第22話 二人で迎撃


「おお! よくぞ来てくれましたスグルどの!」


 ジュラの町長の屋敷の前に転移した私たちを、中年男が喜んで迎えてきた。

 だが周囲をキョロキョロとした後に首をかしげる。


「ルルはどこですか?」

「留守番だ」

「ははは、ご冗談を。この非常事態に魔法使いを連れてこないなどと」

「もう一度言うぞ。ルルは置いてきた」


 中年男が一瞬のうちに青ざめた顔になり頭を抱える。相変わらず感情表現が豊かな奴だ。

 

「そ、そんな!? ルルなしで東の町に勝てるわけがない!?」

「ここにルルの代わりの戦力がいる」


 私が木偶の棒たちを指さすと、中年男は訝し気に彼らを見た。

 その後にこちらを向いて叫びだす。


「こんな木の棒に何ができるのですか!?」

「お前を殺せる」

「すいません」


 人の作品をぼろくそに言われたので、つい語気を強めてしまった。

 中年男は私に怯えて一歩後ろに下がる。木偶の棒たちを見る目に恐怖が生まれたようだ。

 震えながら愛想笑いを浮かべる。


「た、たしかにこの木偶の棒様に叩かれたら痛そうだ……」

「様をつけるな俗物が。こいつの名前は木偶の棒だ」


 棒様と言われたら坊主を思い浮かべてしまう。こいつは決して寺の住職ではない。

 むしろ寺の素材側か木魚だろう。そもそもこいつの複数形名称は木偶の棒ズだ。

 すさまじく紛らわしくなってしまう。


「じ、実はですね。東の町からすでに最終通告が来てまして……すでに町の付近に陣も作られていて、降伏しなければ侵略すると」

「いいぞ。話が早くて助かる」

「……同じ国なのに一瞬で戦争状態になるなんて。何か事情があるのでは?」


 アリアの言葉に中年男はよくぞ言ってくれましたと叫んだ。

 その後くどくどと説明を始める。

 簡単に略すと東の町は王都の覚えめでたきにありけり、ジュラの町は儲かっていて目の上のたんこぶ。

 邪魔に見られているから、隙がある間に潰して利益を得たいと。


「こんな辺鄙な町に何の利益があるんだ」

「うちは少量ですが魔結晶が出るのですよ」

「魔結晶は魔法の杖などの媒体に使う物」


 ルルの杖を解析した時に魔力を集めている鉱石が取り付けてあった。

 あれの名称が魔結晶なのか。ちょうど調査したかったところだ。


「私に魔結晶をよこせ。代わりに東の町とやらを滅ぼしてやろう」

「滅ぼすって……東の町はうちの三倍ほどの規模ですよ?」

「キルスコアが三倍になるだけだ」


 六千人程度など物の数に入らない。

 しかも条約などの制限もないので手段は選び放題だ。敵が思ったより多いなら、木偶の棒を使わずに私がやってもいい。

 他にもデータを採りたい兵器はあるのだ。


「スグル、兵士以外はダメ」

「……向こうが仕掛けて来ているのにか?」

「一般人はダメ」


 アリアがやはり邪魔をしてくる。まぁ一般人相手だと大したデータはとれない。

 少しは譲歩してやるか。


「いやあのなんか勝てる前提で話してるけど。魔法使いなしに勝てるの!?」

「お前は今まで何を見ていたのだ」

 

 騒ぐリタに思わずあきれてしまう。

 お前にも科学の粋をこれまで何度も見せてやっただろうが。

 しかも目の前でその魔法使いにも勝ったのに、少し考えればわかるだろうが。

 

「木偶の棒のテストはやめだ。私とアダムだけでやる」

「アダムにお任せ」


 念のためにと連れてきたアダムが手をあげる。

 こいつのテストも行いたかったのでちょうどいい。

 アダムは木偶の棒と違って、敵がかなり強いか数がいないと一瞬で終わってしまうからな。

 

「ほ、ほんとうにやるつもり? 仮にも村長なのに」

「そもそもあの村の最高戦力は私だぞ」


 私があまり戦わないのは、他に試したい物があるからに過ぎない。

 電気ウナギ亜種のように強力な敵なら戦闘もする。

 今回の場合はせっかく敵の数が多いので、広範囲の兵装を試したいだけだ。

 

「アリア、東の村に対してこちらは二人で戦ってやると手紙を書け」

「わ、わざわざ挑発しなくてもいいのでは……」

「違う。少しでも対策をとらせるためだ」


 アリアが手紙を書いて中年男に手渡した。

 そして受け取った手紙の内容を見て、中年男は発狂した。


「な、なんですかこれ!? 二人が負けたらジュラの町と町長の首を差し出す!?」

「完璧だな。負ける要素がない上に、兆が一に負けても損がない」

「私は損しかありませんが!?」

「スグルは負けないです。そして逆に勝てば東の町の権利を、スグルが受け取ることになります」

「私は首だけ賭けて勝っても得がない!?」


 当たり前だ。何もせずに助けてもらってるだけのくせに。

 わめている中年男は放置して、町周辺に飛ばしたドローンの映像を確認する。

 最終通告をしただけあって、確かに町から少し離れたところに陣がしいてある、

 兵士も七百人ほどいる。少ないが六千人の町にしては集めたほうか。


「ちなみに東の町に魔法使いはいるのか?」

「いませんよ。いたらとっくにジュラの町は侵略されてます」

「面白くないな」


 ルルがいるとはいえサンプルは多い方がいい。

 可能であればもう少し魔法使いを確保したいが、今回は無理なようだ。

 

「では東の町の使者に手紙を渡せ。二時間後に私とアダムが仕掛けると」

「ほ、本当に二人でやるおつもりですか? しかも私の首をかけて!?」

「たしかにお前の言いたいことはわかる。二人は間違いなく過剰だ、だがアダムにもさせたいことがある」


 配分的には私が五百、アダムが二百だ。互いに兵装の最低範囲でのテストになるがしかたない。

 私の言葉が理解できないのか、中年男は頭を抱えてわめている。


「ああ……なんでこんなことに。東の町との戦いで疲弊していたら、近くの村が発展してると聞いて税が欲しかっただけなのに」

「あはは……スグルに関わったのが運の尽きだったね」

「幸運の間違いだ」


 私のおかげでジュラの町は正常な戦力を手に入れるのだ。

 仮にも町規模の防衛を魔法使い一人に頼るという歪を解消できる。

 それにこの町を拠点にして、工房を立ち上げる予定もある。

 未来の食品や道具を作成すれば儲かるのだから。

 

「まだ二時間待つ必要があるか……少しこの町を観光してくる」

「えっあの……戦闘の用意とかは……? 私の首がかかってるんですけど……」


 中年男のことは無視して、アリアやアダム、リタを連れてジュラの町へと繰り出す。

 魔道具店や肉屋の魔物肉などを見ているとすぐに二時間経った。

 正直少し遅れてもいい気もするが、敵に万全の状態で戦ってもらうために時間通りに向かうことにした。

 手紙で通告した場所である、ジュラの町の近くの平原へと転移する。

 そこでは東の町の軍が、完全武装でこちらを待ち構えていた。

 兵数をスキャンして数えると七百五十六人いる。

 何もせずに蹂躙するのも味気ないので、拡声器を手元に転送して敵軍に語り掛ける。


「私はスグル村の長だ。ジュラの町の代表として戦わせてもらう」

「我らジュプスの兵を舐めた罪、その命であがなうことになる!」


 敵も何らかの方法で声を拡大して、こちらに話しかけてくる。

 だがおかしなことを言う奴だな。私は決して敵を舐めていないというのに。


「一つだけ訂正しておこう。私は貴様らを舐めていない、正当に判断して相手にならんだけだ」

「もはや問答無用! 貴様を殺してジュラの町長の首をいただく!」


 あいつの首なら勝手に持っていってもいいんだがな。

 まるで私の命が中年男の前座のように言われている。これは許しがたい行為だ。

 電子コンソールを出現させて転送コードを叩く。

 私の眼前をふさぐように、巨大にそびえたつ物体が出現した。

 それは腕を持っている、それはキャタピラを持っている。

 それは両肩に砲台を乗せた巨大な金属の塊であった。

 上半身は人型、下半身はキャタピラ。全長二十五メートルを誇る大型マシン。


「見せてやろう、これが私の愛機ヴィントだ」


 目の前の機体を操り空へビーム砲撃を撃たせた。

 その光は空を割き、雲を割って、天へと延びて行った。

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