第10話 執務室

私は、彼を家に瞬間移動させると同時に意識を奪って拘束していたウラトルの連中を拘置所に転送した。


そして、ノアの執務室に戻ると、


「ご苦労様。」


「どうも。もう彼いないから我慢しなくていいわよ。」


するとノアは、


「ぶっ、あははははは!」


「その笑い方は相変わらずなんだから。」


まとう雰囲気は昔とは全然違うのに笑い方は全く変わっていない。私もノアといるとつい気が抜けてしまう。



「だってあいつ、めっちゃ震えてたぞ!生まれたての小鹿みたいだ!久しぶりに笑ったなぁ・・・ところでなんであいつなんだ?他にもたくさんいただろ?」


「彼がいいんだってば。圧倒的な魔力を持つ人間が集まる寮に今更強力な魔法師なんていらないの。」



そう、ゼウシス寮において、強力な力を持つものなど必要ない。ほしいのは私たちにない力を持つ人間。そして、彼こそが私の欲しかった人材。




「ふーん。お前がいいなら別にいいけど。報告書楽しみにしてるよ。」


「アハハ!それこそ笑っちゃうわ!ぜーんぶ知ってたくせに。」


「はー?なんだそれ?」

 

「とぼけないで。あれ、ウラトルじゃないでしょ。ノア、あなたが指示したんでしょう?私を連れ戻すために。気づかないとでも思った?」


「流石だな。降参(笑)」


「隠す気なかったでしょ。」


「さあな。」


また、そうやってはぐらかす。別にいいけど。最近聖騎士の力が弱まっているのは知っていたから、いつか何かすると思ってたけど早すぎない?まだ入学して1ヶ月よ?それにわざわざこんなことまでして。聞きたいことはたくさんあるけれど、今聞いてもノアは答えてくれないだろう。


「じゃあ私は久しぶりに寮に泊まるわ。手続きはよろしくね。」


「あぁ、任せろ。明日には完了させるようにしておく。」








ノアと話しているうちにすっかり暗くなってしまった。ここに来るのは久しぶりだ。何も変わってない。誰かが掃除してくれてるんだろう。4年前私がここを去った時と全く同じだ。





どうして私が彼をスカウトしたのか。



初めて彼にあった時はただの好奇心だった。彼は、異質だった。魔力は無くてもその瞳にはどこか彼を思い出させる。



彼はもういないのに。



なぜか目が離せない。




彼の才能にひかれたのは事実だが、それだけではない。


魔法の使えない聖騎士なんて聞いたことがない。


私は彼に蜘蛛の糸を垂らしただけに過ぎない。ここまで登ってくるかは彼次第だ。



これからの期待を胸に秘め、私は誰もいない談話室のソファーで眠りについた。




「早く、ここまでおいで・・・」

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