第6話

「私ハ アラユル データ カラ 情報ヲ 得テ イマス。安心シテ 下サイ。エミカサンハ ストーカー デモ 変質者デモ アリマセン。」

真宙はぷっと噴出した。何かイラつく。


「デハ、新規目的地ヘ 向カイマス。オ二人トモ シートベルト ノ 着用ヲ オ願イ シマス。」

「新規目的地って、どこ行くんだろ? とりあえずシートベルトしようぜ。」

真宙はシートベルトを付けた。え? これから二人でドライブするの?

「最初ノ 角ヲ 右ヘ 曲ガッテ 下サイ…」


とりあえず、ナビの言うがままに車を走らせた。車は駅前通りを走った。ちょうど桜が咲いていて、桜のトンネルになっている。本当だったら今頃は裕一郎と温泉に行く途中、桜見物をする予定だったのだ。あの野郎の事を思い出すだけで吐き気がした。そんな気持ちが顔に出ていたのであろう、真宙が憐みの表情でこっちを見ていた。感のいいヤツめ。


「お前さ、昔から男見る目無かったよな。」

「え、そんなことない。」

「そうだったじゃんか! 最初に付き合ったヤツ、男子の間じゃ総スカンされてた男だったし。」

「あ~アイツ? あれは確かに外見だけだった…。」

「次のヤツも酷かったぞ。あいつおまえとの事、全部俺らに暴露してたからな…」

「はぁ~! マジで? 何で教えてくれなかったのよ! 酷い!」

「こっちに文句言われても…。俺ちゃんと止めたじゃんか! お前聞かなかっただろ! 付き合い始めても、ずーっと止め続けたよ、俺は!」


確かに真宙は止めてくれていた。あいつはあんまりいい噂聞かないから止めとけと…。でもその時の私は恋が始まると止められなかった。まるで暴走列車のようだったのだ…。


「でもさ、具体的にハッキリ教えてくれないとわかんないじゃん!」

「ハッキリ言ってたらお前傷つくだろ。」

「…そっか。そだね。」

幼稚園の頃からの付き合いだけあって、真宙は私の事をよく知っている…。私は突如思い出した。そうだ、真宙はそう言った!

「そう言えばさ…」




 あれは中三の終わりだった。受験が終わって卒業式まであと何日かという頃、例の二番目の彼氏にフラれた時だった。それを本人から告げられた後、私は悲しくて誰とも話したくなくて、休み時間に一人プールの裏で泣いていたのだ。彼氏からフラれた事が、全世界から自分を否定されたように思えて、自分の悪いとこばかりが次から次へと頭に浮かんでどうにかなりそうだった。私はただひたすらうずくまって泣いていた。


「そんなに泣くほど価値のある男かね?」

後ろから声がした。振り向くと、プールの脱衣所の屋根に真宙が座ってこっちを見ていた。

「何で知ってんの?」

「噂って速いからね~。」

「ほっといてよ。」

「別に構ってるつもり無いけど…」

「じゃ、あっち行って!」

「俺の方が先にここにいたんですけど…。」


私は真宙を相手にするのを止めて、また自分の殻に閉じこもった。その時、彼は予想もしなかったことを言った。

「坂井~、30になって、お前が誰とも結婚出来なかったら俺がしてやるよ。」

「え?」

「だから~、そん時は俺がもらってやるから心配すんなって!」

「何で? 何で真宙が? つか、あんた、私の事好きだったの?」


思わぬ愛の告白に、私の心臓は爆発寸前で顔が真っ赤になった。もはや私を振った野郎の事など忘れ去っていた!

「別に…好きってわけじゃ無いけど…。ま、嫌いじゃないけどな…」

「は?」

爆発寸前の心臓は急激にクールダウンし、顔の赤みは引いていった。


「好きでもないのに何でそんなこと言えるの!」

「いや、ちょうどいい遺伝子の配合かと思って…」

「何なのよそれ! わかった。じゃ、私が売れ残ったら絶対結婚しろよ! 絶対だからな!」


私は怒ってその場を去った。それ以来真宙とはまともに話をしていない。卒業後、彼は遠くの全寮制の進学校へ行って、もはや地元で会う事も無くなった。


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