瞳。何より抜群のスタイル。床に降りた彼女はまるで天使のよう…おい、待てよ、どっから来たんだよ?

「なんとまぁ原始的な…そなたは何をしていた?」

スリットの入ったロングドレスが風になびき艶かしい脚がちらつく。

「答えよ。さもなくばそなたを破壊する。」

随分と物騒なことをさらりと口にしている。誰なんだよ、この美人さんは。空から少女が降ってくるなんて…某アニメのアレですか?シータ?シータさんですか?

「…え〜っと、青春?かな。それより君は誰…」

そう言いかけた時彼女から恐ろしい殺気を感じた。青春していないことがバレたのか…?

「いつ応答以外の発言を許した。そのような覚えはない。この私に破壊されたいのか?」

俺はとっさに首がちぎれる程振った。何故俺が怒られるのかが解せないが。

「セイシュンとはなんじゃ?楽しいか?」

氷のような瞳で貫かれた俺は首を縦に振るのが精一杯だった。

「セイシュンとは何か答えよと申しているのじゃ。」

「例えば恋愛とか。楽しいかな…?」

「レンアイ?」

「長期間男女二人がイチャイチャすんだよ…多分。」

この女俺がさっきフラれたの知ってて嫌がらせでもしてんのか?恋愛とは何かとか俺が逆に知りたいよ。腹立つなあ。

「長期間か。よし、そなた男であろう?我は女じゃ。」

「いや、それぐらい分かりますよ。」

「そうか、思っていたより頭脳があるな。ではそなたと今からレンアイをするぞ。」

「はい!…ん?えええええ!」

「なにか不服か男よ。さあレンアイとやらを初めてくれ。」

「まず、何方様でしょうか?」

恐る恐る尋ねてみた。

「そうであったな。我は神じゃ。名前はまだ無い。」

どっかで聞いたことがあるフレーズ…夏目さんですか?夏目さんなんですか?というかこの人頭大丈夫?

「名前がないの…じゃあなんて呼べばいいの?」

その人は堂々と答えた。

「美と死の女神じゃ。」

百十番だ。この人逝かれてる。俺は逃げようとした。

「はぁ、下等生物が神の存在を受け入れられぬのも無理はない。見ていろ。」

彼女が右手を鳴らした。掌におぞましい紫色の光が現れる。

「な、何をする気だ?」

俺はとっさに身を引いた。

「破壊じゃ。」

まるで当たり前のような顔をして答えた。

「へ?ちょ、ちょっと、まずいでしょ!」

怪訝そうな顔で俺を覗き溜め息をついた。

「人間とは実に小心者じゃな。」

呆れながら、小さく萎んだ光をゴミを捨てるような仕草でポイっと後ろへ投げ、俺の方へ移動してきた。勿論その光が落ちた先の遊具は鉄ゴミと化した。後、移動は空中浮遊だった…。神は本当に存在した、そう俺は確信してしまった。

「分かった。うん。お、俺の名前…。」

「黙れ。早う始めよ男とやらや。」

 こうして、冴えないDKと毒舌破壊神の異例の擬似恋愛が妙なスタートを切った。名前も言わせて貰えずに。

「恋愛ごっこを始める上でまず俺たちは恋人になれなければいけない。で、俺が告る。美と死の女神さんは顔を赤らめながら承認してください。大丈夫ですか?」

もうこの際どうにでもなれ!

「心得た。敬語、使わぬでも良いぞ。」

俺は大きく頷き、一呼吸置いてから一歩彼女に近いた。

「ひ、一目見たときから運命の人だと思ってたんだ。お、俺と、…付き合ってくれないか……べ、ベイビー…?」

ちょっとやり過ぎた…。顔が熱くなるのがわかる。

「失目したく無ければ暫し目を瞑っておれ。」

彼女が光り出したのを見て慌てて目を閉じた。目蓋を越して光が伝わる。

「もう良いぞ。」

恐る恐る目を開くと誇らしげに立っている彼女の姿を見て唖然とした。肌の色が赤い!赤面って…。

「そなたの告白、承認した。よって、責任を持って我を楽しませよ。つまらぬ時は、破壊じゃ。」

徐々に肌の色が戻って行く。冗談じゃない、これじゃラノベの展開だぞ。でも俺は死にたくなくて彼女にクレープを買って、図書館で恋愛心理学を彼女に渡した。また明日会う約束もして。恋愛とは何か。青春とは何か。いやもっと言うならば人間とは、宇宙とは、生きるとは。そんはこと一度も考えたことすらなくなあなあに生きてきた。きっといつか俺だって、そうやって適当に過ごしてきた。だからもしかしたら、今日の話はそう悪くないかもしれないと少しだけ思ってしまった。とは言ってもこれはあくまで擬似恋愛だ。擬似青春だ。擬似だ。………。

ってそんな感慨に浸ってる場合じゃねえよ。おかしいだろこの展開!

ベッドに体を投げた。白一色の天井を見つめる。

この時俺は………。

何も考えていませんでした。すいません。



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