第10話 初放課後デート②



「はーーー!面白かった〜!てか最後のあれ泣けたね!自分の抱えていることを言えないあの子に主人公が寄り添ってあげてさ〜、主人公が『僕はずっと君の味方だからね』だってさ〜、うわ〜こっちまできゅんきゅんしちゃうよ〜」

「そうそう!あと段階の踏み方とか演出も良かったよな!」

「そうね!とにかくあれは傑作ね!」


映画が終わった後、ぞろぞろと出ていく人の流れに倣って俺たちも退出し、それぞれ映画の感想を言い合っていた。うん、思った以上に良かった。柄にもなく、興奮した状態で映画の感想を言い合っていた。


「これからどーする?」

「時間もそろそろ七時だしな…」


デートとはいっても放課後デートなので、映画一本見ただけでもこんな時間である。これから別のところを見てまわるという時間もあまりないだろう。


「んー、そーだね。晩御飯はなににする?食べて帰ってもいいし、私が作ってもいいけど」

「じゃあ、さ……み、美津璃みつりお願いできるか?」


徐々に下の名前を呼ぶようにすると約束したのだ。俺もそろそろ下の名前を呼ぶのに慣れないとな。


「ほへぇっ!?」


なんか変な鳴き声が聞こえた。新種の動物か?


「ん?どうした?」

「きゅ、急に名前で呼ぶから」


彼女は下の名前で呼ばれて照れているようだった。頬をほのかに朱色に染めて変な声をだしている。そんなに照れるなら提案しなければいいのに。


「え…えっと」

「やっぱやめとくか?」

「いや!それはだめ!最終的には常日頃からそう呼んでほしいし!」

「そ、そうか……、でも恥ずかしいなら…」

「と、とにかく!これからも名前で呼ぶ努力を続けるよーに!」

「お、おう」

「それはそうと!なんだってー?外食よりも私の手料理がいいんだってー?私ったら、もう胃袋掴んじゃった?」


切り替え早いな。もう一発くらわしてやるか。


「うーん、そうだね。もうすっかり掴まれちゃったかなぁ」

「ほへぇっ!?」

「ん?どーした?」


そんな彼女の反応に満足しつつ、してやったり顔で彼女の顔を覗きこもうとしたのだが。

彼女は手のひらを俺の手のひらに重ねてきた。そして、あろうことか指を絡ませてきたのだ。


「へっ?」


思わず素っ頓狂な声が出てしまった。まずいまずい。


「…仕返し」


そんなことを言ったかと思えば、彼女はおそらくだこ状態であろう顔を手は繋いだまま俺の腕へとうずめるようにしてきた。


「…今…顔見ないで」

「…わ、わかった、見ないから…」


彼女の照れた顔を見たいのは山々であったが…俺もおそらく彼女と顔を合わせられないくらいに真っ赤になっているだろう、俺も今の顔を見られるのはごめんだ。

 そんなこんなで非常にいたたまれない雰囲気になりながら、それでも手はしっかりと繋いだまま夕飯の買い物をしたのだった。


□ □ □ □ □


放課後デートからようやく部屋の前まで来たのは良かったのだが。


「頼むッ!!拓磨ん家泊めてくれ!!」


この状況である。

なぜか部屋の前で待っていた宗助に捕まったのだ。宗助に理由は聞いたが「親と喧嘩して家を追い出されたんだ!」らしい。ちなみに俺は既にこの理由で宗助を複数回家に泊めている。高校生で一人暮らしのやつなんてそうそういないし、そうそう友達の親に親と喧嘩したので泊めてくださいなんて言えないだろう。というわけで俺の家ということである。


「また追い出されたのか…」

「頼むよぉ!このままじゃ野宿になっちまう!」


このご時世子どもを家から追い出す家なんてそうそうないと誰もが抱く感想であるが、こいつの家は本当にそれをやってのける。本人もしょっちゅう「考え方が古いんだよっ」と愚痴っている。

 普段ならいつものあれか、と泊めてあげるのだが、なにせ今は状況が違う。一人暮らしではないのだ。もちろん今俺の隣には笹原さんがいる。今は笹原さんと暮らしてるから前みたいに泊めてやれないなんてとてもじゃないが言えない。さあ、どうする俺!考えろ考えろ–––と今年度一番じゃないかというくらい思考を巡らせていると––––


「いーじゃん拓磨。可哀想だし泊めてあげなよ」

「えっ、いやでも」

「アタシはいいからさ、ほら島くんも困ってるし」

「ほらっ拓磨っ。笹原さんもこう言ってくれてる」

「いや、その」


どうしたものか。いろいろまずい。笹原さんもなんてことをしてくれたんだ…。


「なんだ?なんかやましいことでもあるのか?笹原さんも連れてるし、もしかしてお邪魔だった?」


このニヤニヤ顔である。くそっやっぱ泊めてやりたくねぇ。


「ちげーよ!?そういうんじゃねぇよ!?」

「またまたー、女を家に連れ込むとかそういうことだろー」

「偏見がすぎるな!?」


そんな俺らのやりとりをぼーっと見ていた笹原さんは、


「ホントに違うんだよ、てかアタシの家もここだし」


Oh…。ぶっこみやがった。

宗助は「えっ?えっ?」となにがなんだかわかっていないようだ。


「だから、アタシと拓磨は同棲してるの」


Oh…。もうだめだ、これはもうだめである。


「おいっ!拓磨どーいうことだよ!詳しく聞かせろっ」

「わかった、わかったから。これだけは約束してくれ、他人には言いふらすな、これが今日泊める条件」

「おう、任しとけ!」


結局泊めることになってしまった。

こいつのことだから口外はしないと思うが…。あとで質問攻めにされるだろうな…。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る