11話・お好きな味は?

「まずは魔法について、簡単に教えるね。んと、ボク達のまわりにあるもの、すべてに精霊が宿ってるんだ。そのなかで魔法では特に火、水、風、木、土、光、闇が多いね。魔法を使いたい精霊の名を呼んで願いをアタマの中で想い描く。そして叶えてもらうための対価に魔なる力、魔力まりょくを渡すんだ。その想いや願いに精霊が答えてくれると、魔法になる」


 こんなふうに、とアリスが手をかざしながら呟いた。


「水の精霊よ!」


 ぽちゃんという音がして、指の先にピンポン玉くらいの水球ができた。あと、一瞬だけど、なんだか水色の小人さんが見えた気がする! あれが精霊なのかしら?


「これくらいなら、ほとんど力を渡すことはないんだけど、すごい威力の魔法は渡す魔力も多くて、使える人は限られるし、使えても日に一回がいいところなんだ。この前や、ここに移動してきた時に使った空中散歩なんかは、けっこう力がいるんだよね」


 そう、ここは城から少し離れた森の中。先程、人生初お姫様抱っこを経験してきました。ひょいと軽々かるがる抱っこされてしまい、とてもびっくりしたわ。可愛いけれどやっぱり男の人なんだなぁと改めて認識しました。


「渡した魔力は自然に回復するんだ。普通にしてるとゆっくりで、休んだり、寝たりすれば回復もはやい。体力と一緒だね。風の精霊よ!」


 今度は、小さなつむじ風が起きた。あ、今度は小さな羽が見えたような。


「精霊にとって魔力はお菓子なんだろうね。なくても生きられるけど、ついつい食べたくなる。だからかな、精霊の気分がのらない時なんかに魔法が失敗することもあるんだ。実は人それぞれ魔力に味があって精霊に好みもあるのか、願いを聞いてくれる精霊がかたよったりするなんて話もあるんだ。ボクは特に水と風の精霊と相性がいいみたい」


 ふむふむ、相性もあるのか。この前のはけっこう惜しかったのね。水よ、でろーじゃなくて、水の精霊よって言えばよかったのか。


「じゃあ、やってみようか!」

「えっ?」

「魔力があるのは判ってるし、実践してみよう」

「はい」


 できるのかな。ドキドキしながら、手をかざす。よーし、初日のリベンジだ! まずは水ね! アリスみたいに小さい水の塊を思い浮かべてっと。今度は成功するかな?


「水の精霊よ」


 しーん。


「水の精霊よ!」


 しーん。


「水の精霊さーん?」


 沈黙が流れる。

 やっぱり風にしてみよう。涼しい風よふいてください!


「風の精霊よ!」


 しーん。


「風の精霊さーーーん!」


 しーん。


 風の精霊さん、あなたもですか! かざした手が恥ずかしい!


「なんで魔法でないのー?!風の精霊よー!!」


 私の無駄な叫びと、哀しい沈黙だけが流れていた。魔女の才能があるって聞いたんですけどー!?

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