第15列車 キハ281系 最後の雄姿

 北海道には数々の列車、車両が存在する。多くの車両は、JRを利用してくれる「お客様」という人を乗せて、人々の目的地まで運んでくれる。それは、高速道路の普及や街の活気、会社自体の経営などによって変わってくることもある。

 2022年9月30日、北海道初の振子式特急形車輛「キハ281系」が札幌~函館間を結ぶ「特急北斗」の定期運用が終えた。

 同年10月22日・23日、キハ281系の最後のお客様を乗せて走るラストランが行われた。

 そう、キハ281系は後から出たキハ283系と違って、他の列車としても走らない「引退」というものである。

10月23日、私は東室蘭ひがしむろらん駅に来ていた。絵に描いたような曇りと青空が室蘭市内には広がっていた。そして、冷たい風が何かを導いてくれるような札幌方面の風向きだった。

 10時41分、東室蘭駅5番線では、列車の接近案内が流れると共に函館方面から「ピィー!」という高い汽笛が2回ほど鳴らしながら、高速でキハ281系は東室蘭駅5番ホームに入線。その姿は、とてもたくましく、まだまだ活躍できそうなぐらいである。そして、東室蘭駅でも数々の鉄道ファンたちがその札幌行き「キハ281系ラストラン」の最後の雄姿を持ち前のカメラで撮影する人もいた。

 10時42分、車掌が指さし確認しながら、笛で「ピィーピッ!」と鳴らし、乗降ドアが閉まる。「発車」という声に出し、運転士に「発車オーライ」という合図である「連絡ブザー」を押す。キハ281系は汽笛を鳴らし、エンジンを唸らせながら札幌に向けて走る。列車は定刻通りに東室蘭駅を出発した。

 列車は、東室蘭を出ると次の停車駅は終着の札幌だ。普段の特急北斗とは違い、登別、白老、苫小牧、南千歳、新札幌には止まらない。臨時列車というのもあって苫小牧とサッポロビール庭園には運転停車をする。東室蘭を発車するとキハ281系は札幌方面への最後のエンジンを力強く唸らせながら走ってゆく。車内は鉄道ファンや年配の方々など年齢幅広く乗車していた。私は、キハ281系と共に巡る思い出を走馬灯のように駆け巡っていた。登別を通過し、トンネルを駆け抜けたら沼ノ端までは一直線に樽前山たるまえさんをバックに高速でかつての最速のスーパー北斗を乗っているかのように街並みをあっという間に駆け抜けてゆく。終着駅までの時間と距離が刻一刻と迫ってゆく。苫小牧駅が近づくと、列車は減速を始め、駅に停車した。すると車掌が「運転停車する」というアナウンスが出た。苫小牧での運転停車をした後、すぐに苫小牧を発車。キハ281系が入線した苫小牧駅3番線、お隣の4番線には、かつては「レッドトレイン」と呼ばれた50系客車から改造された「キハ143形」が停車している。その列車も次のダイヤ改正では引退が決まっている。両ホームが互いに1年差ではあるが引退するもの同士が並んでいる。

 苫小牧を過ぎ、途中の沼ノ端、植苗、旧美々駅を通過。沼ノ端から先、列車は千歳線に入る。南千歳駅手前で列車は、新千歳空港から来た快速エアポートが南千歳駅に入線する。同時にキハ281系はスピードを少し落としながら、快速エアポートと並走するように通過。キハ281系札幌方面最後の南千歳駅を通過、当然のことだが帯広・釧路方面の列車や空港への行く列車の乗り換えなどはない。南千歳から先は、いつもとは変わりないスピードでサッポロビール庭園まで走ってゆく。サッポロビール庭園では、先ほど南千歳で抜かした快速エアポートを優先するために運転停車。これが最初で最後のキハ281系がサッポロビール庭園に停車する瞬間である。

 サッポロビール庭園を過ぎれば、札幌まではノンストップ。列車は、エンジンを唸られせながら途中駅を通過していく。恵庭市内、北広島市内の街並みをどんどん過ぎ去ってゆく。北広島駅を通過してまもなく車体は右に傾きながたカーブに差し掛かる。札幌方面に向かって進行方向左側には、北海道日本ハムファイターズの新本拠地兼新球場「HOKKAIDO BALLPAKA FVILLAGE」が見えてくる。まだ未完成ではあるが、2023年に行われるプロ野球の試合では、ここで行われる。プロ野球界では新しい時代が切り開かれようとする中、この列車は引退し、廃車され、振り子式特急という一つの時代が終わろうとしている。コンクリートの建物とステンレスの長方形8個分との世代交代する瞬間である。

 上野幌を過ぎれば、まもなく新札幌を通過し、いよいよ札幌まで残り僅かとなる。車掌が手動で電子チャイムボタンを鳴らし、放送を行う。札幌までの残り到着時間、到着番線、札幌からの各方面乗り換え列車の案内、車掌によるキハ281系特急スーパー北斗 札幌行きのさよなら放送を行う。このさよなら放送では、車掌自身も幼い頃、図鑑でキハ281系を見て、憧れを持ち、JR北海道に入社し、車掌として初めて乗務したのがキハ281系だったそうだ。車掌も思い出深いのだからラストランに乗務できたことは大変誇りに思うことだろう。それはどの時代においても、人と繋ぐ物語、人と鉄道が結ぶ物語がある。キハ281系を開発した技術者や開発チームが度重なる苦労と知恵が生まれたから従来よりも速く、快適で、便利に札幌~函館間を往復し続けてきた。キハ281系の技術者や開発チームの汗と涙の塊がそこにあったからであろう。キハ281系が登場してから整備に携わった人や運転士や車掌、列車を見送り続けてきた駅員、車内外の清掃をやってきた清掃員、それぞれがこのキハ281系に愛着があったに違いない。

 列車は、高架区間に入り、いよいよ札幌駅が近づいてくる。汽笛を鳴らしながら、札幌駅8番線に入線。午後12時17分、キハ281系下り特急スーパー北斗 札幌行き到着。そしてキハ281系特急スーパー北斗 下りは28年間の歴史に幕を閉じた。

〜第15話完〜

 

 




 

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