最終話 センパイは異常すぎる童貞
★★★(佛野徹子)
その日の夕方。
自宅で、晩御飯を作っていると、メールが来た。
炒め料理だったので、一段落するまでチェックをせずにいると、連投。
……あの
見ないでも分かった。
連投はやめなさいと前に言ったのに。
ようやく落ち着いたので、スマホをとってメールをチェックすると。
『センパイすみません秘密がバレました』
『下村センパイの趣味の事です』
『何故かバレちゃいました。ひょっとすると南出さんはオーヴァードかもしれません』
『あ、南出さんっていうのは、クラスメイトの女子の名前です。情報通で通ってます』
『私はどうするべきなんでしょうかセンパイ』
『センパイ!お願いします』
『センパイセンパイセンパイ』
『センパイセンパイセンパイセンパイセンパイセンパイ』
『どうして答えてくれないんですか』
……最後の方、ヤンデレ入ってるね。
前に言ったじゃん。相手の生活サイクル考えなって。
この子、他人のために怒れるところもあるのに。
何でこうなんだろう?
まぁ、それはそれとして。
……確かに、この子が多少泡喰うのは分かるかな?
まずいかもしれない。
私の嘘で、文人が寝取られ属性のド変態と広められるのは。
彼、努力してたもんね。
大っぴらに自分の悪口を言う人間が逆に叩かれるような状況を作るために、穏やかに、優しくを心がけてた。
変に注目を浴びないように。かつ、理不尽な目に遭わないように、舐められない程度の自己主張を忘れないで。
何も無い顔してるけどさ、それ、アタシは知ってるからね。
それを壊すの、耐えられないよ。
彼に合わせる顔、なくなるじゃん。
……まずったなぁ。
よかれとおもってしたことなのに。
相方に迷惑かけるのはツライ。申し訳ないよ。
……でもまぁ、とりあえず返信。
『ゴメン今読んだ。まずいことになったね』
送信。
するとすぐに返信があった。
『どうすればいいですか?』
『アタシがちょっとどうなんとかするか考えるから、とりあえずなにもしないで』
……この子が絡むと、余計こじれる気がしたんだ。
さて、どうしよう。
腕を組み、アタシは頭を回した。
とりあえず、南出という子に接触するのは確定。
その子になんらかのアクションを起こさないとはじまんないし。
問題は、どう接触するか?
問題がひとつ。
アタシ、その子の顔知らないんだよね。
あと、ほぼ学校中の女子に嫌われてるから、女子の協力を仰げない。
……うん。なにげにキツイかも。
……女子がダメなら、男の子……。
ミヨマツちゃんのクラスは、A組だったっけ?
A組で、卒業させてあげた子……あ、確か一人居たっけ。
野球部の子。
補欠やってた子。
練習すごい頑張ってるのに。
確か、
えらく感激してて、嬉しかったなぁ。あのとき。
あの子に聞いてみよう!
きっと、協力してくれるはずだよ!
次の日。
「乃太郎君」
1年A組の教室に昼休みに伺い、乃太郎君を訪ねた。
野球部らしく坊主頭の彼は、アタシに気づくと恥ずかしそうに
「あ、佛野先輩こんにちは」
久しぶりに会ったのだし。
いきなり本題ははしたないのでまずは近況を尋ねる。
「その後、野球の調子は?」
「レギュラーとれるかもしれません」
「やったじゃん!」
褒めてあげると、喜んでくれた。
「ありがとうございます」
嬉しそうにしてくれる。
可愛いね~。
「彼女は?」
「……そっちはまだです」
「諦めないでね」
まぁ、大丈夫でしょ。
卒業前よりは確実に自信もついたみたいだしね。
「最初の優しさを忘れちゃだめだよ~」
アタシが彼の肩をバンバン叩くと、彼は
「優しいのは佛野先輩だと思います」
「お世辞でも嬉しいよ。ありがとね~」
といって、微笑んで
「あ、そだ。用事あったんだ」
と切り出した。
「……南出さんって、どの女子?」
「……ああ、情報屋の何でも屋さんの南出ですか」
乃太郎君は快く答えてくれた。
「あいつです。窓際の席の、ちょっと天パ入った髪短めの」
……あぁ、居るね。
ちょっと小悪魔っぽい、情報関係強そうな子。
「ありがとう!乃太郎君の幸せを祈ってるよ!」
そう一言、お礼を言い、アタシは問題の子に近づいた。
「あなたが南出さん?」
アタシがそう声をかけると
「おや、佛野先輩ですね。御用ですか?私に?」
彼女は、多少小生意気な感じで、悪戯っぽく微笑んだ。
★★★(南出加代)
昼休みの残り時間が気になりましたが。
私を訪ねてきてくれた佛野先輩が「ちょっといいかな?」って仰るので。
人気の無い階段の踊り場まで出向きました。
で。
「松田さんから色々聞いたと思うけど」
いきなり話を切り出されました。
「それ、嘘だから。松田さんを諦めさせるための嘘」
はぁ。
やはり、その話ですか。
しかし。
それで、騙せると思います?
舐めないで下さい。
「それこそ嘘では?先輩?」
だって全てしっくりくるじゃないですか。
謎が全部消えるんですもん。
下村先輩と佛野先輩が本当は恋人同士で、かつNTR趣味があるって説明。
下村先輩本人は、そんなことをしそうにないように見えますけど、人は見かけによらぬものって言いますしね。
いやむしろ、ああいう真面目そうなタイプこそ、変態趣味を持ち合わせている。
これが世の中の真理なんじゃないですか?
「いやいやいや」
手を顔の前で振り、佛野先輩は必死で否定しますが。
誤魔化そうとしても無駄です。
私の目は誤魔化されません。
ベッドの上で下村先輩に虐められて興奮している佛野先輩がハッキリと見えますから。
私には。
どうせ好きでもない男の子とエッチしたことで下村先輩に詰られて、泣きながらメスの目をして脳が溶けるほど感じてしまってるんでしょ?
で、そんな佛野先輩を見て、下村先輩はもうハッスルすると。
「大丈夫。全部分かってます」
私は、出来るだけ優しく微笑みました。
特殊な愛のカタチ。
それを目の前で見せてくれたんですし。
興味深い、面白いものを教えてくれたんです。
笑いものにしようなんて思ってないですから。
「その金髪も、下村先輩の趣味なんですよね?」
★★★(佛野徹子)
どうしよう。
結局、南出さんは全く信じてくれなかった。
あの子、アタシと文人が恋人同士で、特殊性癖にハマってるって思い込んでる。
このままじゃ……
『えっ、下村君って、自分の女が他の男に抱かれてないと興奮しないの!?』
『酷い!女の子を何だと思ってるの!?最低だよ!!心の病気だとしても!!』
『ひでえNTR野郎!!』
『いくら優しくても、女の子をそういう風に扱う男じゃね。意味無いよね。近づかないでくれる?』
『どうせ毎日読んでる本も寝取られものなんだろ!!?』
『ねーとーられ!ねーとーられ!ねーとーられ!ねーとーられ!』
……酷い。酷過ぎるよ……!
アイツ、平穏に潜伏するために色々頑張ってきたのにさ……!
辛い……!
嫌だ……アイツを裏切ることだけは……絶対に……!!
もう、他に手を思いつけなかった。
恥ずかしいことだ。
最低だと思う。
でも。
もはや、彼に縋るしか他に方法は……!
アタシは、FHのスマホ型端末を取り出して、彼を呼び出した。
『……何だ?』
「ごめんあやと。ちょっとまずいことになった」
自分が蒔いた種なのに。
自分で刈り取らず、文人に刈り取らせるなんて……!!
★★★(松田美代)
放課後。教室で。
いつも通りに部活に行こうとしていたら。
南出さんが私に声を掛けてきた。
「松田さん、ちょっとお願い」
……どうしよう?
この間、この子相手に大失敗して、秘密を知られてしまったから。
佛野センパイ、どうしてくれたんだろう?
……動くなって、言われてるしな……
「えっと」
「佛野先輩と、下村先輩に呼び出されてるから、ちょっと来て」
え?
★★★(下村文人)
さて。
誰か来る気配を感じる。
松田さんと、件の南出さんだろう。
僕らは、校舎裏で待機していた。
僕の隣には、徹子が並んで立っている。
なんだか、申し訳なさそうだ。
『ゴメン。あんたのこと、寝取られ属性の変態ってミヨマツちゃんに言ったら、それが広まりそう……』
いきなりFHの端末で通話が来たと思ったら。
何だそれは。
どうしてそうなったのかを話させて、対策を立てた。
第一案:全部徹子の妄想でした。
……自業自得だ。とは思えるかもしれないが。
それは忍びない。
仮にもこいつは僕の相棒だしな。
今現在だって、ヤリマンと陰口叩かれてるのに、この上虚言癖の妄想者って酷過ぎるだろ。
それにこの嘘の発端、僕を思ってのことだしな。
……まぁ、日常的に嘘は吐いてるけどね。
ホントの事は言えない面、どうしてもあるからな。
僕ら殺し屋だし。
第二案:その通りだと認めてしまう。というか、公認を目指しカップルですと明らかにする。そして浮気に関しては断固誤解で通す。
……これもまずい。
良く言うじゃないか。
良いことを続けていれば、それが売名行為でも、いつかは行動に心が引っ張られる場合がある。
だから、偽善でも良い行為を続けるのは良い。
しかし。
偽悪は駄目だ。いつしか、心が悪に染まる可能性がある。
だから、まずい。
第三案:何もしない。
NTR属性のド変態という噂を放置する。
広めるも留めるもお好きにどうぞ。
で。
僕が選んだのは、結果的には第三案だった。
まぁ、放置ってわけじゃないんだけど。
……あ、やってきた。
ふたりして。
髪の短いスポーツ少女と、天パの少女が。
隣を見る。
徹子もそわそわしていた。
僕のことを申し話無さそうに見つめながら。
ちなみに、解決策についてこいつには言ってない。
演技臭さが混じるとまずいと思ったから。
悪い。
徹子。
許せ。
★★★(南出加代)
「来ました」
中庭ではじめてお会いしたときから思ってましたけど。
こうしてみるとお似合いです。
背の高さも申し分ないですし。抱き合うと下村先輩の肩に、佛野先輩の唇が来る感じでちょうどいい。
下村先輩もわりかしイケてる方ですし、不釣り合いって感じしないです。
そんなお二人が、並んで立ってます。
うーん、絵になる。
こんな二人が特殊カップルですかぁ。
まるで漫画みたいですねぇ。
「忙しいところ、すまない」
下村先輩、頭を下げてくれました。
これで尊大な感じが無いんだから。
佛野先輩、すごく良い人捕まえたんですね。
まぁ、変態趣味はしょうがないのかもしれないですね。
これの代償だと思えば。
「いえいえ。お話ってなんですか?」
私は友好的にそう言いました。
何を話してくれるのか。楽しみだなー。
すると。
「……話すよりも、見てもらった方が早いか」
え?
一瞬、理解が追いつきませんでした。
何故って。
下村先輩が、佛野先輩の唇を奪ったからです。
私たちの目の前で。
佛野先輩、何も聞かされてなかったのか。
目を見開いて、下村先輩に頭を両手で押さえられて。
口づけを受けていました。
★★★(佛野徹子)
~~~~~~~っっ!?
ちょっと、ちょっと待った!!
何で!?いきなり!?
こういうの、あれっきりにしようって言ったじゃん!!?
事前説明もなく、いきなりされたので、動けなくなっているアタシ。
すると。
ぬるりっ、と。
アタシの唇を割って、文人の舌がアタシの口腔内に入ってきた……
★★★(南出加代)
すごい……!!
凄すぎます……!!
私たち以外誰も居ないこの校舎裏で、2枚の舌が舐め合うピチャピチャという音がやけに大きく響きました。
みるみるうちに、佛野先輩の目が変わっていきました。
トロンと蕩けて、目の前の下村先輩しか見てない感じ。
牝の目です。
間違いない!!
はじめて……みました……!!
ホンモノの……牝の目……!!
未知の感動に震えます。
二人の腕のポジションは見る間に変わり。
最初は下村先輩が佛野先輩の頭をホールドしている位置だったのが、二人で抱き合う形になりました。
そして、私は見逃さなかった。
佛野先輩の喉が動いています。
あれは、下村先輩の唾液を飲んでる動きです!!
あっ!
佛野先輩が下村先輩の背中に回している手が、強張り始めましたよ!?
ひょっとして、イッってるんですか!?
身体もなんか、ビクビクッと震えてますよ!?
キスだけで、イッてるんですか!!?
これ、なんてエロゲ!?
……私は今、ものすごいものを見せられているのかもしれません。
気が付いたら、泣いていました。頬を感動の涙が伝います。
ぱさり。
音がしたので隣を見ると、松田さんも泣いていました。
ウイッグを落としても気づかないほど。
つるっぱげで、泣いていました。
目の前で一対の男と女と化した先輩方が唇を離しました。
下村先輩の腕の中の佛野先輩、くてんとなって、目が蕩けています。
メスイキ後の顔って感じでした。
ちなみにメスイキには二つ意味があり、片方は男性のドライオーガズムを指す言葉ですが、もう片方は女性が理性を放棄して動物の牝のように絶頂に達することを指します。
主に、AV用語です。
当然この場合の意味は後者です。
本当の、演技じゃない真のメスイキが見られるなんて……!!
気が付くと、拍手していました。
「……この通り、僕たちは深く愛し合っているんだが、とても口外できない出来事で、僕はこいつが他の男に汚されていないと興奮できない身体になってしまったんだ……」
ぽたり、ぽたり。涙が落ちます。
下村先輩は、泣きながらそう告白しました。
漢泣きですね。
……素敵です。
「……よく、分かりました。もちろん、絶対に口外しませんよ。私の名誉にかけて」
涙で前が良く見えません。
「理解が早くて助かる……頼む。情けない話だけど……」
「そんなことないです。先輩はとても素敵だと思います……!」
そこまで佛野先輩を深く愛せるなんて……
愛されてる佛野先輩はきっと幸せだと思います。
でなきゃ、あんな表情にはならないはずです。
「……センパイ……私、センパイのこと、諦めます……」
私の隣のつるっぱげの松田さんも、ウイッグを拾わずに泣きながら、そう言いました。
「……とても入り込めない……2号さんも無理……それが……よく分かったから……!!」
完全敗北。
どこにも攻略の糸口なんて無い……。
それが分かったんだね。
可哀想だけど、しょうがないよね……
ここまで出来上がってしまってるカップルなんだもの……!
★★★(佛野徹子)
二人の下級生が、ぺこりと一礼して、去っていった。
天パとつるっぱげの女子が、この場を離れていく。
そして姿が見えなくなった瞬間。
アタシは相方の足を思い切り蹴飛ばしてやった。
「いきなり何すんの!!」
「いや、言葉でグダグダ言うより、行動で示した方が説得力あるだろ?」
ムカつくことに、相方は蹴っ飛ばしても全く痛そうな顔を見せないで、しれっとそんなことを言ってくる。
……アタシのイッてるところを、後輩二人に見られてしまった……!!
恥ずかしくて、死にそうなんだけど!
「……悪かった。事前に言ったら演技臭さが出るかもしれないって思ったから」
アタシの顔を見て、そう一言だけ詫びる彼。
アンタ、アタシが演技得意なの知ってるよね!?
言わなくても、キスだけでマジイキさせられるとか思ったんだ!?ふーん!?
異常過ぎ!
実際にマジイキさせられたアタシが言うのもなんだけど!!
「アンタ、キス2回目だよね!?」
「当然だろ」
「なんで2回目でこんなに上手くなってんの!?」
「1回目で大体把握した」
「はぁ!?」
ホント、この童貞、異常過ぎる!!
脳みそキモ過ぎ!!
ノイマンシンドロームは、脳神経を強化するシンドロームだけど、彼の場合、その度合いが異常過ぎて。
……マッハ5で動けるアタシの最高速度を、こいつ、目で追えるんだよね。
それだけでも「どんだけキモい脳みそしてんの!!?」ってツッコミ入るところだけどさ。
キス2回目で女をそれだけでマジイキさせるとか!
意味わかんない!
何それ人間!?
いや、オーヴァードだけどさ!!
こいつ童貞なのに!!
この、男の子卒業させまくって、経験人数3桁に到達しようかというクソビッチのアタシが、キスだけでイカされたぁ!!
悔しい!!ありえない!!
こいつを卒業させたら、多分アタシ発狂するね!間違いなく!!
いい精神病院予約しなきゃね!!そのときは!!
探しとこ!
「アンタのせいでパンツぐしょぐしょなんだけど!!どうしてくれんだぁ!!」
半泣きで蹴り以外にパンチも交えて彼を殴りまくる。
すると、彼は殴られながら。
ポケットから白いハンカチを取り出し。
アタシの目の前で、それを素材にパンツを錬成。
「ほら」
……はいはい。
何でアタシのパンツのサイズまで分かるのかなぁ?
彼の錬成したパンツを受け取りながら、アタシは思う。
……どうせ「目算」とか言うんだろうなぁ。
で、実際ピッタリなのが。
ホント、こいつの脳みそキモ過ぎる!!
(了)
FHエージェントがやべぇ一般人に狙われる話 XX @yamakawauminosuke
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます