第14話
「ごめん! 気にしないで。いきなりあなたシーナさんなんて言って気持ち悪かったでしょ!」
「…シーナって…」
「ほんとごめん! その人ね、私の好きな写真ブロガーなの。作風が似てたからもしかしてなんて…ごめん!」
「もしかして…いつもコメントくれてる…ライカちゃん?」
「うそ…ほんとに…シーナさんなの? 私の事…覚えてくれてたの?」
「憧れのカメラの名前だしね。」
この名前を付けてくれた父に初めて感謝した。
「ごめん、俺がシーナでガッカリさせちゃっただろ…」
「そ、そんなことない! 名前からてっきり女の人かと思っていたからビックリしたけど。でもまさか同い年の人だとは思わなかった。写真、上手すぎるもん!」
「そんなことないよ。」
「あるよ! 私がいくら頑張っても絶対撮れないようなの撮ってる!」
「ライカちゃんにはライカちゃんの作風の良さがあるよ。」
「あるのかな、そんなの…。」
「あるある。」
シーナさん…いや、シーナ君はニコニコして言った。
「来月からここに通うんだね。もしかしたら一緒のクラスになるかもな。」
「…なんだか変な感じ。憧れのブロガーとクラスメートとは…」
「そう言われると何だかこそばゆいな。」
シーナ君は照れた。照れた顔は普通にカッコよかった。きっとシーナ君を好きな女子はたくさんいると思う。その目がファインダーを覗いて、その指がシャッターを押して、素晴らしい世界を切り取るんだ。私はほんの少しジェラシーを感じていた。シーナ君の才能に? それともシーナ君とリアルで会えていた彼の同級生の女子たちに? …全部だ。たかが一ファンのくせに、名前を憶えてもらっていただけで彼が私に属していると感じてしまうおこがましさ! 隼人の顔が浮かんだ。してもないのに浮気した気持ちになった。
「ライカちゃん、ごめん、俺、もう行かないと!」
「あぁ、うん、じゃあね。」
「うん、入学式で。」
シーナ君は帰っていった。本名を聞いておけば良かったと思った。家に帰ってシーナ君のブブログを見た。今日の桜の写真が投稿されていた。
「…すごい。同じ場所から撮っていたのに何でこんなに違う写真になるんだろう…」
私はさっそくコメントを書いた。
(幻想的でとてもきれい!)
書きたい事はたくさんあったけど、書けなかった。
(今日はありがとう。4月から楽しみにしてます。)
シーナ君からすぐに返信があった。昨日まで知らない人だったのになんだか変な気持ちがした。この美しい写真を撮る人と私は現実で出会ったのだ。
夜に隼人から連絡があった。隼人は仙台の話をたくさんしてくれた。私の撮影はどうだったと聞かれたけど、私はシーナ君の事を話さなかった。胸の奥が重く感じた…。
入学式には桜はもう散っていた。高校の制服を着ると、自分が高校生に見えるのが不思議だった。隼人とお互いの母親と一緒に入学式へ行った。体育館前の掲示板にクラスと名前が張り出されていた。隼人とは違うクラスになった。シーナ君はどのクラスになったのだろうと気になった。保護者は先に体育館に入って、生徒はそれぞれのクラスへ行った。番号の席に着くと、さっそく隣の女子が話しかけてきた。そうしていると、他の女子たちも話かけてきてくれた。新しい環境で友達が出来るか不安だったけど、それは杞憂に過ぎなかった。
私はシーナ君を探した。しかし彼はこのクラスにはいなかった。入学後、移動の時や休み時間に時々シーナ君を見かける事があった。向こうも私に気付いていたけど、お互い友達と一緒だったり声を掛けられる状況ではない時ばかりだったので、まともに話はできなかった。放課後は隼人と一緒に帰った。
「友達出来た?」
「うん。隼人は?」
「たくさん出来た。その中でもさ、スッゲー気が合うヤツがいてさ、そいつもカメラが趣味なんだ。今度来佳にも紹介するよ。そうだ! 週末三人で撮影に行こう!」
もしや…と思ったら、案の定、私の感は当たった。週末待ち合わせ場所に隼人と現れたのはシーナ君だった。
「来佳!」
隼人は私とシーナ君が知り合いだという事を知らない。隼人はシーナ君に私の事をどう話しているのだろう? そしてシーナ君は隼人の彼女が私だということを知っているのだろうか? 私と会ったことを話しているのだろうか?
「コイツ、すでに俺の親友と言っても過言ではない、椎名章宏。こっちは俺の彼女で高島来佳。ライカって名前、すごいだろ? 来佳の親父がカメラマニアでさ、娘に自分のカメラの名前付けたんだ。」
「こんにちは、来佳ちゃん。隼人の彼女さんなんだったら苗字で呼んだ方がいいかな…。」
「いいよ、そんなの気にしなくって。な、来佳!」
「う、うん。」
「じゃ、来佳ちゃん、よろしくね。」
シーナ君はニッコリ笑って言った。まるで初対面のようなフリをしている。入学前に私と会ったことは隼人には言ってないのだろう。急にシーナ君との間に距離を感じた。私は他人なんだと思った。ずっとブログでコメントをやり取りしていたせいで、自分はシーナ君にとって特別なんだと勘違いしてしまっていた。シーナ君にとって、私は仲のいい男友達の彼女にしか過ぎない。胸の奥がモヤモヤした。本心ではシーナ君に隼人の彼女だと知られたくなかった。そんなことを思うなんて隼人に失礼だ。私はなんと酷い人間なのだろう。
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