第7話

「そう言えば何?」

真宙が聞いてきた。

「いや…何でもない。」


言えない…。あの時お前、私が30になって誰とも結婚してなかったら結婚してくれるって言ったよな! 今こそ実行してもらおうか! などとは言えはしない…。昔のたわごとを後生大事に引きずっているキモい女と思われてしまう。伏せておこう。その時、ナビがまた話し出した。


「目的地ニ 到着シマシタ。マズハ、車ノ 中カラ 左手、カフェ ヲ 御覧下サイ。」

二人同時に左にあるカフェを見た。

「あっ!」


私は思わず大声で叫んでしまった。窓側の席にあの女がいた! 真宙の彼女だ! 男と仲良くお茶している。真宙を見た。彼は横を向いたままで表情がわからない。すると彼は突然私の方を向いて尋ねた。

「坂井、おまえどう思う? あれ、瑠香だよね?」

「瑠香っていうの、あの人? 名前までは知らないけど、確かにさっき真宙のマンションにいた人だね…。」

「坂井、お前から見て、あの二人はどういう関係に見える?」

再びカフェの二人を見てみた。男が何か言うたび、女はバカウケしている。そしてテーブルの上に置いた手を握った。

「…言うまでもないんじゃない?」

「…そだな…。」

その時、ナビがまた話し出した。


「香川瑠香サン ニ 関スル 画像ヲ 検出シマシタ。」

ナビの画面には、水着姿で男に寄り添っている写真やクラブのようなところで外国人男性とキスしている写真など、真宙以外の男と一緒にいる写真が映し出されていった。

「まあ、何となくそんな気はしていたけどな…。」

「真宙…。」

「俺ちょっと行ってくるわ。」


真宙は車から降りてカフェに向かった。修羅場かぁ…。どうしよ…。帰ってきたら何て言ってあげたらいんだろ? てか、もしも向こうの男と乱闘になったらどうすればいいの! 私はハラハラしながらカフェを見た。真宙はカフェに入って行った。まっすぐ瑠香のところへ向かっている。席に近づくと瑠香に話しかけた。瑠香は慌てたようで顔が引きつっている。瑠香は男に何か言って、真宙とカフェの外に出た。真宙は瑠香に話しかけている。瑠香は最初怒っているような態度を取っていたが、そのうち泣き出した。真宙は瑠香に手を振ってこっちへ向かってきた。瑠香はカフェの中へ入って行った。


「わりぃな。」

「い、いや、全然。てか、大丈夫なの、彼女?」

「別れてきた。」

「え!」

「そりゃそうなるだろ?」

「ま、そだね…。真宙は大丈夫なの?」

「俺? ま、別に瑠香にめちゃめちゃ惚れて付き合ったわけでもないし…。」

「惚れてもないのに付き合えるの?」

「ま、顔が好みだったからな…。」

「顔が良ければいいの? 性格とか重要じゃないの? 信じられない。」

「男は多かれ少なかれそうだよ。」

「じゃさ、顔がめっちゃ好みだったらクズでも付き合えるわけ?」

「ま、ぶっちゃけそかな…。」

「サイテー。」

「俺は正直なだけだ。」

「じゃ、何も心配することないね。顔だけだったんだからね。」

「…そうなんだけど…何だ…この辺が急に重くなってきた。苦しい…。」

真宙は胃の辺りを抑えた。

「大丈夫? 何か悪いもんでも食べたんじゃないの?」

ふと真宙を見ると、彼の目からは涙が溢れて出していた。

「真宙…。」

「あちゃー、はずっ! 何とも無いと思ったけど…俺やっぱこたえてるわ。」

やっぱり…。フラれた腹いせに顔だけで付き合ったなんて虚勢張ってたけど、本当は好きだったんだね…。



「デハ、次ノ 目的地ヘ ゴ案内イタシマス。」

ナビが突然また話し出した。

「って、何なの、このナビ?」

真宙は泣きながら笑った。

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