第11話 

「おまえ、この期に及んでまだ絵美香を食い物にする気かよ!」

真宙だった!

「何なんだ、おまえは!」

裕一郎は立ち上がって真宙を睨みつけた。真宙は裕一郎の胸ぐらを掴んだ。

「さっさと失せろ。こっちはお前を社会的に葬る材料くらい揃えてんだよ。」

裕一郎は思い当たることがあり過ぎるのか、顔色を変えてその場を離れようとした。

「絵美香は俺の女だ! 二度と近づくんじゃねーぞ!」

真宙は裕一郎に向かって怒鳴り上げた。私はすかさず裕一郎に会計伝票を叩きつけた。裕一郎は逃げるようにその場を去って行った。真宙は裕一郎が座っていた席にドカっと座った。

「ヒーロー参上。」

真宙はニヤニヤしながらそう言って私を見た。

「一ヶ月も音信普通で?」

「それは、その…。見てもらった方が早いかな。来いよ!」

真宙は私の手を取って表へ出た。そしてパーキングに止めてあった彼の車の元へ連れて行った。

「どうぞ!」

彼は助手席のドアを開けた。そして運転席に乗り込んでエンジンをかけた。

「オ疲レ様デシタ 真宙サン。絵美香サン、オ久シブリ デス。オ元気デシタカ?」

「ナビー!」

私は思わず声を上げた。

「あんた、私の車からいなくなったと思ったら真宙のとこに来てたの?」

「今回ノ 希望ルート ノ ナビゲーション ハ 真宙サン ノ ルート ヲ 含メテ 最終到着地点ト ナッテ オリマス。コレニテ 希望ルート 完結 デス。オ二人ノ 人生 モ 良キ ドライブ ニ ナリマス ヨウニ。サヨウナラ。」

そう言うと、ナビは消えた。

「一ヶ月、待ち遠しかった。俺、我慢してたんだぜ。」

「え? 私てっきり真宙に嫌われたんだと思ってた。あれから全然連絡無かったし…それに…なるほどねって、それだけしか言わないで…。」

「ん?」

真宙は分かってないようだ。

「キスしたじゃん! その後「なるほどね」って言っただけで、ずっと連絡なかったでしょ! 普通嫌われてると思うよ。それに、なるほどねって何なのよ!」

「連絡しなかったんじゃなくて、連絡出来なかったんだよ。あの後、絵美香を誘おうと思ったら俺の車にあのナビがいつの間にか入っててさ、絵美香が希望ルートを選んだから一ヶ月は絶対に連絡しないでくださいって言われてさ、絵美香のマンションにナビを設定しても到着まで740時間とか出るし…。それに絵美香も、私は別れてすぐ男つくるようなインラン女じゃないのって言ってただろ? 俺的には別にすぐでも構わなかったけど、絵美香が気にするんだったら時間空けた方がいいのかなって…俺なりに絵美香に気を遣ってたの! だからナビの言いつけ守っておりこうさんに連絡しなかったの!」

「連絡しないと何かいい事でもあるってことなの?」

「ナビが…二人の再会がドラマチックになりますって!」

「なんなのよ、それー! ナビめー!」

「でも俺、一番劇的なシーンにカッコよく登場しただろ?」

「ま…確かに。裕一郎にバシっと言ってくれてスカっとした。ありがと…。でもさ…あの時の…なるほどねって…何なのよ?」

「あれは遺伝子レベルで合うかどうか確かめただけ。」

「そんなのキスしたくらいで分かるの?」

そう言うと、真宙はいきなり片方の腕で私を引き寄せ、もう片方の手で私の手を取り指を絡めてきた。そして濃厚な長いキスをした。

長い長いキスだった。

自分の存在が無くなっていくような感覚に陥った。

私と真宙の境が無くなっていく。

永遠のように感じた。

長いキスが終わると真宙は顔を離した。まっすぐ私を見つめて言った。

「分かった?」

私はニヤリと笑って彼に言った。

「なるほどね。」




終り


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