第5話
入口横にはトイレや風呂らしき扉があった。そこを抜けるとかなり広めなワンルームだった。左側にキッチンとリビングスペース。壁に大きなテレビとその前に革製のソファが置いてある。右側はベッドスペースになっていて布団がはぐったままの状態。さっきまで彼女と一緒に寝ていたのだろう。生々しい…。
「そこ座っといて。」
真宙は顎でソファの方を指した。私は遠慮なく座らせてもらった。皮なので固いのかと思いきや、柔らかくて座り心地が良かった。
「それ、横のスイッチ押してみて。」
真宙の言うままにスイッチを押すと、なんとリクライニングした。飛行機のファーストクラスのようではないか! 大きな窓から注がれてくる優しい光が心地いい。
私は目を瞑ってみた。このまま熟睡できそうだ。もしや、これがナビの言っていた希望と言うものか? って、いきなり訪れた元同級生の家でふんぞり返るってのが希望か? いったい私をどんな女にしたいんや、ナビよ!
ふと、コーヒーのいい香りがしてきた。鼻をヒクヒクさせ、臭いを嗅いだ。朝の幸せな風景って、こんな感じなのですね! そんなことを思っていたら、いかん、顔がにやけてしまっているではないか。起き上がって真宙を見ると、ヤツはそんな私をあざ笑うようにニヤァ~っと眺めている。昔から頭の良かった彼の事だ。単純な私の考えていることなどお見通しなのだろう…。きっと坂井は昔と変わらずアホだと思われているに違いない。ああ嫌だ、10年ぶりの再会と言うのに…。
「どうぞ。」
真宙はテーブルにコーヒーを置いてくれた。
「ありがとう。」
普段私はコーヒーに砂糖もミルクもたっぷり入れて飲む派なのだが、真宙の淹れてくれたコーヒーは、ブラックだったのにとても美味しかった。
「で、どうしたの?」
「え?」
「何か大事な用事でもあったんでしょ?」
「…そういうんじゃないけど…」
「だって、今までずっと音信不通だったのに、連絡も無しにいきなり部屋に訪ねてくるってよっぽどでしょ!」
「まぁ…そう思われてもしょうがないよね…」
「え? もしかして何の用事もない訳?」
コクリと頷いた。
「マジで! じゃ、何で来ようと思ったの? つか俺の家、どうやってわかったの?」
「それは…」
これ以上隠していると完全な不審者扱いされそうだったので、私は朝からの事を話した。話の流れ上、裕一郎の事を隠しておくのは難しかったので、しょうがなく包み隠さず言うことにした。真宙はそれを普通に聞いてくれて普通に災難だったなと言ってくれた。真宙にナビの事を話しても信じてもらえるとは思えなかったけど、彼は目を真ん丸にして食いついてきた。
「それ…もし本当だったらすごいね…。ちょっと俺もそのナビ試していい?」
「いいけど…でも車には乗れないかもよ。勝手にロックかかっちゃうから。」
真宙はいそいで身支度を始めた。私は飲み終わったコーヒーカップをキッチンに持って行って洗った。キッチンには食器が二組ずつあった。きっとさっき怒って帰っていった彼女の分も置いてあるのだろう。
「おまたせ! 行こうか!」
二人で部屋を出て車へ向かった。真宙は助手席の方へ回った。ロックを解除した。真宙はすんなりとドアを開け、中へ入った。
「普通に入れたね。」
真宙は車の中をキョロキョロと見回した。
「エンジンをかけてないから大丈夫だったのかも。エンジンかけてみるね。」
ブレーキを踏んでエンジンのボタンを押すとナビが画面に現れた。ナビを操作してもないのに何故?
「エミカサン、オ疲レサマ デシタ。マヒロサン、初メマシテ。」
「うわっ! こいつ俺の名前知ってやがる!」
「私が教えたんじゃないよ!」
私は身の潔白を訴えた。
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