第2話 何で?どうして?

「あぁっ!センパイ!センパイのおっきな竹鉄砲が、私の子宮に届いていますぅ!」


私は、自室のベッドで全裸になり、身をくねらせていた。


「そのまま中でお願いしますっ!センパイの精子で、私の卵子を打ち抜いてください!っ!センパイの赤ちゃんを産みたいからぁぁぁっ!」


自分で自分の大事なところとおっぱいを弄りながら、私は今日10回目の絶頂に達する。

大好きな先輩との愛の営みを想像したら、何回でもやれてしまう。


ちなみに、今の想像は、誰も居ない剣道場で先輩に迫られて。

袴を脱がされ、道着半脱ぎで、正常位で愛される自分だった。


あぁ……想像するだけでまたゾクゾクしてくる。

はやくそうなりたい……。


壁には数枚の隠し撮りしたセンパイの写真が貼り付けられている。

これからもっと増やしていくつもりだ。

凛々しいセンパイの姿は、数があって困るものじゃ無いし。


こんな気持ちははじめてだった。

これが私の初恋なんだろう。


お兄ちゃんのことは好きだったけど、あれは今思えば、懐いていただけ。

恋愛感情では無かった気がする。

私に実の兄妹は居ないけど、多分兄に対する気持ちとあまり変わらないのではないだろうか?


全裸のまま身を起こし、私は部屋の大きな姿見で自分の姿を確かめる。


これまで一心不乱に剣道に打ち込んできたので、私の身体は締まっている。

腹部に贅肉はついておらず、うっすらと腹筋が割れている。

胸はあまりないが、この程度はウィークポイントにはならないはずだ。揉んでもらえるくらいはあるから。

乳首は小粒だし、乳輪もそんなに大きくない。色だって普通だ。何も問題ない。

太腿にはしなやかな筋肉が搭載されていて、張りのある触り心地だと思う。


あぁ……この身体を早くセンパイに愛してもらいたい……!

きっと愉しんでいただけるはず……!


顔の作りもそんなに悪いとは思えない。

クラスの子に「松田さんって目元キツイから、あまり怒らせたくないなぁ」って冗談めかして言われたことはあるけど、ブサイクだって言われた覚えは無いから。

男子も「松田、性格こええけど見た目は悪くない」って言ってたのを聞いた覚えあるし。


下村文人しもむらあやと

2年の先輩。


顔と名前しか知らないけど、どういう人なんだろうか?

でもきっと、素晴らしい人に決まってる。


あぁ……センパイ……好きです……


私はたまらなくなり。

壁に貼り付けた先輩の写真をペロペロ舐めた。




次の日。

昼休みに学校で。


「南出さん、ちょっといいかな?」


私は、1年で情報通と評判のクラスメイト・南出加代みなみでかよさんに話しかけた。

理由は、下村センパイについて聞くためだ。


今まであまり話したことはなかったけど、別段仲が悪いってこともなかったし。

多分教えてもらえるだろう。


「ん?何か用?」


南出さんはこちらに顔を向けてくる。

いけそうな感じだ。


「南出さん、2年の下村センパイについて知ってる?」


切り出すと、南出さんは面白そうな顔をした。


「突然だねぇ。何?センパイに恋でもしたの?」


「うん」


何も隠さないといけない理由は無いので、即答する私。

南出さんはそれに面食らったようで、ちょっと驚いていた。


「……誤魔化さないんだ。まぁ、松田さんらしいけど」


なんだか苦笑している感じで、南出さんは言った。

何で誤魔化さないといけないのか。センパイは素晴らしい人。

そんな人を好きになってどこが変って言うんだろう?


「下村センパイはねぇ……『H高孤高の王子』って呼ばれてる人」


曰く、学業成績、運動神経、容姿、全てトップレベルで。

加えて穏やかで気遣いが出来る人だそうだ。

男女共に人気があり、表立って嫌悪を示す人間は居ない人らしい。


女子で好きになる人、結構居て、告白しているらしいが、今のところ全員玉砕してるらしく。

断る理由が「すまないが、僕は誰とも恋人にならないって決めてるんだ」

何でそう決めてるのかは教えてくれないので不明だそうで。


……そっか。

センパイ、フリーなんだ……!!


私は運命を感じた。


「だから諦めた方がいいと思うよ」


よし。今日にでも告白しよう。善は急げって言うし!

念のため通販で買った勝負下着穿いてきて良かった!!


「おーい、聞いてる?」


特別、いやらしいのを穿いてきた。

きっと、気に入ってもらえるだろう。


「学業成績優秀って言ってたけど、具体的にどのくらい?」


「学年10位くらいらしいよ?こないだの中間試験の結果貼り出されてるから見に行ってみれば?」


「ありがと!!」


私は南出さんに礼を言い、教室から飛び出した。


「あ、ちょっと待って!!まだ話には続きが!!」




中間試験の結果が貼り出されている掲示板の前にやってきた。

この学校は、定期テスト成績上位者50位まで名前を貼り出す。

どうせ社会に出たら誰が出世した、しなかったは普通貼り出される。

それを今からやることで、優秀な人材の育成につなげる。

この学校は進学校で、一部の教師のやる気はそれなりに高いので、こういう制度があるのだけど。

今回ばかりはそれを感謝した。


いつもは、50位までに入った生徒にマウントを取られる要因になるのが若干ウザい制度だなぁ。

そう思っていたんだけど。


2年の10位……10位……


あった!!


『下村文人』


……本当だ!!

すごい!!


私なんて、ここに名前書かれてないのに!!

センパイ、頭本当にいいんだ!!素敵!!


センパイの恋人になれれば、将来安泰!!

センパイは何でもできるし、人間力も高いみたいだし!!

優しいし!!


きっと幸せになれる!!

相手選びとしては最高の選択のはず!!


絶対にモノにしなきゃ!!

私は決意を新たにした。


今日の放課後だ。

放課後、勝負をかける……!!




昼休みが終わった後。

私は5時間目の後の休み時間に教室を飛び出し、5時間目の授業の間に内職して作ったラブレターをセンパイの下駄箱に投函しに行った。


古典的だけど、効果的なはず。

センパイとの出会いの話と、差出人である自分の名前もしっかり書いておいた。


これで悪戯だとは思われないはずだ。


……はやく放課後にならないかなぁ?


教室に戻りながら、私はドキドキしていた。

これで明日からセンパイと恋人かぁ。

私なら、きっと選ばれるはずだから。


嬉しいなぁ。

どんな生活だろうか?


教室のドアをくぐると同時にチャイムが鳴って。


「あ、松田さん話が」


「はい、6時間目を始めるぞ~」


私が席に着くと同時に、6時間目の授業の教師が入ってきた。




そして。

待ちに待った放課後。


HRが終わると、私は教室を飛び出した。


「松田さん!待って!!」


目指すは校舎裏。

あそこは人気が無い。

古典的だけど、一番都合がいいのは間違いないし。



★★★



今日も学校が終わったので、帰ろうと思った。

で、下駄箱を開けようとしたら、誰かが中に何かをねじ込んでいた。

下駄箱の蓋の隙間から。


……何だ?


確認しないわけにはいかないので、僕は下駄箱の蓋の中央部に軽く触れた。


すると、イメージが流れ込んでくる。

どうも、誰かが僕の下駄箱に手紙を入れたらしい。


サイコメトリー。

モルフェウスのエフェクトだ。


物体に残留した思念を読み取り、そこで何が行われたか。

その物体の所有者が、何を思っていたのかを知るエフェクト。


非常に重宝する、使い勝手のいいエフェクトだ。


……手紙を入れた相手は、先日、剣道の仕合をやったあの子だった。

名前は確か、松田美代まつだみよ、だったか。


『これで、明日からセンパイと恋人』


とすると、ラブレター。

……断られる可能性、微塵も考えてない様子だった。

僕の噂、わりと有名だと思ってたんだけどな。

何で、そこまで思い込めるんだろう?


まぁ、告白してくる相手を無視はありえない。

断るにしても、会わなきゃな。


僕は下駄箱を開けてラブレターを引っ張り出し。

手紙が指定する校舎裏に向かった。



★★★



校舎裏に到着して、しばらく。

待っていると、センパイがやってきた。


やっぱり、素敵だ。

背も高いし。清潔感あってイケてるし。

これで優しくて賢くて強いなんて。

まさに王子様。


センパイはやってきて、私と向かい合うと、一言。


「この前、仕合した子だね」


あぁ……幸せ。

センパイ、覚えていて下さったんですね?


そこからもセンパイの優しさが伝わってきますよ。


「大事な話とは何かな?」


センパイは平然としていた。

その顔が驚きに変わるのが楽しみだった。


私は堂々と言った。


「センパイ!!私の彼氏になって下さい!結婚を前提にして!!」


「申し訳ないが、断る」


「ですよね!良かったー!!」


……


………


あれ?


今、ありえないことを聞いたような……?


「……えっと……?」


「噂では聞いて無いのかな?僕は、誰とも結婚もしないし、恋人にもならないって決めてるんだよ。すまないけど」


センパイは、淡々と言った。


「キミが悪いってわけじゃないんだ。全部僕の都合だから。だから、諦めてくれ。すまない」


えー………


センパイは軽く頭を下げて、立ち去ろうとした。


「待って!!」


私はセンパイを呼び止める。


センパイは振り返った。


「……どうしてですか?」


「いや、さっき言った通り。全部僕の都合だから」


センパイの様子は変わらない。


私は、意を決した。


「見てください」


スカートをたくし上げ、私は自分の太腿を晒した。


「……私を彼女にすれば、この太腿を好きにできるんですよ?」


太腿は、私の自信を持ってる部分。


そして。


続いて、制服のブレザーの内側のシャツをまくり上げ、お腹を晒した。

薄く腹筋が割れている、自慢のお腹を。


「どうですかこのすっきりしたお腹。このお腹を孕ませてパンパンにするとか。それが出来るんですよ?興奮しませんか?」


……お腹は、特に自信のある部位。

これで、堕ちるはず。


私はとどめの攻勢をかける。


「それにそれに!!今日は勝負下着を穿いて来たんです!!」


女の子の大事な部位を守る布地がカットされてるやつを!!

丸出しのやつを!!

そのまま種付けできるやつを!!


それを見せようとしたら。


「あー、ゴメン」


センパイが言葉を発した。

私は手を止めた。


「……キミ、告白したことは?」


「ありません!!」


「……だろうね」


なんだか、センパイの声が冷え切ってる気がした。

目も死んでる気がする。


「悪いけど、答えは変わらないから」


「そんな……!!」


どうして!?


「センパイの子供を産みたいです!!」


「諦めてくれ」


「センパイと私の子供なら、オリンピックで金メダル量産できるのに!!!」


「諦めてくれ」


「今日から種付けしてもらう計画だったのに!!」


「諦めてくれ」


「もう!!」


私は叫んだ。


「どうしてだめなんですか!!」


「それでイケると思ってるキミの常識がすごいね……」


何度も言うけど、答えは変わらない。諦めてくれ。

センパイはそう言い残し、背を向けて立ち去ろうとする。


………ここで逃がしちゃ駄目だ!!


私は、背を向けているセンパイめがけて、必殺技の踏み込みで距離を詰め、後ろからタックルをかけようとした。

そのまま押し倒し、センパイの大事なところを刺激して、その気にさせて、私を愛してもらう……!!!


だけど。


ひょいっ


まるでセンパイは、後ろに目がついてるみたいに、私のタックルをサイドステップで回避した。

ずさささっ


私はそのまま、地面をスライディングする。


「……悪いけど、もうキミからの手紙、呼び出し等は応じない。すまないね」


倒れた私を尻目に、センパイは去っていった。


センパイが去ってしばらく経った後。

私は、身を起こした。


「………」


土を、パッパと払った。

ペタン、と座り込みたかったが、アソコに土が入りそうだから思いとどまり、立ち上がった。


……どうして?


どうして?こんな可愛い女の子に、あそこまで迫られたのに。

何で、センパイは「うん」って言わなかったんだろう……?


理解できない……

何で……どうして……?


私は、フラれた。

それは、とても、惨めで。


辛かった。


涙が、こみ上げてくる。


「あっ………!」


何年ぶりだろう?


「う……」


うあああああああん!!


私は、声をあげて泣いたのだった。

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