第6話 あなたオーヴァードなの?
★★★(松田美代)
佛野サンの妻としての大変さと苦しみを知り、私は考えを改めた。
下村センパイは紛うことなきハイスペック男。きっと将来高額所得者になり、1万円札なんて便所紙ですよ!って生活を送ることになるはずだ。
その妻になれる女は、女の勝ち組。
けれど。
ハイスペック男って、やっぱどっかおかしいのかもしれない。
お金を大量に稼いで、他人に紹介しても恥ずかしくなくて、とても優しくて素敵。
そんな何から何まで至れり尽くせり的な、美味い話は無い。それが世の中の真理なんだろう。おそらく。
全部が全部100点なんて、子供の考えなんだ。きっと。
だから、どっかは妥協しなきゃいけない。
それが、現実的。
……だったらどうしたらいいのか?
私は次善の策を考え。
出した答えが。
まず、佛野サンと電話番号を交換し、メル友になることだった。
★★★(佛野徹子)
「私、佛野センパイの友達になりたいです」
おかしい子がそんなことを言い出した。さりげなく呼び方がサンからセンパイに変わってるのが恐ろしい。
全力で「お断りします!!」って言いたいところだけど、そうすると、この子、他の子のところに行くかもしれない。
……首を絞めちゃったのに、最近友達になってくれた千田さんのところに行かれると、アタシの立場、無いんですけど……。
アタシは人間のクズだけど、義理人情は守る女で居たいから……。
しょうがないので、アタシが日常づかいしている用のスマホの番号を教えた。
しかし。
アタシ、友達はほぼ居ないから、電話番号登録ガラガラなんで。
必要に迫られて仕方なくだけど、登録電話番号の数が増えたのはちょっと嬉しかった。
悔しい!
ちなみにライソはやってない。
だって友達ほぼいないもんね。
女子には嫌われてるし。
男の子はアタシの身体目当ての、あまり真面目でない子しか寄ってこないし。
(まぁ、そうなるように仕向けてるんだけど。男の子に関しては)
あやととは、FH端末で連絡とるからライソ関係ないし。
千田さんとはショートメール。
多分、この子、ミヨマツちゃんともショートメールで会話することになりそうだなぁ。
アタシが自宅で入浴を済ませ、寝巻で水道水の入ったコップ片手にスマホを見ると。
ショートメールが入ってた。
差出人は……ミヨマツ(この名前で登録)
10件くらい連投。
『今、何してます?』
『今、何されてます?』
『返事忘れてませんか?』
『気づかれてません?』
『ひょっとして無視してますか?』
『申し訳ありません。お気に触りましたでしょうか?』
『どうして返事くれないんですか?』
『すみません言い過ぎました』
『明日、直接謝ります』
『本当に申し訳ございません。許してください』
……この子、友達居ないのかなぁ?
まぁ、あの性格だしね。
かなり、自分勝手みたいだし。(加えて常識がヤバい)
あやとの話だと、剣道部で男の子の心を折って退部に追い込むのがライフワークだったんだっけ?
女子部員にはそういうことをしなかったらしいから、マウント取るのが目的じゃ無いんだろうけど。
そんなことをするに至った理由を知ることが、この子のことを知ることに繋がりそうだなあ。
……機会があれば、聞いてみよっかな?
まぁ、今は返事をしよ。
『ゴメン。ちょっとお風呂入ってた。アタシ、お風呂にスマホ持ち込まないから』
すると、すぐ返信が。
『それならそうと、早く言ってくださいよ!』
……あれ?
何でアタシ、文句言われてるの?
『そんな言い方無いんじゃない?大体、メールってチャットするために使うものだっけ?』
と、返信。
ちなみに、別に怒ってる気は無かった。
短時間連投をやめて欲しかっただけ。
そしたら、すぐに返信。
『すみませんでした!佛野センパイに嫌われたのかと思って!』
いや、嫌ってはいないけど。
(ムカつきはしたけど)
別に好きでも無いんだけどな。
『相手にも生活サイクルがあるってことを理解しなさい』
『申し訳ありません』
『で、何の用?』
『いや、今何をなさってるのかと』
……間違いない。
この子、絶対友達居ない子だ。
相手の事全く考えてないもの。
多分、自分勝手、というより。
想像する力が欠如してるのかもしれないね。
うん。多分相当しんどそう。
この子と付き合うの。
ただ。
『佛野センパイ』
……全然違うんだけどさ。
あの子に文句言われそうだけど。いくらなんでも一緒にしないでください、って。
FHチルドレン養成所で、はじめて出来た後輩の事をちょっと思い出しちゃったよ。
あの子はホントに良い子だったんだけどね。
……どこまで矯正できるか分からないけど。
ちょっと付き合ってあげるかな?
アタシは、そんな思いが強くなった。
あの子の事は助けられなかったし。
★★★(南出加代)
最近、松田さんが足繁く別教室に通うようになった。
今までは、休み時間はずっと寝てて、授業中もたまに寝てた子だったのに。
(で、体育の時間とお昼休みだけ元気いっぱい)
一体、どこに行ってるんだろう?
今日もお昼休みになると、松田さんは三段重ねの弁当箱を持って席を立った。
一体、どこに行く気だ?
私は、今日のためにお昼はアンパン一個。
親に言って、お弁当を作るのはやめてもらった。
松田さんを追うためには、身軽でないといけないと思ったから。
アンパンひとつを持って、私は松田さんをつけた。
松田さん、私につけられてるとも知らずに、とっとこ進んでいく。
一回も振り返らない。
……まぁ、悪いことでもしてない限り、尾行には普通気をつけないとは思うけどね。
つけていくと、屋上に出た。
ドアの陰から私はそっと覗く。
そこには。
「お待たせしました」
「いや、今来たところだから」
屋上で敷物敷いてスタンバイしている金髪モンスター美少女。
2年C組の、佛野先輩が松田さんを待ち受けていた。
「いつも思うけど、松田さんのお弁当、緑が少ないね」
「自分で作ってるんですけど、食べたいものを詰め込んだらこうなりました」
「あぁ、自炊してるのか。アタシもだよ……でも、だったら余計に気をつけなきゃ」
なんか、二人でお昼してる。
仲、いいんだろうか?
「松田さん、剣道の特待生でこの学校入ったんだっけ?」
「一応そうです」
「それで、部で揉め事起こしたらまずくない?部長さん、困り果ててたって聞くよ?」
「……申し訳ないです。私、男の体育会系を見ると、スポーツを辞めさせてやりたい衝動が湧いちゃうので……」
「どうしてそうなったのかなー?」
……うーん。
佛野先輩って、もしかして優しい?
あの松田さんに普通に接してあげてるし。
見た感じ、見下してる感じも無いし。
……何かあるのかなぁ?
ああいうタイプをほっとけないとかさ。
気になる!!
アンパンを齧りながら、私は二人を見守っていた。
★★★(佛野徹子)
……ギャラリー、居るなぁ。
隠れてるつもりかもしれないけど、アタシには分かる。
一応、これ系のプロだし。
ミヨマツちゃんに、そっと耳打ち。
「……聞き耳立ててる人が居るから、余計なことは言っちゃダメだよ」
釘指しておかないと、何を言うか分からないからね。この子。
「わかりました」
神妙な顔して頷く。
ちょっと常識無いけど、根はそんなに悪い子ではないのかもしれない。
ちょっと、思った。
剣道部男子をいじめてた理由をさっき聞いた限り、だけど。
発端は、昔この子が懐いてた近所のお兄さんがいじめられて、剣道場から叩き出されたのが許せなかったから。
それ以来、体育会系男子は悪党であると認識し、心を折ってスポーツを辞めさせることに正義を感じて、ずっと続けてきた、とか。
……うん。頭悪いよね。
体育会系だから全員性格悪いって、そんなわけないのに。
それなのに、一律扱いで、全体を敵視するなんて。
やってること、近所のお兄さんを剣道場から叩き出したやつらと一緒じゃん。
……思い込み激しい子なんだろうね。
全部、そこに起因する気がするなぁ。
でも、発端がさ。
自分のための怒りじゃないわけだし。他人のための怒りだし。
他人のために怒れる子なら、変われる目はあるんじゃないの?と思う。
「佛野センパイは部活は?」
「してないかな」
「どうしてですか?」
「ちょっとプライベートな事情」
まぁ、いつ仕事が入るか分からないからね。
それが大きな理由かな。
言えないけど。
「もったいないなぁ」
アタシの返答に。
ミヨマツちゃんは言った。
アタシの身体を見つめながら、
「佛野センパイ、筋肉の付き方、アスリート顔負けだと思うんですけど」
……まぁ、戦闘員の訓練受けてるし。アタシ。
こういうところはちゃんと見てるね。この子。
★★★(南出加代)
「松田さーん」
放課後になった。
私は、松田さんが部活に向かう前に、彼女を捕まえた。
「何?南出さん?」
「ちょっと待って。聞きたいことあるんだ」
「……これから部活なんだけど?」
「すぐ済むから」
周囲を見回し、誰も近くに居ないのを確かめる。
皆、帰ることや部活の準備でそれどころではない。
だから、そっと言った。
「松田さんさぁ、最近佛野先輩と仲いいよね?」
「恋敵じゃないの?」
彼女の顔色を確かめながら。
「……下村センパイのお嫁さんは諦めたの」
ちょっと辛そうだった。
嘘は言ってないな。内容は兎も角として。
私は思った。
そして続ける。
「それは辛かったね。……じゃあ、何で佛野先輩と一緒に居るわけ?」
「お嫁さんは駄目でも、2号さんならなれるかなぁ、って」
ふーん……。
さすが松田さん。
普通じゃないよ!!
「ということは、下村先輩は佛野先輩と付き合ってて、加えて下村センパイはNTR属性のド変態なのかな?」
2号さんということは、正妻さんが別に居るわけで。
この場合、正妻候補は佛野先輩しかありえないよね。
でなきゃ一緒に居る意味無いし。
ついでに先日の会話から予想した内容を、カマをかけるつもりで混ぜ込んで一言。
すると、松田さんは真っ青に。
……ビンゴ!!!
面白い!
面白いよ松田さん!!
わなわなと震えながら、松田さん。
絞り出すように。
「……南出さん……あなたオーヴァードなの?」
んなわけないじゃん!
オーヴァードなんて都市伝説!!
面白!!
面白いよ!!
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