第7話 新しい朝の一コマ
しまったぁぁぁぁ!
二度寝といっても一時間ぐらいで目が覚めるだろうといつもの調子で予測していた俺がバカだった。
現在時刻は午前十時。
貴重な休日の午前中の半分以上を消化してしまったのである。
学校がある日はいくらでも寝ていたいのだが、休日となると午前中から有意義に時間を使いたいと思ってしまう。
みんなもそんな経験あるよね?まぁ、人の価値観は人それぞれだが。
それにしても–––––
「いつまでそうしてるつもりなんだ…」
なんと
「何時に起きた?」
「んー、たぶん八時半くらいだったかなー」
「一時間半もずっとこうしてたのか」
「そだよー」
「…なぜに?」
「拓磨の寝顔でも見とこ〜と思って」
これまた可愛らしい理由を述べながら、俺の背中にまわしていた両腕に力を込めてくる。
ぎゅーーーーって感じで。
ぎゅむぎゅむ、ぎゅむぎゅむ。
かわいいなぁ!おい!
「あー、拓磨照れてる〜、かわいいなぁもう」
おそらく今誰から見てもわかるくらいに俺の顔は真っ赤なのだろう。あぁ、やばい、顔が熱い。
「…照れて、ない」
「ごまかなさいでいいのにー、ではもう少し拓磨の体温を満喫させて頂くとしますか」
「えぇとーあのー笹原さん?いや、えっと俺、もうやばいからっ!」
「なにがやばいの?」
「トイレっ!!」
そう言い訳を残し俺は力ずくで彼女の腕から抜け出し、逃げ出すように部屋を出た。彼女はぶーー、と残念そうにしていたが。
しょうがねぇじゃん!理性が限界なんだよっ!俺みたいな童貞には刺激が強すぎるんだよっ!
□ □ □ □ □
ばしゃばしゃばしゃ。
俺は煩悩を消すため、顔をいつもより激しく洗った。
それからトイレを済ませ、リビングのほうへ出向く。すると、キッチンのほうから包丁の音が響いてきた。
キッチンのほうを見ると、エプロン姿の笹原さんが料理をしていた。新婚さんの朝ってこんな感じなんだろうかと柄にもなくそんなことを考えてしまった。
俺が興味深そうに手元を覗き込むと、サラダを作っているのだろうか。千切りにされたキャベツが目に入った。コンロには味噌汁が火にかけられている。
「座って待ってて〜もうすぐできるから」
「お、おう」
言われた通りにダイニングテーブルにて笹原さんを待つ。自分の家のはずなのに、なんか落ち着かない、そわそわしてしまう。テーブルの上には既に箸とコップが準備されている。さすがに全部彼女に任せてしまうのは申し訳ない。
「なにか手伝うことあるか?」
「んー、じゃあ、そこのサラダをテーブルに持ってくのとー、ご飯もよそってくれる?」
「わかった」
俺は彼女に言われた通りにサラダを運び、ご飯をよそった。俺がご飯をテーブルに運んだときには朝食がずらりと並んでいた。
白ご飯に卵焼き、焼き鮭に味噌汁、そしてサラダといった健康的で和食を主とした朝食だ。
俺は基本料理が得意でないため、誰かの作った料理を食べるのは久しぶりであったりする。
見ているだけで食欲がそそられた。
う、うまそうだ!
はやく食べたそうにしていることが彼女に見抜かれたのか、彼女はどうぞ食べてと言ってくれた。
「いただきます!」
「ふふっ、そんな大したものじゃないけどね」
「いや、十分すぎる!まじでうまそう」
「そー言われるとちょっと照れるな〜」
ふむ、まずは味噌汁から。ズズッと一口
な、なんだこれ…う、うますぎる。
インスタントの味噌汁と最初から作るのはこうにも違うものなのかと驚いてしまう。
彼女のほうを見ると、俺に微笑みかけて、どう?と聞いてくる。
「う、うめぇ、笹原さん、天才だよ」
「それはよかった、これからはどんどん手料理振る舞うからね!」
「俺は幸せ者だよ!」
「そ、そう?」
思ったままのことを言っただけなのだが、彼女は少し照れたようにモジモジしている。
ふむふむ、笹原さんは褒めちぎると照れるのか、ふむふむ。
箸は食べ終わるまで止まることはなかった。ほかの品もお店かと思うくらいに美味しかった。
ふと、笹原さんが口を開いた。
「ねぇねぇ、その笹原さんってのやめない?
私は拓磨って呼んでるのに、拓磨が私のことさん付けで呼ぶのも変じゃん」
「そう言われてもだなぁ」
「私も下の名前で呼ばれたい〜ねぇ〜」
「いきなりはちょっとなぁ、呼びづらいというか」
「じゃあ、昔みたいにみっちゃんでもいいよ!」
「それは逆にハードルたけえな!?」
「じゃあ下の名前でいいじゃん〜、徐々にでいいからさ!お願い!今日は一回だけでもいいから!」
「い、一回だぞ、今日は」
「じゃーあ、どうぞ!」
「い、言うぞ」
ごくり。
「…み、
どれだけへたれなんだよ俺。
「は〜い!えへへへへ♡」
おぉ、嬉しそうだ。
彼女はすごく満足そうだった。
「はい!今日はこれで終わり!もう今日は許してくれ!」
「しょうがないな〜、徐々に呼んでよ?」
「わ、わかってるって」
ちゃんと徐々に呼べるようになれるか不安だったが、ちゃんと呼べるように努力はしようと思う。こんな料理を作ってくれるので、せめて彼女の小さいお願いだけでも叶えてあげたい。
それにしても、学校で普段見せているような不良っぷりを忘れるくらい可愛かったな。
この姿を俺へ向けてしかしてこないだって思うと優越感がすごい。
俺はこんな生活で理性を保つことができるのであろうか、一番そこが不安だった。
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