第3話 理解できないクソビッチ
「あ、やっと見つけた」
私が泣いていると、南出さんが校舎裏にやってきた。
口ぶりからすると、私を探していたらしい。
「松田さん、話を全部聞かないで飛び出していくんだもの。その後何度も呼び止めても聞いて無いし」
「……何の用?」
ぐずりながら私。
「でも、遅かったみたいだね」
フゥ、と南出さんは嘆息する。
「……センパイにフラれた」
「だろうね」
「……すぐにでもナマでやらせてあげますって言ったのに」
「うん。色々間違ってるね」
南出さんは嘆息した。
「……で、何の用だったの?」
気になった。
南出さんは何を言おうとしていたのか。
すると、話してくれた。
「下村先輩、誰とも付き合わない、恋人作らない、って言ってるけど」
続く言葉が衝撃的で。
納得がいく言葉でもあった。
「多分嘘だから。先輩、彼女居るから」
「え!?」
だからなの!?
一体どんな女!?私のセンパイに!!?
次の日。
2年の教室に連れていかれた。
2年C組。
「ホラ、あの人」
出入り口から教室を覗き込み、南出さんが示した2年女子。
私は、電撃に撃たれたような衝撃を受けた。
……あれ?
ウチの高校、アイドル居たっけ?
自分の席で、一人座ってる女子。
尋常じゃない、美少女。
髪型は、肩のあたりで切りそろえたショート。
金髪。
胸が大きく、軽く見積もってGカップ。
でも、太っているというわけじゃなくて、腰はキュッと細くて。
おしりの肉付きも申し分ない。
背は高く、足も長い。この女子のスタイルの良さと相まって、モデルみたいに見えた。
目も大きいし、唇の薄さが清楚な雰囲気を出している。
完璧美少女。
「……あの人が、『見た目だけならH高女子最高』ミスH高の
「ウチの高校……あんな綺麗な女子居たの?」
「居たのよ。もうちょっと、周りの事に気を配ろうね」
多分女子で佛野さん知らないの松田さんだけだと思うよ、と続けられた。
なんか納得できなくて悔しかった。
「どうしてそう思うのよ」
「だって、佛野さん、男の子大好きで、不特定多数の男の子と付き合ってるらしいから」
彼氏作りたい女子にとって、天敵みたいな人なんだよね。
だから、H高女子は皆知ってるの。松田さん以外は。
さしずめ、ミツバチの群れに紛れ込んだオオスズメバチって感じの人だよ。
彼氏を狙われたら、喰われるしかない。そんな感じ。
だ・か・ら『見た目だけならH高女子最高』なのよ。
はっきり言って、ビッチだから。
「なるほど……」
ん?
でも、あの佛野とかいう人、下村センパイの彼女なんでしょ?
「言ってることと違くない?」
「何が?」
「だって、あの人がセンパイの彼女だって……」
「あぁ」
それはね、あの人、下村先輩とものすごく仲良しなの。
何でも、オナ中らしいんだけどさ。
どこの中学か知らないけど。
で、よく二人きりで会ってて、その仲の良さから考えて、どう見ても恋人だったって。
目撃者の談。
普段から名前でも呼び合ってるみたいだし。
だから、下村先輩の「誰とも恋人にならない」宣言、多分嘘なんだろうなぁ、っての。
皆言ってる。
何でなんだろうねぇ?
自分の彼女が不特定多数の他の男の子と遊びまくってるのに、それでも恋人だなんて。
えっと……
聞いてて、理解不能な話のオンパレードだ。
あの超美少女がセンパイの彼女で、その彼女が、日常的に他の男子と浮気してて。
それなのに、恋人関係継続……?
どういうことなの?
でも。
何でセンパイが、あれだけ迫ってもピクリとも反応しなかったのかは理解できた。
そりゃ、ちゃんと彼女が居て。その彼女があんなありえないレベルの美少女だったら、ちょっとやそっとの誘惑で動かないよね……!
据え膳食わぬはなんとやらって言うけど、限度あるはずだし。
……しかし、どうしよう……?
私の恋の成就には、あれに勝たないといけないなんて……!!
「どう?諦めついたでしょ?あんな美少女モンスターが相手じゃね?」
南出さんは、私の肩をポンポン叩きながら慰めてくれた。
だけど。
「……私、諦めない!!」
私の決意表明。
それを聞いた南出さん。
「……普通は、好きな相手に相手が居たら諦めるのが常識で良識だけど、まぁ、頑張れば?クソビッチの佛野先輩相手なら、許される気もするし」
苦笑しながら、私にエールを送った。
とはいえ。
どうしよう?
センパイに「彼女さんが浮気しまくってるのに悔しいとか辛いとか無いんですか!?」って言いに行こうか?
……無駄な気がするなぁ。そんなの、承知の上で付き合ってるんだとしたら。
じゃあ、あのクソビッチ彼女に「センパイと別れてください!!」って言いに行く?
……うん、それがいいよね。
我ながら、名案。
あの人が自分の非を認めて、関係を清算してくれればセンパイは真にフリーになるわけだし。
「というわけで、センパイと別れて欲しいんです」
「……えっと」
下校間際。
下駄箱でクソビッチ彼女さんを捕まえて、私は言った。
「お願いします」
「ゴメン、意味わかんないんだけど」
クソビッチ彼女さんは戸惑っていた。
「ですから!!!」
クソビッチ彼女さんに私は迫った。
自分の胸に手を当てながら。
「私、下村センパイと結婚したいんです!でも、アナタが障害になってるんで、大人しく身を引いて欲しいと!!」
「……あやとがそう言ったの?」
「言ってません!!」
「……ゴメン。ホント意味わかんない」
わかんない人だな!
★★★
学校終わったから帰ろうと思ったら。下駄箱の前で。
突然何か変な女の子がやってきて、アタシに「下村センパイと別れてください!」って言って来た。
……えっと。
全然、話が見えないんだけど。
見た目、気の強そうな、スポーツやってそうな、スラリとした女の子だった。
髪の毛も短いし、多分本気でスポーツやってるタイプ。
で。
言ってることが、明らかにオカシイ。
いや、アタシも頭おかしい方だけどね?
それよりもオカシイ気がする。
色々言いたいことあるけど、まずはこれから。
「まず、キミの名前知らないんだけど」
「1年の
「はいはいミヨマツちゃん、と。で、キミの要求が、あやとと別れて欲しい、と」
「はい!」
「で、理由は『あやとと結婚したいから』と」
「はい!」
「で、あやとの同意はとってない、と」
「はい!」
……返事はいいね。
言ってることはメチャクチャだけど。
「……まずひとつ。結婚って一人だけの意思でするもんじゃないよね?」
「そうですね」
「……じゃあ、何で先にあやとの同意を取らないの?」
「拒否されたからです!!」
「えっと……」
アタシ、国語の成績は昔と違って、並くらいまでにはなってるんだけど……。
何か聞き落としてるのかな……?
「じゃあ、その時点で終わりじゃん」
「諦めたらそこで試合終了ですよ」
その言葉の用法、おかしくない?
「いや、諦めようよ!!」
「嫌なんです!!」
……ああ。
なんか、人が集まってきたなぁ……
見られてる……どうしよう?
さすがに、こんな子とモメてるのを他人に見られるのは抵抗が……
「あーもう、話になんないからこれで終わり!!まずはあやとの同意を取ってからやってきて!!」
まぁ100パー同意なんて取れないけどね。
内心、そう呟く。
彼も私も、生涯独り身で、お互いを無二の友人ということにして生きて行こうって誓ったし。
だから、ありえない。
……ちょっと、意地が悪いことを言ってしまったな。
少しだけ、申し訳なく思った。
けど。
「佛野サン、よりどりみどりでしょ!?一人くらい譲ってくれてもいいじゃないですか!!」
……あ”?
この言葉を聞いた瞬間。
カチン、と来た。
★★★
「お前今なんつった?」
いきなり、クソビッチ彼女さんの雰囲気が変わった。
目が底冷えするように冷たくなり、声にものすごい怒りが籠っている。
それまでは、クソビッチの称号にあまり相応しくない、優しい雰囲気すら感じたのに。
喋り方に友好的な雰囲気が乗り、嫌な感じがしない人だな、と思ったのに。
「えっと……」
何でこの人、怒っているんだろう?
……正直、ゾクッとして、今、命の危険すら感じてる。
私、何も怒らせること、言ってないよね……?
どうしよう……怖くてたまんない……
クソビッチさんは、冷たい目で私をねめつけながら
「誰を譲る譲らないとか、意味わかんないことアタシの前で言うの、やめて欲しいなぁ?これ、アタシからのお願い」
……えっと。
ひょっとして、私の「一人くらい譲ってくれても」って言葉に怒ったの?
クソビッチなのに?
「……そういう考え方する子と話すことなんて、マジで無いから」
それじゃあね、そう言い残して、佛野さんは去っていく。
止められなかった。
下駄箱から革靴出して、帰っていく姿を。
……止めたら、何をされるか分からない。
そんな気がしたから。
「あのクソビッチ彼女さん、頭おかしい」
「それ、松田さんが言っちゃう?」
次の日。南出さんに昨日の体験を話した。
私の話を聞いた南出さんは
「……うーん。ちょっと、予想と違うねぇ」
困惑しつつも、なんだか楽しそうだった。
「佛野先輩は、下村センパイを譲れとお願いしたら、いきなり怒っちゃった、と」
「そうそう!意味わかんないよね!?ビッチなのに!!」
私はそれをクソビッチ彼女さんが狂人なのだと結論付けたんだけど。
「……うーん……」
南出さんは、違うみたいだった。
「……とんでもない思い違い、私してたかなぁ?」
「何が?」
私が聞き返すと
「……ひょっとすると佛野先輩、とんでもなく男性を大事にしている人かもしれないよ?」
「はぁ?」
私は、わけが分からなかった。
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