第15話
私たちは港に面する赤レンガの倉庫街に撮影に行った。それぞれ好きなところを撮って、しばらく撮影したら集まって写真を見せあって、そしてまた散り散りに撮影した。私は港に停泊している船のところへ行った。船から伸びる鎖にカモメが何匹もとまっていた。私は夢中でシャッターを切った。ふと振り向くと後ろからシーナ君がこっちを撮っていた。
「ごめん、いい後ろ姿だったから。」
「顔は撮んないでね。」
「どうして? モデルやって欲しかったのに。」
「私は無理だよ~。」
「そんなことないけどな。」
シーナ君は横に来てカモメを撮り始めた。
「隼人と同じクラスだったんだ。」
「うん。」
「隼人、どこ行ったの?」
「あー、さっきまで一緒だったんだけどな…。そのうち来るだろ。」
「そっか。」
「隼人の彼女だったんだ…。」
「え?」
「中学の頃から付き合ってたんだって? 隼人が自慢してた。俺の彼女、め~っちゃ可愛いんだぜって。」
「そんなこと言ってたの? 隼人ったら勝手にハードル上げちゃって!」
「実際可愛かったし、いいじゃん。」
シーナ君はそう言うと私にカメラを向けた。
「やめて~! 前からは撮らないで~!」
シーナ君はイタズラっ子のように笑った。
「残念だな~。俺、一緒のクラスになってないかな~とか、廊下とかで合わないかな~とか、けっこう探したんだよ。まさか一番仲良くなった友達の彼女だったとは!」
「シーナ君…」
「来佳! 椎名! めっちゃいい写真撮れた! 見る?」
隼人が息を切らせて駆け寄ってきた。
「お~! さすが巨匠! いいの撮ってんじゃん!」
シーナ君はさっきの会話も無かったことのように隼人と普通に会話した。
「そろそろ何か食いに行くか?」
「そうだな。」
その場から離ようとしている時、シーナ君がコッソリ言った。
「ごめん、変な事言って。無かったことにして。」
そうしようと思った。何か生まれそうなこの気持ちに蓋をしよう。私は隼人の彼女だし、隼人は何も悪く無い。それどころかずっと一途に私を大事にしてくれている。そうしよう。それ以来、私はシーナ君に何の感情も抱かないよう努力した。
季節は過ぎて、私と隼人は続いていて、シーナ君にも彼女が出来た。だけど、それは長続きしなくて、1,2か月で別れた。そんな事が2,3回あって、隼人は冗談めいて彼に言った。
「お前、一生独身決定だな!」
「あのな~、結婚で失敗したくないから今俺は学んでる最中なの!」
「俺はどんな巨乳が来ようと来佳と結婚する!」
「俺も来佳ちゃんが彼女だったら一生大事にするよ!」
シーナ君のいきなりの言葉に、急に心臓がドクンと音を立てた。
「なぁ~んてな、親友の彼女を取るなんてありえねーだろ! アホか!」
「いくらお前でも来佳は譲らねえ! 代わりにこれやるよ!」
「これ、明日までに提出の数学の課題じゃねーかよっ!」
隼人とシーナ君はふざけあって大笑いしていた。放課後の教室に柔らかい日差しが差し込んでいた。ずっと笑っている二人を見ていたいと思った。この瞬間が永遠だったらいいのに。しかしそれは突然終りを迎えた。
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