第11話 オーマイゴッド
現在の時刻は午前6時半。
リビングへと入るドアの前で宗助は、俺たちをこの世のものではないなにかを見たかのように固まっていた。
どうしてこうなった…。
時間は5分前に遡る。
□ □ □ □ □
この家には、お客様用の布団などない。なので、宗助に俺のベッドを貸し、俺は一人リビングのソファで寝たはずなのだが。
タオルケットの感触でない、なにか柔らかい感触を感じ目を覚ました。え、なにこれ、どういう状況?
「あのー、笹原さん?え、なぜに?」
「…」
「…
「毎朝してるし、そろそろ慣れない?」
そう、いつも通り抱きつかれているのである。うちには客用の布団などなかったため宗助に俺のベッドを貸し、俺はソファで寝ていたのだが、今日も今日とてこの状態である。いや、慣れねーよ。
とりあえずどうにかせねば。
「美津璃、一回どいてくれない?」
「えー」
「起き上がれないんですが」
「一瞬だけだよー、しょうがないなぁー」
そう言うと笹原さんは身を離してくれた。
よし、どいてくれたか。さて、顔でも洗いに行くか。よっこらしょっと。あれ立ち上がれんぞ。
「なぜにすぐ膝の上に座る?」
「一瞬って言ったじゃん」
「いや、言ったけども…」
「だめ…?」
そんな目で見つめないでくれ!俺にそんな目で見つめられて断れるわけないだろ!
「ちょっとだけだぞ…」
「ん、ありがと」
美津璃は満足そうに頷いて、人の膝の上を満喫しているようだ。
たまにこういうシチュエーションを漫画で見たりもするが、人の膝の上ってそんなに良いものなんだろうか。うーん、わからん。
「てか、そろそろ–––」
「まだ充電が完了してないー」
「ちなみに今なんぱー?」
「30%だよー」
そんな気の抜けた返事が返ってくる。
なんだよ充電って。
「俺に電気なんて通っていないぞ?」
「成分が出てるんだよー」
「あいにくなんの成分も持ち合わせていないんだが」
「私にしかわからない成分が出てるのー」
「???」
そんなわけのわからない会話をしていたら
––––––––––ガチャリ。
「「「あ」」」
なんか3人分の"あ"が重なった。
もちろん俺、美津璃、宗助のものである。
これで冒頭で説明した状況の完成である。
宗助はすごい目で俺たちを見たかと思うと、
「うわー、上級者ぁー」
「おい、ちょっ」
「俺は二度寝してこよっかなぁ〜、じゃ、ごゆっくり〜」
「待って、お願いだから待ってくれええぇ!」
俺は再びドアを閉めようとした宗助を全力で引き留めにかかるのだった。
□ □ □ □ □
「…で、説明してくれると?」
あの後なんとか宗助の引き留めには成功したのだが、現在、テーブルの向かい側に宗助、こちら側に俺と美津璃という構図である。
「いろいろ誤解してるみたいだけどな、あれはそのー、なんだ、タイミングが悪かったというかなんというか…」
「あんなにベタベタしてるの見たら、誤解もなにもないと思うぞ?」
まずい、宗助はそんなことしないと信じたいが、万が一にもあいつらえぐいぞーなんてクラスメイトに漏らされでもしたらみんなの注目の的である。
そんな未曾有の事態はなんとしてでも避けたい。ヘルプ、ヘルプミーゴッド!
「で、笹原さんからは何かある?」
美津璃ッ!わかってるよな!となんとかアイコンタクトで合図を送る。
「私たちは毎日のルーティンをしてただけなんだけど…」
どうやらゴッドは味方をしてくれなかったらしい。ゴッドも無慈悲である。ぼくはもう一生ゴッドなんて信じない。ゴッドコワイ。
「なるほど…、このくらいは序の口レベルだと…」
「序の口とかではなくてですね、あのー、はい、ごめんなさい許してください」
もう、すっかり得意となったええい!ままよっ!である。とりあえず謝っとこう…。
すると宗助はなにを思ったか
「…ぶッ!あははは!」
「な、なにがおかしいんだよ」
「あーごめんごめんっ、いやー別に怒ってたわけじゃねーよ、ちょっといたずらしてやろうと思っただけだって」
「そ、そーなのか?じゃあこのことはどーかご内密にいいぃ」
「そんなに言い散らかす趣味なんてないっつの。だからその点は安心しろ。この親友様に感謝するんだな」
「ははー!」
どうやら未曾有の事態は防げたみたいである。我ながら良い友達、いや、良い親友を持ったぜ!
「あ、でもこのことは脅しにも使えるなー」
訂正。やっぱり友達選び間違えたかもしれない。さっきまで感謝で頭が上がりそうになかったのに、もう別の意味で頭が上がらなくなってしまった。友達も無慈悲である。
昔結婚の約束をした幼馴染が不良女子になっていた件 夜月 露 @red-anedeshi
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